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御伽使い  作者: 安芸咲良
3/11

彼の正体

 私はまた東條さんの車に乗っていた。

 いやもう吉良さんの勧誘はすごかった……。人手不足なんだよーとか、可愛い女の子のエキスがほしいんだーとか。前半はともかく後半はなんだ。セクハラで訴えられたいのか。

 攻防を繰り広げる私たちに、「今日はもう遅いから」と東條さんが助け舟を出してくれた。

 でも今日はってことは明日以降もあるのか……。正直オカルト系のことには関わり合いたくない。やっぱりどうしても偏見の目が先に来てしまう。二人とも霊能力があるとしても。

「吉良の話だが」

 唐突に、助手席で俯いていた私に東條さんが声をかける。ランは後部座席で眠っている。

「若いエキスがどうこうは半分冗談として、人手不足は切実だ。お前がこういうことに関わりたくないのは何となく分かったが、お前の力があると助かる」

 待って。冗談なのは半分だけなの?

「みんな同じような力があるんだ。考えておいてくれ」

 そこで車を止める。うちの前だった。

「ところで」

 降りようとする私に声をかける。

「お前学校の成績はどうだ」

 嫌なことを思い出したではないか。

「……化学以外は上位ですよ」

 そう言ったのは間違いだった気がした。東條さん、そのニヤリとした笑みはなんすか!

「そうか分かった。うん、それじゃまた」

 説明してけー!


   *


 そんなイレギュラーなことが起きてから三日後。音沙汰無し、という訳ではないが日常生活を送っていた。

 吉良さんのアプローチが何と言うか、もう……。

「今日のランチはオムライスだったよー」

 とか、

「海行きたい!」

 とか、どこの付き合いたてのカップルじゃ! と言いたくなるようなメールを送ってくるのだ。もちろん絵文字付き。いやいいんだけどさぁ……。

 夏休みを来週に控えた今日。私は化学室に呼び出された。「ぜってー補習!」と爆笑する夕夏を殴っておいた。

「失礼しまーす」

 正直、化学の先生は苦手なんだ。頭はボサボサだし、眼鏡に白衣でいかにも暗そうだし……。

「先生、なんでしょうか?」

「うん、期末のことなんだけどね。君、赤点だから補習ね」

 やっぱりそうか……。予想していたとはいえ落ち込む。

「これが日程だから。それと」

 プリントを手渡しながら先生は言う。

「御伽の件はどうする」

 うわ、夏休み半分埋まってる。最悪……。ん? 今何と仰いました?

「……やっぱり気付いてないよなぁ?」

 そのニヤリとした笑みは!

「お前教師の名前くらい覚えとけ。あ、覚えられないから赤点なのか」

 眼鏡を外して髪をかき上げたその人は……。

 ととと東條さん!?

「キャラが違う!」

「そこかよ。思春期のガキの前にこんなイケメンがいたら授業にならないだろ」

「自分でイケメン言うな! そして今はイケメンじゃない!」

 論点がずれている! そりゃあ混乱もするだろう。まさかこのもっさい化学教師があのイケメンだとは思わない。

「……なんでこの前言ってくれなかったんですか」

「ん? お前全然気付いてなかったし面白そうだったから。いやー、うっかり赤点のやつだって言いそうになって危なかったよ」

 そんな覚えられ方はいやだ!

「まぁ俺がうまく変装できてるってことだな」

「教師があんなことやってていいんですか……」

「こっちが本業だ。御伽に関しては支障ない」

 もう溜め息しか出ないや。

「それで? どうするんだ?」

「……吉良さんが毎日メールしてくるんですよ」

「吉良……。あいつは何やってるんだ」

「今日は何を食べたーとか、暑いよねーとか」

「あいつは高校生か」

「力のことには触れてこないんです」

 先生は黙って私を見る。

「私は今までこの力のせいで気味悪がられたりしてきました。こんな力なんてない方がいいとずっと思っていました。今はもう隠すことを覚えちゃったし……。でも吉良さんも先生も普通なんですよね。力を持ってるからだろうけど、普通に接してくれる」

 今まで読んできた本の超能力を持った主人公たち。彼らはみんなその力を理解されずにいた。自分が主人公だなんて思わないけど、やっぱり分かってもらえないのはきつい。

「私はそれを望んでいたのかもしれません」

 先生は椅子に座ったまま、黙って聞いていた。

「力になれるか分からないけど、よろしくお願いします」

 私はそう言って頭を下げた。

 きぃっと椅子が軋んで、先生が立ち上がる気配がした。

「力があることが特別な訳じゃないんだ」

 先生は夕日の落ちる窓辺に向かった。

「足が速い奴とか、歌がうまい奴とか。みんな何かしら得意なことがある。お前はそれがその力だっただけだよ」

 励ましてくれてるのか? この間の印象からきつい人だと思っていたけど、意外なところもあるじゃないか。私はくすりと笑う。

「先生、私がんばります!」

「よし、じゃあ夏休みは化学と御伽使いの特訓な」

 ……決断を早まったか?

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