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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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17 シズカの印象




「あの、マサムラ君! こんにちは!」

「やあ、ミナトさん」

 講義の時間が近づき、席に着いて勉強道具の準備をしていたヨウは、シズカの声に後ろを振り向いた。

 立ち上がって奥の席を勧めると、シズカがぺこりと頭を下げてそちらへと入っていく。

「対抗戦、一緒のチームだね。よろしく」

「う、うん! こっちこそよろしく!」

 笑顔でうなずくと、シズカはかばんからばたばたと勉強道具を取り出し始めた。

「僕は精霊術が苦手だから、ミナトさんやチアキの足を引っ張らないようにがんばらないと」

「そ、そんなことないよ! 私こそ、みんなの足手まといにならないようにがんばる!」

「そうだね、一緒にがんばろ」

 ヨウがやわらかな笑みを浮かべると、シズカは顔を赤らめてうつむいた。

「それにしても、ミナトさんも対抗戦に出るなんてね。ちょっと意外だったよ」

「そ、そうかな? この前マサムラ君が対抗戦に出るって言ってたから、ちょっと楽しそうかな、って思って」

「僕は生徒会の友達と戦えそうだから、少しわくわくしてるんだ。ミナトさんも知ってるでしょ? カナメ・イワサキ君。彼なんか本当に凄いんだよ」

「そうなんだ、試合で当たるといいね」

 嬉しそうに語るヨウに、シズカも微笑みを返す。それからぽつりとつぶやく。

「でも、マサムラ君も凄いと思うけどな……」

「え? 僕が何?」

「ううん、気にしないで!」

 慌ててぶんぶんと首を振ると、何でもないと言ってまたうつむいた。

 いったい何だったんだろうと首をかしげていると、教室の前方から一人の女子生徒が近づいてきた。

 靴音高く近づいてきた少女――チアキは、二人の目の前までやってくると、あら、とシズカの方へ目をやった。

「ミナトさんじゃない。あなたもこの講義を受けるの?」

「う、うん。シキシマさんも?」

「ええ。よろしくね」

 チアキが軽く笑うと、シズカも緊張気味に笑う。普段は明るいのに幾分人見知りな感じは少しノリコに似ているかもしれない、とヨウは思った。

 ヨウを挟んでシズカと反対側に座ったチアキは、かばんに手を入れながらシズカに話しかけた。

「後期は結構講義が重なるかもね。よろしくお願いするわ」

「うん、こちらこそよろしく」

「よろしくと言えば、対抗戦、同じチームね。一緒にがんばりましょう」

「うん、私もがんばる!」

 固い表情でシズカがうなずく。チアキはいつも通りのクールな調子で続けた。

「それにしてもあなた、凄い勢いで手を挙げてたわよね。そんなに出たかったのかしら?」

「う、それはあの、私も花型競技でがんばってみようかなと思って!」

 シズカが自分の顔の前で両手を上に下にとせわしなく動かす。やっぱり少し緊張しているのかな、と思いながらその様子を見ていると、チアキが少し声をやわらげた。

「朝も言ったけれど、やる気がある人は大歓迎よ。互いの連携も大切だし、近いうちに三人で少し打ち合わせしましょう」

「そうだね、僕たち三人で顔を合わせたことって今までないし、お互いのことを知っていく必要があるかもね」

「わ、わかった! 二人とも、よ、よろしく」

 少しチアキが苦笑気味に言う。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ、もっといつも通りにしてもらって構わないわ。と言ってもすぐには無理だろうから、ヨウ、あなた、ミナトさんのことよろしく頼んだわよ?」

「まかせてよ。みんなでがんばろうね、ミナトさん」

「うん、ありがとう」

 もじもじとしながら、シズカは恥ずかしそうにうなずいた。


「というわけで、どこか昔のノリコっぽい子なんだよ」

「へえ、そうなんだ。あたしも会ってみたいなー」

 その日の放課後、会長席で仕事をしていたヨウは隣のノリコにシズカのことを話していた。対抗戦のメンバーを聞かれた流れで彼女の話になったのだ。

 人差し指をかたちのいいあごに当てながら、何かに気づいたかのようにノリコはつぶやいた。

「あ、でもどうせトーナメントで会えるのかぁ。それまで楽しみにしておくのもアリかもね」

「そうなるようにがんばるよ」

「そうだよヨウちゃん、実行委員会に粘り強く交渉したあたしの努力が無に帰さないようによろしくね!」

 いつものように仕事の手を止めることなく、ノリコがプレッシャーをかけてくる。

「あたしは噂のクジョウ君を加えたチームで来るかと思っていたんだけど。ヨウちゃんもチアキちゃんも、やる時はやるんだね。そこまで言ったからには、絶対負けたらダメだよ?」

 チーム決めの顛末まで話すんじゃなかったかなあ、とヨウは若干後悔する。だがクラスでああ言った以上は、いずれにしてもヨウは対抗戦を勝ち抜かなければならないのだった。

「大丈夫、僕たちは勝つよ。チアキもミナトさんも、優勝のためにがんばってくれるからね。ノリコこそ、うっかり負けちゃったりしないでよ?」

「あら、言ってくれますねヨウ・マサムラ君。心配しなくても、あたしたちはぜーったい優勝しますから。トーナメント、楽しみにしているよ?」

 それからノリコは、前に座るタイキに視線を向けた。

「先輩も、ちゃんと優勝してくださいね? 新旧会長対決なんて、絶対盛り上がるに決まってますから!」

「そうだね、盛り上がるといいね……。うん、優勝できるようがんばるよ」

 少し力なくタイキがうなずく。きっとトーナメントが気が重いのだろう。正直ヨウがタイキの立場なら、ノリコのチームと対戦なんてしたくはない。全校生徒の前で後輩にこてんぱんにやられるのはまっぴらだった。

 三者三様の想いを胸に、ヨウたちは再び作業へと没頭していった。




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