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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
106/135

21 初陣



 一回戦も、最後の試合を残すのみとなった。

 チアキ、シズカと並んで会場に向かいながら、ヨウは前の二戦に思いを巡らせていた。

 先ほどの第三試合、アキヒコ率いるD組Bチームの強さはさすがの一言に尽きた。クジョウやアライのように注目を集めるような選手こそいないものの、三人ともそつのない戦い方で相手を追いつめていき、危なげなく勝利を収めた。

 こういうチームは怖い。なまじ力に自信のある相手と違い、基本的に油断というものがないからだ。このチームの隙を突くのは大変そうだ、とヨウは内心ため息をついた。

 そして、何と言っても圧巻だったのは第二試合、優勝候補の筆頭であるヒロキ・クジョウ率いるC組Aチームだ。

 試合開始早々、クジョウの手から放たれた巨大な槍が相手を貫き、相手はなす術もなく退場を強いられた。その後、他の二人が戦っていた敵をクジョウが苦もなく撃破する。試合開始から十秒足らず。その圧倒的な強さに、会場は一瞬しんと静まり返った。

 エースチームでないとはいえ、対戦相手であるD組のチームも決して弱いわけではない。だが、それだけにクジョウ組の強さが際立つ結果となった。とにかく、何としてでもクジョウを止めないことには勝機を見出すのは難しいであろう。

 本当に、この戦いを勝ち抜くのは大変そうだな。そう思いながら、ヨウたちは会場の中央へと足を進めた。

 周囲を見渡せば、ノリコの試合が終わったこともあり、一年生たちの大半が集まっている。ヨウたちのチームも優勝候補の一角なだけあって、注目度もなかなかに高いようであった。

「出たぜ、生徒会コンビ」

「学科のトップと二番か。クイズ大会なら圧勝だったろうにな」

「って言っても、あいつら実技もトップクラスだぜ?」

「俺は何であいつらがクジョウと一緒じゃないかがわからんね。三人そろったら最強だろ」

「仲が悪いんじゃないか? じゃなかったら、マサムラとあっちの子がつき合ってるとか」

「もしそうだったら、オレあいつの顔ぶん殴ってくるわ」

 相変わらず周りの生徒たちは言いたいことを言っている。たははと苦笑いしながら左右に目をやると、そんな雑音は聞こえないのか、戦意に満ち満ちたチアキの顔と、対照的に不安そうなシズカの顔があった。

「ミナトさん、もしかして怖い?」

「う、ううん、平気!」

 慌ててぷるぷると頭を振るシズカだったが、やがてぽつりとつぶやく。

「本当はね、怖いのもあるけど、みんなの足を引っぱっちゃわないかって心配なんだ」

 うつむくシズカに、ヨウはやわらかな笑みを見せた。

「大丈夫、ミナトさんならできるよ。それに、僕たちもしっかりサポートするから」

「ヨウの言う通りよ。あなたは難しく考えないで、自分にできることをしっかりやりなさい」

「うん……ありがとう!」

 明るくうなずくと、シズカは何かを吹っ切るかのように小さな拳をぎゅっと握りしめた。

 対戦相手であるB組Bチームのメンバーと握手を交わした後、ヨウたちは係の者から指輪を二つ受け取って装着する。

 それから、相手と間合いを取るように中央から少しだけ離れると、チアキがヨウとシズカの顔を見回した。

「いい? 作戦通りに行くわよ。ヨウは私の近くに来て、シズカは少し下がってて」

「うん、わかった」

 シズカがやや固い表情でうなずく。ヨウも無言でチアキの右側近くへと移動した。

 審判が両チームの間に入り、ゆっくりと右手を前に突き出す。

 そして、勢いよく振り上げた。

「始め!」

 その声とほぼ同時に、相手の選手の一人が叫んだ。

「全員でマサムラを狙え! あいつは精霊力が低いから防ぎ切れないはずだ!」

「おう!」

 かけ声と共に、中央と左右に展開していた相手側の三人が手を前にかざす。その狙いはヨウへと定められていた。

 次の瞬間、三人から炎と氷、そして風の矢が放たれる。投槍スピア級ではなくアロー級を選んだのは、術の発動までの時間を短縮したいのと、そしてアロー級でも三人分なら精霊力に劣るヨウを撃破できるとの計算があってのことなのだろう。

 放たれた矢は、だがヨウに命中する寸前、その手前で何かに遮られて砕け散った。火の粉と氷片が飛び散り、風が渦巻いてそれをかき消していく。

「私を忘れてもらっちゃ困るわね」

 ヨウの前でそうつぶやいたのはチアキであった。その手には巨大な鉱物の盾を握っている。あらゆる攻撃を防ぐチアキの精霊術、『大地の大盾アース・シールド』だ。

「ありがとう、チアキ」

「いいわよ、予定通りなんだから。それよりほら、早く行きなさい」

「うん!」

 一言うなずくと、ヨウは矢のように相手へ向かって駆け出す。

 もくろみを阻止され忌々しそうに舌打ちする敵チームであったが、そのうちの中央の生徒に、ヨウはすでに肉薄していた。慌てて精霊術を放とうとする相手であったが、それが完成する前に、ヨウは懐へと潜りこむ。

 そして、目にも止まらぬ速さで右、左、右と腹に拳を叩きこむと、右方向にぐるりと半回転しながら脇腹に回し蹴りを突き刺した。

 観客も、いや、攻撃を受けた当の本人さえ、何が起こったかわからなかったかもしれない。指輪のけたたましい音と共に、相手の男子生徒はヨウから見て右側へと弾き飛ばされていった。

「あ、慌てるな! マサムラは今フリーだ!」

 相手の一人がそう叫び、ヨウへと向かって精霊術を放とうとする。

 だが、ヨウに向かい術を放とうとしたその瞬間、横から飛んできた槍が彼を直撃する。大きく体勢を崩したところに、雨あられと石の矢が降り注いだ。指輪の音が鳴り響く。

「あなたの相手は、この私よ」

 チアキが不敵に笑う。その反対側では、同じようにヨウに術を放とうとしていた敵がシズカの『凍氷の投槍アイス・スピア』で妨害されていた。舌打ちしながら次の術の準備に入ろうとしたところを、ヨウに接近され蹴りの乱れ撃ちを食らって地面へと沈む。

「そ、そこまで!」

 審判がヨウのチームの勝利を宣言する。一拍置いて、観客から歓声が沸いた。

「おおおおお!」

「ヤバいぞ、C組!」

「マサムラ、何て強さだよ! 人間の動きじゃねえぞ!」

「C組は両方とも勝ったのかよ! クジョウといいあいつらといい、メチャクチャ強いじゃねえか!」

「ねえ、見た? さっきのマサムラ君!」

「見た見た! どうしよう、超かっこいい!」

 どうも自分の話題が多いような気がして少し恥ずかしくなる。観客から視線をはずそうと振り向くと、シズカと目が合った。

「す、凄いねマサムラ君! みんなマサムラ君の話で持ち切りだよ」

「そ、そうなのかな? それよりミナトさん、初戦お疲れさま」

「あ、お疲れさま! 私、ちゃんと役目果たせたかな」

「完璧だったよ。僕を狙ってきた相手を牽制してくれたおかげで、相手の懐に潜りこむことができたしね」

「そ、そっか、よかったぁ……」

 安堵のため息をつくシズカ。そこに、チアキもやってきた。

「二人ともお疲れさま。まずは上々の滑り出しね」

「そうだね。それにしてもチアキはやっぱり強いね」

「な、二人倒してるあなたに言われても嫌味にしか聞こえないわよ。まあ、作戦通りだったのだから、誰が何人倒したというのは関係ないけれど」

 少し照れたような顔で、チアキがついと目をそらす。

 とにもかくにも、初戦を勝利で、それも完勝と言っていい内容で飾ることができた。次の二回戦、相手のアキヒコ組は強敵ではあるが、自分はそこで負けるわけにはいかない。

 でも、きっと大丈夫だろう。自分には、こうして信頼できる仲間がいる。いつもの生徒会とはまた異なる一体感がそこにはあった。

 観客の中に、こちらに手を振るフィルの姿を認めると、ヨウは軽い足取りでフィルと、C組のクラスメイトたちの下へと歩いていった。





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