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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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23 奇策





 二回戦、第一試合。一年生会場も、間もなく試合が始まろうとしている。

 一年生の優勝候補同士の一戦だからか、はたまたノリコ・ミナヅキ会長は二年生の第二試合に登場するからなのか、この会場も一回戦の時よりかなり多くの観客で賑わっている。

「さて、カナメたちはどう出るでしょうね」

「やっぱりクジョウ君とアライ君の一騎討ちになるのかな。そうなるとカナメ君のチームがだいぶ有利になるね。さすがにカナメ君とシラカワ君が相手じゃ分が悪いよ」

「でも、クジョウ君って会長と肩を並べるくらいの天才なんだよね? アライ君、勝てるのかな?」

 会長のくだりに、チアキの眉がぴくりと動くのを見てヨウは内心ひやっとしたが、特に何を言うという気配はない。さすがにこの場でシズカにノリコの偉大さを説くつもりはないのだろう。心の中でホッと胸を撫で下ろしながらヨウは答えた。

「三対一になればさすがのクジョウ君でも分が悪いだろうから、後の二人はクジョウ君がアライ君を撃破するまで何としても耐えようとするだろうね。そうなると、カナメ君たちが二人を倒すのか先か、それともクジョウ君がアライ君を倒すのが先か、競争になりそうだ」

「そうね。でも、それでいけばカナメたちの方が有利なんじゃないかしら? アライ君は水の精霊術士、防御に専念すればそうそう負けないでしょうし、カナメのあれはあの二人じゃ防ぎようがないわ」

 あれ、と言うのは『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』のことだろう。まだ完成とは言えないが、確実にその精度と威力は増している。

「そうだね。でもそんな戦い方をみすみすクジョウ君が許すとも思えないなあ。アライ君が防御に徹すると見れば、クジョウ君は多少のリスクはあってもカナメ君を狙うんじゃないかな?」

「そうかもしれないわね……。まあいいわ、答えはすぐにわかるのだから」

 チアキが視線を会場へと移す。ヨウもそちらに目をやれば、すでに審判が前に出て今まさに試合開始の合図を出すところだった。観客の熱気もじりじりと上昇していく。

「それでは――始め!」

 審判のかけ声と共に、第一試合が始まった。客席から歓声が上がる。

 さあ、どう出るか――アライの動きに注目していると、予想通りクジョウへと向かい走り出した。

「食らえっ、クジョウ!」

 かけ声と共に、アライが三本の細い槍を放つ。中位精霊術、『凍氷の投槍アイス・スピア』。それを同時に三本も放てるのは、一年生では彼だけだろう。

 その槍が、突如現れた炎の壁によってあっという間に蒸発してしまう。その熱量の前に、水蒸気は湯気になることもなくどこかへと霧散した。

 アライの『氷晶の投槍アイス・スピア』はその一つ一つが相手に深刻なダメージをもたらす威力を秘めているはずであったが、一見してクジョウがダメージを受けているようには見えなかった。

 他の相手の動きを確認するかのように、クジョウはアライから視線をはずす。その彼の瞳が、驚きで大きく見開かれた。

 彼の目の前には――今まさに術を放とうとしているカナメの姿があった!

「いけえええっ!」

 カナメの両手から、燃え盛る炎の槍、『炎熱の投槍ファイア・スピア』が放たれる。二本の槍は反応がわずかに遅れたクジョウの防御壁を突き破り、彼の胴のあたりに命中する。

 瞬間、クジョウの身体がうっすらと虹色の光に包まれた。『対精霊術防護の指輪エレメンタル・ガード・リング』により精霊術が防がれた証しだ。それはすなわち、クジョウに有効打を与えたことを意味する。

 おおっ、と観客が大きくどよめいた。一年生ではずば抜けた才能を持つと言われ、入試でも学年考査でも首席を譲らない一年生最強の精霊術士にダメージを与えたのだ。観客が盛り上がるのも当然であった。

 クジョウは驚いたようにカナメを見つめながらつぶやいた。

「まさか君がこちらへ来るとはね、イワサキ君。だが、シラカワ君は大丈夫なのかな?」

「それならご心配なく」

 返事をするカナメの向こう側では、C組の二人の攻撃をシラカワが巨大な盾で防いでいた。先ほどの戦いでチアキも使用していた地の精霊術、『大地の大盾アース・シールド』。シラカワはその盾で、自分やカナメたちへの攻撃をことごとく阻止していた。

 カナメたちの戦いぶりに、ヨウは思わずうなった。チアキも驚きの声を上げる。

「まさか二人でクジョウに向かうなんて! シラカワ一人で二人を抑えようなんて、リスキーにもほどがあるわ!」

 ヨウは小さく首を横に振った。

「そうとも言い切れないんじゃないかな。どうやらカナメ君たちは、さっきの僕たちの読みのさらに先を行くことを選んだみたいだ」

「先、ですって?」

 振り返るチアキに、ヨウはうなずいた。

「きっと彼らも僕らと同じ結論に至ったんだよ。アライ君が防御に徹していたら、クジョウ君は隙を見てカナメ君たちを攻撃してくるって。だったら、リスクを取ってでも先にクジョウ君を倒し、シラカワ君には残る敵の足止めをしてもらおう、と考えたんじゃないかな」

「それにしてもリスクが大きいわよ! いくらシラカワが優秀な精霊術士だとはいえ、あの二人を一人で抑えこむなんて無理よ! もしやられてしまったら、カナメたちには万に一つも勝ち目がなくなっちゃうわ!」

「信頼してるんだよ、彼らは。それに、二人がかりで行くからには一気に決めようとするはずだ。何せカナメ君にはあれがあるからね」

 笑みを浮かべると、ヨウは視線を会場へと移した。その視線の先では、すでにカナメが精霊術の術式構築に入っているようだった。

 やはりあれを出すつもりか。ヨウは思わず拳を強く握りしめた。学院でもごく一握りの人間しか扱えない炎の上位精霊術、『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』。あの直撃を受ければ、さしものクジョウとてただでは済まないはずだ。

 先ほどのクジョウの意外そうな顔から察するに、この展開はどうやら彼の予想を超えるものだったらしい。序盤戦はどうやらカナメたちが作戦勝ちを収めたようだが、これに対してクジョウはいったいどう出るのか。隣でかわいい握り拳を作りながら試合を見つめるシズカと同様に、ヨウは固唾を飲んで試合の行方を見守っていた。





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