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ただ凛として生きる  作者: 茅橋
シロツメクサの花冠
4/9

閑話 妻と夫の話




 物語の合間にあった小さな会話。









「私仕事やめようと思うの。」

 夫と二人、台所に立ちながら話す。

「うちの会社で代替わりがあって、少しもめてるってことは前話したでしょ。そのごたごたがね。」

 前の社長が急な病気で倒れたことが原因だった。社長は息子に引き継がれ、その若社長が前社長時代に会社を動かしてきた人達と、もめた。

「ついに何人か、割と大事なことやってた人達がまとまってやめるって話にまでなっちゃって。」

 前社長は割と考えがあって熱い人だった。だから会社もそれを手伝おうって人が集まってできた所があって。かくいう私もその一人。

「私もこれからの会社じゃ、今まで見たいなやりがいを感じられる気がしないから。」

 唯一は、前の社長に少し申し訳ないと感じることだろうか。

「だから、そっちで三人暮らせる所を探しましょう。」

 どうせ変えるなら早い方がいい、とは帰りに芳春から聞いたことで、できればそれを叶えてやりたかった。

「いいのかい?」

「そろそろ、頃合いでもあるでしょ?」

「……そうだな。」


 元々夫の単身赴任は、別にそうしなければならないという話ではなかった。

 三つ県は離れていたが、在来線の便が割とよく。例えば、お互いの仕事場の中間辺りに居を構え、少しずつ無理をすれば家から通うことも不可能ではなかった。

 言ってみれば、消極的な別居。

 そうなったのは別にどちらが悪いという話ではなく、お互いに自分の仕事を優先する性格故だった。芳春が小学校に入った頃からお互い自由に仕事をし始め、その結果二人そろって私生活に余裕がなくなった。

 お互い相手が仕事好きな人間だからこそ好きになったし、結婚した。だからその結果に文句はなかった。家の中の悪い空気も、お互いのイライラも、不満はあったが文句はなかった。

 だから、夫に誘いが来たときに、単身赴任の選択をしたのは二人にとって自然な流れだった。


「しばらくは芳春の様子を見るのに専念するわ。」

 私を見る夫の目がなにか心配してるように見えて笑う。

 確かに30代の終わりが見えて、このことが落ち着く頃にはきっと40代。新しいことを始めるのは少しずつ難しくなっていく。けど、

「大丈夫よ。私はきっとまたやりたい仕事を見つけるし、それにこの経験はきっと私の中で大きな糧になってくれる。」

「……自信家だね。」

「当たり前でしょ? 自分が信じないことは起こりっこないもの。」

 芳春にもよく笑われる断言癖。昔っから自信家だったけど、こんな風に言う癖がついたのは大学生以降だったりする。

「やっぱり、君はすてきだ。」

 そう、あの時もそうして褒めてくれたから。



 あんまりにも部屋から出てこない芳春を見に行って笑った。だってあの子、洗濯物に頭だけ隠れてるんだもの。そういえば小さい頃は洗濯物によく埋もれてた。洗濯を手伝わすようになってからはなくなったけど。

 三つ子の魂と言うし、この子にとって洗濯物は安心できるなにかだったりするのだろうか?












 二人は大学時代に同じプロジェクトに関わったことがあった。事務的なやり取りを幾度かしただけだが、お互いに好感を持っていた。だが大学は別だったので関係は続かず、自らの道を進んだ。

 その後、社会人になってから二人は偶然再会し……


 きっとそんなストーリー。





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