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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
107/135

22 注目の組み合わせ





 各学年の一回戦が終わり、昼食も食べ終えたヨウたちは、二回戦の第一試合を観戦しようと会場に向かっていた。

 次の試合は、カナメが属するB組Aチームとクジョウ率いるC組Aチームの組み合わせ。その勝者が一年生の決勝へと進む。

 ヨウたちが次の戦いに勝てば、両チームのいずれかと戦うことになる。相手の力を見極めるためにも、見逃すわけにはいかない戦いであった。

「何か、結構人多いな」

 会場の周りの人だかりを見てフィルがつぶやく。確かに一回戦の時より人が多い。一年生の大半が集まっているのではないだろうか。

「それはそうよ。優勝候補どうしの対戦だし、何より会長の試合とぶつかっていないのだから」

 チアキがなぜか得意げに胸をそらす。

 そんな彼女に、ヨウが疑問を口にした。

「でも、だったら僕らの試合の時には誰も見に来なくなるんじゃ……?」

「あ……」

 ヨウから目をそらすと、チアキは視線をあちこちへとさまよわせた。

 それから、なぜか怒ったような顔でまくしたててくる。

「そ、そんなのどうでもいいでしょ! 私たちは勝つことが目的であって、観客が集まるかどうかなんて関係ないわよ!」

「え、何で僕怒られてるの……?」

 困惑するヨウに、シズカが少しほっとしたような顔をする。

「でも、私はあんまり人がいない方が緊張しないかな……」

「何弱気なこと言ってるのよ。二回戦に勝てば次は決勝、一年どころか全校生徒が集まってくるのよ?」

「そ、そんな! 私、困る!」

 うろたえるシズカに、ヨウがやさしく微笑みかける。

「大丈夫、落ち着いて。目の前のことに集中していれば、周りのことなんて目に入ってこなくなるから」

「そ、そっか……。ありがとう、マサムラ君」

「そうだぜシズカちゃん、あんな冷血女の嫌がらせなんて真に受けちゃダメだぜ?」

「誰が冷血女よ!」

 チアキがフィルをぎろりと睨みつける。

 その様子に苦笑していると、目の前に見慣れた顔がいることに気づいた。

「やあ、マナブ君」

「おお、これはヨウ殿! 皆さんもおそろいで!」

 振り返ったのは、カナメの補佐であるマナブだった。眼鏡を光らせながらにやりと笑う。

「さては、決勝の相手の偵察ですかな?」

「もちろんそれもあるけど、カナメ君は生徒会の友達だし、クジョウ君はクラスメイトだからね。応援に来たんだよ」

「ほほう、よい心がけですな。ですがこの試合、勝つのは我が方ですぞ」

「確かに、クジョウ君の炎に対してアライ君の水は相性がいいものね」

 あごに手を当てながら、チアキがうなずく。

「一回戦でカナメたちが見せたような戦い方をクジョウ組がしようにも、他の二人ではアライ君を抑えられないだろうし。さて、どうするつもりかしらね」

「ふっふっふ、クジョウ殿さえ封じこめてしまえば、総合力では我が組の方が上。この勝負、いただきましたぞ」

「へへっ、じゃあ決勝はヨウたちとお前らだな」

「ですな。そちらもちゃんと決勝まで勝ち上がるのですぞ」

「ま、それは心配すんな」

 フィルがマナブと肩を組みながら笑う。それを横目で見つめながらチアキがやれやれとつぶやいた。

「自分が出るわけでもないのに、ずいぶんと気楽に言ってくれるものね」

「それだけ僕らの勝利を確信してるってことだよ」

「だといいのだけれど」

 会場へと視線を戻すと、すでに両陣営とも指輪を受け取り対峙していた。

 カナメたちB組の面々の顔を見れば、そこには隠し切れない自信がにじみ出ていた。リーダーのアライから少し離れて、カナメとシラカワがペアのような形で陣取っている。

 一方のクジョウたちC組はと言えば、不思議なほど落ち着いた表情をしている。こちらはこちらで勝利を確信しているのだろうか、静けさがそら恐ろしいくらいだ。

 あの落ち着きは、やはりクジョウ君への絶対的な信頼から来ているのだろうか。両チームをみつめながら、ヨウはそんなことを考えた。ということは、クジョウ君はアライ君を倒せるということか、それとも何か策があるのだろうか。

 周囲が徐々にざわつき出す。試合開始が近づき、観客のボルテージも上がってきているようだ。

「ヨウ、よく見ておくのよ。あなたの分析力には期待しているわ」

「まかせてよ。それと、僕もチアキの観察眼には期待しているからね」

「あら、ありがとう。それじゃ、ここは私たち二人で決勝の相手を丸裸にしてやりましょうか」

 チアキの不敵な笑みに、ヨウも笑顔でうなずく。その隣では、シズカがはらはらしながら会場を見つめていた。

「さあ、いよいよ始まるぜ!」

「両チームとも女っ気に欠けるのが難点ですが、見ごたえはあるはずですぞ」

「ホントそれだけが残念だよな。少しはうちのチームを見習えっての」

 すぐそばでは、フィルとマナブがそんなことを言いながら声援を送っている。一瞬チアキがじろりと一瞥し、すぐに会場へと視線を戻した。

 優勝候補同士、注目の一戦が、今始まろうとしていた。





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