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御伽使い  作者: 安芸咲良
4/11

御伽との遭遇

 その夏は忙しかった。

 午前中は学校。朝からみっちり四時間、化学漬けとか地獄だ……。しかも先生は普段と違ってスパルタ指導をしてくる。いつものぬぼーっとした感じはどうしたよ!

 それからお昼を挟んで午後は事務所へ向かう。先生が送ってくれればいいんだけど、それは一教師としてマズいらしい。交通費出るからいいんだけど。

 事務所での私の扱いは、アルバイトということになっている。絶賛研修中ですー。

 私の指導をしてくれるのは同じくアルバイトの大学生だ。涼子さんと順平さんは同じ大学で同い年らしい。二人並んでるとすごい。美男美女カップルなのだ。

 でも初めて会ったときは別の意味ですごかった。

「女子高生!」

「ピチピチ!」

 そう叫んで抱きつかれた。あぁ、この事務所にマトモな人はいないのか……。

 散々撫で繰り回された後、先生の「仕事しろ」の一言で解放された。もうちょと早く言ってくれませんかね……?


「さてと。まずはどこから説明したらいい?」

 やっと落ち着いたところで、事務所の一角で涼子さんは話し始めた。涼子さんのデスクみたいだけど、本が山積みになっている。どのデスクもそうだけど。

「御伽がどんなものかと捕まえなきゃいけないことだけ聞きました」

「オッケー、じゃあ捕まえ方だけね。えっとね、この携帯に御伽を本に戻すプログラムがダウンロードされてるんだけど、御伽が感知されたらマザーコンピューターからデータが送られてくるの。で、御伽にそのプログラムをぶつけたら終わり」

 なるほど。と言いたいところだけど、ざっくりしすぎていて訳が分かりません!

「涼子、口で説明するだけじゃ分かりにくい。実際に見せた方がいいんじゃないか?」

「えーでも私の方にはデータ来てないし」

「俺のに来てる」

 二人は携帯を覗き込んだ。

「近場だしみんなで行こっか!」

 という訳で、早速初仕事である。


 事務所から徒歩五分にある公園は、夏休みということもあって若者が多くたむろしていた。

「涼子さん……」

「ん?」

「こんな人の多いところでできるんですか?」

 この人ごみの中で小人やら何やら出てきたら大騒ぎだろう。私は一応小声で尋ねた。

「ああ大丈夫よ。御伽を戻したらその記憶なくなっちゃうから」

「そうなんですか?」

「うん。どういう仕組みになってるかよく知らないんだけどねー」

 まぁ御伽なんてそれそのものが不思議物体だ。よく分からないことも多々あるだろう。でも先輩方も知らないなんて!

「それで、御伽は?」

「もうそろそろ出るはずなんだけどねー」

 順平さんがそう言った次の瞬間である。


 ドォン!


 背後で凄まじい爆音が鳴った。

「あ、きたきた」

 振り返った先には……。うん、そう。ドラゴン。巨大なドラゴンが若者達を追い掛け回していた。

 いや涼子さん、語尾に音符マーク付けて言ってますけどこれ結構ひどい状況ですから!

「いくよっ順平!」

「合点!」

 慌てる私の横をすり抜けて、二人は駆け出す。逃げ惑う人々の波を物ともしない。

 立ち止まったままの私にはたくさんの人がぶつかっていく。痛っ、みんなちゃんと前は見て!

「順平!」

「はいよっ」

 二人の声にはっとすると。……なにあの跳躍力!? 順平さん、五メートルはありそうなドラゴンの頭上まで跳んでるんですけど! あ、公園の遊具を使ったっぽい?

 そしていつの間にか手にしていた棒で思いっきりドラゴンの頭を叩く。あれは金属製っぽいな。

 対する涼子さんはその隙を付いてドラゴンの死角をひた走る。速っ! 二人とも身体能力ハンパない!

 そして順平さんの攻撃でふらついたドラゴンの背後に回った涼子さんは、携帯をかざす。

「御伽っ! 元ある場所に戻りなさい!」

 その瞬間、ドラゴンは光りだした。そしてゆっくりと涼子さんの持つ携帯へと吸い込まれていく。

 一瞬の静寂が訪れた。だがそれも一瞬だけで、すぐにまた若者達の喧騒が戻ってきた。

「え? あれ?」

 さっきまでの騒ぎはどうした? みんな何事もなかったかのようにしている。手にしたスケボーに乗る人、商店街へ向かう人、友達とお喋りをする人。あんな騒ぎになっていたのに。

「あすかちゃん大丈夫だったー?」

「順平さん、やっぱ御伽はいたんですよね?」

 私の眉間に皺が寄っているのを見て、順平さんは納得がいったような顔をした。

「あぁそっか。んっとね、力を持たない人には御伽を捕獲したら全部なかったことになっちゃうの」

「え?」

「記憶がなくなっちゃうっていうか……。まぁそんな感じ」

 あぁ、だから初めて御伽に遭遇したとき、先生はあんなに驚いていたのか。

 あれ、でも待って。

「でも御伽のせいでケガとかしたらどうなるんですか?」

 一瞬、順平さんの顔が曇った気がした。

「それも何かの理由を付けて御伽のせいじゃなくなっちゃうみたい」

 でもそれは一瞬のことで、順平さんはいつもの笑顔に戻っていた。見間違いだっただろうか。

「まぁ御伽についてはまだ分からないことも多いのよ」

 ドラゴンを吸い取った後、その携帯で電話していた涼子さんは携帯を閉じながら戻ってきた。

「報告終わり?」

「うん、ちゃんとデータベースに戻ってたって」

 私が首をかしげると涼子さんは説明してくれた。

「御伽をこれに戻したら本部のパソコンに送られるのよ。それで無事御伽が確認されたら任務終了」

「いったいどういう仕組みになってるんですか……」

「私たちもよく分かんないのよね」

「は?」

「順平はちょっとは私より力強いけど、私らの力じゃデータベースがどうなってるのかよく分からないのよね」

「物理的な力なら涼子の方が強いけどねー」

 うっさい、と順平さんは殴られた。

「いってー……。まぁすっごい力の創始者が御伽をちゃんと元に戻せるシステムを作ったんだって」

 なんだかハッキリしないな。どうも御伽というものが胡散臭いと思うから、なんだかなーと思ってしまう。いやドラゴンはハッキリ認識しましたが。

「んじゃ事務所戻ろうかー」

「え、アイス食べてからよ?」

 あぁうん、そこのアイス屋さんはおいしいよね……。

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