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御伽使い  作者: 安芸咲良
6/11

覚醒

「先生先生! ちょっとこれやばくない!?」

「見りゃ分かるだろ話し掛けんな!」

 事務所の中は泥棒が入ったかのような惨状だった。ただし現在進行形で悪化中。

 実体化した御伽は気性の荒い魔女だった。出てきた途端に魔法で突風を起こして事務所をめちゃくちゃにした。私と先生は慌てて机の下に隠れて、膠着状態で今に至る。

「これ絶対片付け大変だよ!」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ」

 先生は魔女を気にしながらもノートパソコンをいじっている。

「先生なにしてるの?」

「うっさい話しかけんな。やつのデータを探してんだよ」

 魔女の力で机がカタカタ動き出した。

「……間に合う?」

「間に合わせる」

 その瞬間、先生が隠れていた机が吹き飛んだ。

「先生!」

 先生は机ごと吹き飛ばされて、壁に打ち付けられた。小さく呻いて倒れ込んだ。先生の元へ駆け寄りたいけど、魔女が引き起こす風のせいでそれもできない。

 どうしようどうしようどうしよう……。

「先生……。もう……やめてよ魔女ー!」

 私がそう叫んだ瞬間、まばゆい光が溢れ出した。光っているのは事務所の全部のパソコンだった。

「えっ、なにこれなにこれ!」

 魔女はそのままパソコンに吸い込まれていった。

 辺りに静寂が落ちる。

「おーうまくいったか」

 状況が掴めないでいる私に先生が声を掛けた。

「せ、先生! 大丈夫なの?」

「あーまぁちょっと痛いけど平気だ。それよりやっぱお前力強かったんだな」

「は?」

「ただいまー。あ、うまくいった?」

 悲惨な状況の事務所に所長が帰ってきた。

「おう。うまく魔女を封印したよ。しかも端末なしで」

「おーやっぱり期待のルーキーだったね!」

 これは……もしかすると……。

「なに……? つまり騙したってこと……?」

 大人二人は嬉しそうに話している。後ろで私が震えていることに気付かない。

「ばか――――!!」


「あれ、あすかちゃん?」

 事務所を飛び出したところで涼子さんと順平さんに会った。

「二人とも、遅かったですね……」

「補講だったのよ。何かあったの?」

 涼子さんは私の様子がいつもと違うことにすぐに気付いてくれる。お姉さま……好きだ……。

「先生に騙されたんです……」

「あーなるほど、分かった。所長も鬼だなぁ……。まぁ東條さん達に悪気があった訳じゃないのよねぇ」

「先生の肩を持つんですか!」

「違う違う。あすかちゃんさ、自分の力の自覚ある?」

 涼子さんまで先生の味方をするのかと思った。でも私の力なんて言われて余計に意味が分からない。

「あすかちゃんは結構力強いみたいなんだよね。でも今まで発揮する機会がなかった訳じゃん? だから東條さん達がその機会を作ってくれたんだよ。ま、多少強引な気はしたけど」

 順平さん……知ってたなら止めてくださいよ……。

「あすかちゃんは嫌だったかもしれないけど、あすかちゃんのためでもあるから」

「私のためですか……?」

「この前一緒に行ったときに分かったかもしれないけど、御伽と対峙するには危険も伴うの。自分の力をコントロールできることは大事なのよ」

 涼子さんの言うことはもっともだ。でもそれならそうと先生も言ってくれればいいのに……。

「東條さんにも色々あるからなぁ」

「え?」

 順平さんが何気なく言ったその言葉を私は聞き逃さなかった。

「順平!」

 涼子さんが慌てて順平さんを止める。涼子さんがこんな風に声を荒げるのは珍しいことだ。

「お前ら何やってんだ」

 事務所前でわたわたやってたから、いつの間にか先生が出てきてしまっていた。

「せ、先生。どっか行くの?」

「お前が戻ってこないから吉良に迎えに行けと言われたんだよ。原田達から話は聞いたのか?」

「はい……」

「そうか。まぁその、なんだ」

 珍しく先生は歯切れが悪い。そして唐突に手を伸ばしてきた。私は思わず目を瞑る。

「悪かったな」

 その言葉と共に頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。そしてそのままさっさと事務所の階段を上がっていってしまう。

 な、なんだったんだ今のは……。

 その衝撃で私は順平さんの話が途中だったことを忘れてしまった。

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