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夏雲  作者: 逢内晶
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夏雲

9月3日:あとがきを修正しました。

 国語の授業で『目から鱗が落ちる』ということわざを習ったけど、彩夏の提案を聞いたときはまさにこのことわざ通りの心境だった。そんなわけで、翌日の放課後、僕達3人は高橋先生に今回の騒ぎについて確かめるために職員室に行った。彩夏が「ちょっと聞きたいことが…」と尋ねると、職員室じゃ3人が座れる場所がないからと、教室で話そうと言われた。


 放課後の教室には西日が入り込んでいた。何日か前に梅雨明けだとニュースでやっていたので最近は快晴の日が多く、日中はセミの鳴き声がうるさいくらいだ。もっとも今はひぐらしの鳴き声が心地良い大きさで聞こえてくる。そんなひぐらしの声に混じって、グラウンドからは遊んでいる生徒たちの声も耳に入ってくるけど、どこか遠くから聞こえてくるような感じがした。


「高橋先生、1つお聞きしたいことがあります。」


 そう言って小野寺君は一連のオカルト騒ぎが全て科学的に証明できること、そしてその中心に新聞クラブや高橋先生がかいま見えることについて話した。僕と彩夏は高橋先生がどんな反応をするだろうかと、緊張しながらも固唾を飲んで見守っていた。


「僕たちが考えたことは以上です。この一連の騒ぎは先生が意図的に起こされたものなんですか?」


 小野寺君が説明を終えると、先生は少し間を開けて


「すごいね。」


 と心底驚いたような表情で言った。


「まさか、ここまで分かってる生徒がいるなんて思いもしなかった。」


「じゃあ、やっぱり先生が一連の騒ぎを起こしたんですか?今は学校中がオカルトの話題で持ち切りでちょっと気味が悪いです。一体何が目的なんですか!」


 小野寺君は最後のほう少し語気を強めていた。これには僕や彩夏も全くの同意見だ。いたずらに生徒を怖がらせるなんて先生のやっていいことじゃない。それに、校内新聞を楽しみにしてる僕たちにとって、高橋先生がこんなことをするなんてかなりショックだった。


「おいおい、勘違いしないでくれ。確かにこの騒ぎの発端は俺が校内新聞に『祟』に関する文章を入れることを許可したことが始まりだ。でも、こんな騒ぎを起こしたかったわけじゃない。」


 ということは、幽霊の目撃や光の玉、幽霊の声というのは全て偶然で、結局のところ『祟』という先入観を持っていたからこそ、見間違えたり聞き間違えたりしたのか。


「じゃあ、何で『祟』なんて非科学的のことの掲載を許可したんですか?今まで校内新聞の記事にはきちんと根拠があったのに、あの記事だけはない。最初に読んだ時からそれが気がかりだったんです。」


 小野寺君はまだ少し先生を疑っているようだ。


「ニュータウン開発に関心を持ってほしいからだよ。」


 先生はそう言うと立ち上がって黒板に『議題設定機能』と板書した。


「新聞やテレビにはこの『議題設定機能』があると言われてみる。まあ、簡単に言うと新聞やテレビで報道された事柄によって、社会で議論される事柄がある程度決定されるってことだ。よくあるのが食べ物に関する規制だな。提供した店や会社の衛生管理に責任があるとしても、たまたま大きく報道されてしまうと政治家なんかもその対応に追われて、変な規制ができてしまう。」


 先生はチョークを置いて、黒板消しで『議題設定機能』を消した。


「自分たちの街に関わることなのに、無関心な人が多いと思ってな。小学校の生徒が関心を持てばその親御さんも自然と関心を持つし、そんなふうにして、街全体でこのことを議論できる雰囲気ができあがれば良いと思った。そのために、小学生が好きそうな『祟』なんてキーワードを出してみたんだが、なかなか思い通りにはいかないな。」


 先生は自嘲気味に笑って肩をすぼめた。


「でも先生、前の講演会はいつもより見学者の人も多かったし、反対派の人も一生懸命話されてて、とても関心が薄いようには見えなかったんですけど。」


「確かに今までの講演会よりも見学者は多かった。ただ、今回は今までと違って街の全員に関連するテーマだ。テーマの関連する範囲を考えると、あの人数じゃ関心が高いとは言えない。それに、正直なところ反対派の人のスピーチはちょっと感情的過ぎて人選ミスだったかなとも思ってる。」


 無関心な人が多いと言われてドキッとした。確かに先生の言うとおり本来なら住民全体で話し合うべきことなのに、平日とは言え体育館にすっぽり収まるくらいの見学者では関心が高いとは言えない。


「まあとにかく、今はこの騒ぎを止める方法を画策中だ。今の様子じゃ先生が何か言っても、生徒たちが信じそうにはないしな。こうなったら夏の長い休みの間に忘れていることを期待するしかないかもな。」


 この発言はちょっと意外で、僕たちは3人とも顔を見合わせた。この騒ぎを止める方法なんてどう考えても1つしかない。それに、それは今からでも十分間に合う。


「先生、方法ならありますよ。」


彩夏が少しいたずらっぽく笑いながら言った。昨日僕と小野寺君に見せた表情と同じだ。


「え、どんな方法だい?」


「校内新聞ですよ。校内新聞で一連の騒ぎは全て科学的に証明できるという特集記事を組むんです。もともと発端は校内新聞の記事から始まったことですし、生徒の関心も高いので、誤解はすぐに解けると思います。」


 小野寺君の言葉に先生が目を丸くした。きっと『目から鱗が落ちる』という心境だろう。


「なるほど。しかし、記事を書こうにもある程度科学的な知識が必要になるな。新聞クラブに詳しい生徒がいるかどうか……」


「そんなの、私たちに任せて下さいよ。」


「いいのか、小野寺、松井?」


 先生は僕と小野寺君を交互に見た。まあ、科学的なところは小野寺君がいないと記事にするのは難しそうだし、小野寺君が構わないならいいかな。


「ええ、今回の騒ぎはちょっとした探偵ごっこみたいで楽しかったですし、電波観測の詳細も知ることができたので、実はこの一連の騒ぎが起きて良かったとも少し思ってります。」


 小野寺君が了解したので、1学期最後の校内新聞で僕達が記事を書くことになった。新聞クラブの生徒には先生から説明してくれるようだ。教室を出た後、僕たち3人は記事を書くための資料を集めに図書室へ向かった。時間をかけて使えそうな本を探したけれど、小野寺君が求めるレベルの本はあまりないようで、結局この後市立図書館でに行く事になった。

 学校を出ると辺りはうす暗くなり始めていて、月がうっすらと浮かんでいた。


「あ、流れ星!」


 彩夏が空を指さしたけど、僕にはもう見えなかった。『みずがめ座デルタ流星群』、確か先生によると、夏休みに入れば『ペルセウス座流星群』も観測できるはずだ。


「前に僕の家に来たときも思ったけど、伊藤さんて流れ星見つけるのうまいよね。」


「彩夏でいいよ。それに大ちゃんのことも名前で呼んでも良いと思うよ。だから私たちも秀くんって呼んでいい?」


 小野寺君、もとい秀君は頷いた。


「あ、そうだ2人に1つ提案なんだけど、今年の自由研究一緒にやらない?今回の一件でさ、日常生活に潜んだ科学的な現象を検証してみるのって面白そうだなって思ったんだけど。」


 彩夏は「賛成!」とすぐに飛びついた。僕も賛成だ。これで毎年最も悩む宿題は終わったも同然……とは口に出しても言えなかったので、「いいよ」とだけ返答した。

ふと空を見上げると流れ星が見えた。彩夏と秀くんは気づいていないようだ。思わず彩夏みたいに声を出しそうになったけれど、あえて何も言わなかった。


「梅雨」ほど小学生の気持ちを表している天気はないと思う。じめじめして憂鬱な梅雨が終わると、毎年夏休みが待ち遠しくてうきうきした気持ちになる。


でも、今年の夏は、小学生最後の夏休みは今までより楽しくなりそうだ。


そんな思いが真夏の晴れ渡った空に浮かぶ雲みたいにもくもくと膨らんだ。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

この作品は空想科学祭FINALに応募するために書き始めました。

投稿期間が夏ということで「夏らしく心霊現象とSFを絡めてみよう」と思ったところまでは良かったのですが……


皆さんが思われているように「これはSFなのか?」と聞かれるとかなり苦しいです……(笑)


また、最後にドカンと何かどんでん返しをしたかったのですが、器量不足もあって尻すぼみで終わってしまいました。この点は後悔していますが、反省点として次に活かせたらと思います。


今後ともよろしくお願いします。

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