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北の魔王が世界を救うことになった日  作者: 春我北音
終わりと始まり
7/7

騙りごと

「ニホン?」


言って、再び首を傾げるライア。その反応に不安を煽られながら、私は頷く。

この村の人達は日本を知らない。だけどそれは、明らかに首都から離れている上、辺り一帯森に囲まれたこの閉鎖的環境のせいで、外部の情報が入り辛くなっているからなのかも知れない。帰る為の情報を躍起になって探していた頃、浮かんだ可能性の一つである。

今まではそれを確かめる術がなかったけれど、この青年の答えで全てが分かるだろう。


はり付く喉をゴクリと鳴らし、首を傾げてウンウン唸るライアを見守る。

暫くして、彼はゆっくり口を開いた。


「ニホン・・・うーん、少なくとも、僕は行ったことないけド。」


ああ、やっぱり聞かなきゃ良かったかも。激しい後悔に目眩を起こす。

でも、知ろうが知らなかろうが現実は変わらないのだから、むしろ余計な期待を抱き続けずに済んだことに感謝すべきではないだろうか?だけど、これは正に知らぬが仏・・・。


何も言えずにいる私の顔をアスターとライアが窺う様に見てきたけれど、心配そうなアスターとは対照的に、ライアの表情が妙に楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「んー・・・もしかして僕、あまり良くないこと言っちゃったかナ?」


私の視線に何かを感じ取ったのか、申し訳なさそうに言うライア。

シュンを肩を落とす彼に、罪悪感が湧き上がる。せっかく質問に答えてくれたというのに、疑うなんていけないことだ。


「大丈夫!こちらこそ、変なこと聞いちゃってごめんね。」


あと、胡散臭いなんて思ってごめん。それについては声には出さず心の中でそっと謝って、私はライアにお茶のおかわりでもと、ティーポットを手に取った。

しかし、それをやんわり取り上げたアスターによって、何故か椅子に座らされてしまう。


「?」


「お茶でしたら僕が淹れて来ます。勇者様はお座りになっていて下さいね。」


そう言ってニッコリ笑うと、ティーポットとカップを持って、アスターは部屋を出て行ってしまった。



「?お茶ならここで淹れられるのに・・・。」


「この家って、長老さんとか誰か偉い人のお家でショ?」


首を傾げる私に、再び椅子に腰を降ろしたライアが顎に手を当てて言った。

頷くと、彼はくっくと喉を鳴らして笑った。


「大きな家だもんネ。んで、土間はこの部屋とは別にあって、食材なんかもそこで保管してるんだよネ?お茶の葉なんかモ。」


「まぁ・・・。でも、それとアスターが出て行ったことに何か関係があるの?」


「ここにあるお茶の葉は、消化を促進する効果を持ったものみたいだからネ。多分彼、鎮静効果のあるお茶の葉を土間まで探しに行ったんじゃないかナ?動揺して今にも倒れちゃいそうなくらい顔色の青くなってる君の為にサ。」


優しいネ。そう付け加えて、またも可笑しそうに笑うライア。・・・なんだろう。酷くからかわれた気分である。

加えて、君の為に。その一言に恥ずかしさも込み上げてきて、青いと言われた筈の顔がみるみる内に熱を持って行くのが分かった。


「アレレ。今度は赤くなってるヨ?大丈夫?」


「・・・ちょっと暑いだけなんで、お気遣い無く。」


またもからかう様な口調で言われて、少しむっとした私はそっぽを向くと、ライアと顔を合わせないように頬杖をついた。アスターが戻るまで、このままでいよう。

そう決めたはいいものの、無遠慮なまでに送られてくる視線に、早くもギブアップしそうだ。なんなのこの人。


それから約15分。アスターはまだ戻らない。お茶の葉が見つからないのだろうか。

頬杖をつくのもいい加減疲れてきた頃、視線を寄越すだけで沈黙していたライアが、ふと口を開いた。



「そう言えば、マオは勇者様なノ?」


「は!?」


突然の発言に驚いたのもあったけれど、何よりその内容に過剰に反応してしまった私は、思わずライアの方に振り返ってしまった。

15分前と変わらず胡散臭い笑みを貼り付けて、此方を見詰めるライアと目が合う。

ただ一つ違うのは、その視線に含まれている好奇心。


「違うよ。私は勇者様なんかじゃない。」


「でも、アスターはキミのこと勇者様って呼んでたヨ?」


「それは、この村の人達が私を勇者だって勘違いしてるだけで・・・。」


「勘違いネ・・・てことは、皆が勘違いする程の何かがキミにはあるわけダ?」


中々に鋭い。そしてしつこい。

確かに、今の私は色々と普通じゃない。

気がついたら瀕死の状態で見知らぬ土地で見知らぬ人に介抱されているし、挙句今もこうしてその人達のお世話になっているし。何より、常識外れなジャンプまで繰り出してしまっている。


しかし、それでもやっぱり、私は平凡な女子高生なのだ。いくら問題行動ばかり起こそうとも、いくら友達が居なかろうとも、家庭が崩壊していようとも、そんな人間掃いて捨てる程居るこの世界では、なんて珍しいことあるだろうか。そのどれもが、物語で見たような勇者様とは程遠い。


「そんなものないよ。本当に皆が勘違いしてるだけ。」


反論する私に、ライアは笑う。


「じゃあ、キミは皆を騙して此処に居場所を設けてるってこト?」


「・・・どういう意味?」


聞き捨てならない台詞に、眉根を寄せる。そんな私にはおかまいなしに、ライアはペラペラと喋り続けた。


「だってそうでショ?皆はキミを勇者様だと思ってるから慕ってくれてるんだよネ?だから此処にも置いてくれてるんでショ?そうでなきゃ、得体も知れない人間にここまで良くしてくるわけないヨ。」


「でも・・・私から言った訳じゃないし。」


「じゃあ、ちゃんと否定したノ?私は勇者様なんかじゃない。っテ。」


「それは・・・。」


心の中ではいつも否定していた。だけど、それをちゃんと言葉にして伝えた事があっただろうか?

なかったかもしれない。


「知ってるかどうかを僕に聞いてきたってことは、この村の人達は『ニホン』のこと知らなかったんだろウ?ニホンって、キミの居た場所なのかナ?兎に角、キミはそこに行きたい訳だよネ?でも、その為には情報が少なすぎて動きようがなイ。」


「だから・・・それが何だっていうの?言いたい事があるならハッキリ言えば?」


「だから?だから言ってるじゃなイ。つまりはそういうことだろウ?キミはこの村の人達を騙して利用してるんダ。この村での生活は、ニホンに帰るまでの繋ぎとしか思ってないんでショ?」


チクタク。この部屋の中で、平常に動いているのは時計の秒針だけ。そう思える程、ライアのその言葉は私の何もかもを止めていく。

何も言い返せない。

言い訳をするなら、「そんなつもりはなかった」。だけど、本当にそうなのだろうか?「悪気はなかった」。実際は、そっちの方がしっくりくるんじゃないだろうか?

それが偶然だっただけで、勇者に間違えられている事を、心のどこかで「都合がいい」と思っていたんじゃないだろうか?


「キミが勇者様じゃないって知ったら、村の人達はどんな反応をするのかナ?」


「・・・・・。」


「アスターもガッカリするだろうネ。彼、嘘つき嫌いそうだもン。ああ、そう言えばお茶はまだかナ?喋り過ぎて喉が渇いちゃったヨ。」


その瞬間、私は部屋を飛び出していた。

殆ど衝動的に走り出した足は、行く宛なんて当然持つ筈もなくて、唯々、夜の闇の中を闇雲に駆け抜ける。

全力で切る風は、まるで刃物の様に鋭い。


ピリピリと痛む肌にも構うことなく、私は走り続けた。

まるで、嘘がバレて追い込まれた嘘つきだ。私は逃げている。

何から遠ざかろうとしているのかも、分からずに。























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