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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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24 クジョウの力



 C組Aチームのエース、クジョウに対し、A組Aチームはアライとカナメの二人がかりで襲いかかる。

 大方がクジョウとアライの一騎討ちを予想していたのだろう。想定外の展開に、観客から大きな歓声が上がる。

「なるほど、リスクを取ってでも私を潰しにくるとはね。君たちの決断力に敬意を表するよ」

 そう微笑みながら、クジョウはその手に巨大な炎の槍を出現させる。炎の中上位精霊術、『炎熱の騎士槍ファイア・ランス』。二年生でも使える者は限られる術だ。しかも、その大きさが一回りも二回りも大きい。

 対するアライも両手を前に突き出すと、その先から大きな氷の槍が姿を現す。『凍氷の騎士槍アイス・ランス』、氷の中上位精霊術だが、その大きさはクジョウのそれよりも一回り小さい。

 二人の手から放たれた槍は空中で激突すると、激しい風を巻き起こしながら炎と氷の粒となって宙へと消えた。

 それを見たヨウがつぶやく。

「幾分クジョウ君の方が押していたけど、アライ君も受け切ったね」

「この分だと、クジョウもかなり厳しいんじゃないかしら。カナメとアライの二人を同時に相手しなくてはならないんだもの。さあ、次のカナメの攻撃を受け切れるかしら?」

 チアキの言葉にカナメの方へと目をやれば、彼も精霊術を完成させようとしているところだった。一撃必殺の大技、『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』。アライの攻撃への対処の影響で、クジョウには大きな精霊術を構築する時間的猶予はないはずだ。

 両手のひらを合わせクジョウへと向けると、カナメの掌中に赤く輝く炎が現れ、その輝きを増していく。

「食らえ! 『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』ォォ――!」

 咆哮と共に、カナメが必殺の一撃をクジョウへと見舞う。放たれた炎は赤い柱となり、敵へと向かい真っ直ぐに突き進む。

 対するクジョウも、即座に術式を構築すると右手に新たな炎の槍を創り出す。

 速い! ヨウがその構築速度の速さに舌を巻いていると、クジョウは己に向かってくる炎の柱に向かいそれを突き出した。

 二つの炎はクジョウの目の前で激突し、まばゆい光を放ちながら炸裂する。激しい炎の嵐が吹き荒れ、その熱気は観客にまで吹きつけてきた。「っちぃ!」と、目の前に立つフィルが悲鳴を上げる。

 炎の帯が消え去り、立ち上がる砂煙の中からクジョウの姿が見えてきた。表情は涼しいものの、身にした制服はところどころ破れている。さすがの彼も、無傷とはいかなかったようだ。

 観客の興奮の叫びの中、チアキがつぶやく。

「このままいけば、先にクジョウが力尽きるでしょうね。結構効いているようだもの。シラカワも二人をうまく抑えこんでいるし、クジョウもこれは予想外じゃないかしら」

「そうかもしれないね。凄いやカナメ君、あのクジョウ君を相手にこんなに優位に立つなんて」

 そう笑いながら会場へと視線を戻したヨウの目に、全く動じた様子を見せないクジョウの顔が映った。ヨウの直感が、危険を察知する。

「なるほど、噂には聞いていたが大したものだ」

 劣勢に立たされているはずのクジョウの顔には、なぜか余裕の色が感じられた。

「君たちはきっと今こう考えているのだろう。クジョウは封じこめた、このままいけば勝てる、と。読みで上回り、圧倒的優位を築き上げた以上、それをくつがえすことなど到底不可能だ、とね」

「どうしたクジョウ、それは強がりか何かなのか?」

 アライが身構えるその横で、カナメが再び『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』の術式構築に入る。

 その様子を見つめながら、クジョウは薄く笑った。

「では見せてあげよう。君たちが築き上げた優位をくつがえす、圧倒的な力というものを」

 言うと、クジョウはカナメに向かい術式を構築し始めた。その精霊力の流れに、ヨウは思わず声を上げた。

「あれは――『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』!」

 アライもそれに気づいたようだ。カナメを守るように前に立ちふさがると、その顔に勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。

「最後の最後で判断を誤ったな、クジョウ! お前のその技を俺がしのぎ切れば、お前にはカナメの『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』を防ぐ術を構築する余裕はない! 俺たちの勝ちだ!」

 そう叫ぶと、アライも精霊術の構築を始めた。クジョウが『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』を放つと知り、防御に特化するつもりのようだ。

 対するクジョウの身体が赤く光り始めたかと思うと、その背後に巨大な竜の姿が現れる。クジョウが契約する上位精霊、ファイアドラゴンだ。以前ヨウが見た時よりも、その身体が一回り大きく見える。

 そして、早くもその術式が完成した。カナメよりも後から構築を始めたというのに、恐ろしいまでの完成速度であった。

 クジョウは、静かにつぶやいた。

「『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』」

 刹那、彼の後ろの竜の口から、目もくらむほどの光と炎がアライたち目がけて放たれる。と同時に、アライの精霊術も完成した。その手から噴き出した水流が、ぐるぐると円錐状に広がっていく。見覚えのあるその光景に、ヨウが目を見開いた。

「あれは、イヨ先輩の時と同じ!」

 ヨウの叫びに、チアキもうなずく。

「きっとカナメの指示だわ! 以前自分がやられた手を、切り札として準備してたのよ! アライの精霊力と制御能力なら、クジョウの『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』も防ぎ切れるはずと踏んだんだわ!」

 クジョウが放った炎が、アライの水の円錐の中へと吸いこまれていく。空をも焼く炎の柱は、その先の方からみるみる水に飲まれて消滅していく。アライの顔に、勝利を確信したかのような笑みが浮かんだ。

 その笑みが、次第に消えていき、やがて驚きの表情へと変わるのにさほどの時間を要さなかった。クジョウの炎は衰えるどころか、ますますその勢いを増していくのだ。対照的に、アライの円錐は徐々にその大きさを減じていく。

「バ、バカな!? ここまで防御に特化しているんだぞ!? なぜこちらが押されるんだ!」

 アライが叫ぶ。カナメも焦りが出たのか、術式の完成が先ほどよりも遅い。

 それでもようやく精霊術が完成したかというその時、クジョウは静かに告げた。

「これで……終わりだ」

 言葉と共に、クジョウが竜に残る力を全て解放する。竜が吐き出した炎は、水の円錐を全て蒸発させ、アライとカナメの身体を包みこんだ。

「ぐおおおぉぉっ!?」

「うわあぁぁぁー―っ!」

 炎は二人を飲みこみ、虹色の光と共に警報音が響き渡る。


 二回戦第一試合は、クジョウ率いるC組Aチームの勝利に終わった。





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