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夏雲  作者: 逢内晶
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正体は流れ星?

 小野寺君の家は自転車で学校から10分ほどのところにあった。僕や彩夏の家とは正反対の方角だ。


「適当に座ってよ。」


 小野寺君はそう言って自分のベッドに座り、僕は床のクッションに、彩夏は勉強机の椅子に落ち着いた。部屋のサイズは僕や彩夏とそう変わらないと思うけど、本棚が多いせいか、3人入るには少し狭く感じた。


「教室で言ったように、今日はラジオから聞こえたという声について教えて欲しい。僕のクラスの友達から聞くよりも、実際に体験した人と同じクラスの人から聞く情報の方が信頼できるしね。」


「それはもちろん良いけど、僕からも1つ聞かせて欲しい。小野寺君は光の玉が写った写真って見た?」


「うん、見たよ。」


「その写真について話題にしないってことは、原因も分かってるってこと?」


 彩夏が「だからあれは生贄となった人の…」と言いかけたけど、聞こえないふりをして、小野寺君に説明を促した。


「うん。あれは心霊写真が好きな人達の間で『オーブ』って呼ばれてるらしんだけど、写真撮るときにはたまにあることだよ。オーブの正体は埃。埃に光が当たって反射すると、あんな感じに写るんだよ。」


 すかさず彩夏が不服そうな声で反論した。


「でもじゃあ、何でニュータウン開発に賛成する立場の人の方に多く写ってたの?それに体育館であった他の行事の写真には光の玉なんて写ってないよ。」


「きっと掃除の後だったからだよ。体育館に言ったとき、ちょっと埃っぽくなかった?」


 そう言えば、確かに埃っぽさは感じた。


「たぶん外部から見学者が来るから、いつもよりマメに掃除したんだろうけど、その埃が宙に舞ったままだったんだよ。賛成派の人の写真に多く写ってたのは、単純に発表した順番が先だったからだと思う。時間が経つに連れて宙に浮いていた埃が床に落ちたんだよ。それに、昨日は講演会のときに雨が降ってて少し暗めだったからフラッシュたいてたんじゃないかな。フラッシュたくと埃に直接光が当たるわけだからオーブが写る可能性も高くなる。」


 やっぱりすでに解決済だったのか。こんなことならもっと早く小野寺君に聞いておけば良かった。


「光の玉の説明はこのくらいでいいかな?」


 小野寺君が僕と彩夏を見渡して尋ねた。問題はこれからだ。小野寺君が『声』について話を聞きたいということは、まだ原因が分かってないってことだ。僕と彩夏が話して原因が分かるのだろうか……


「まず確認したいんだけど、松井君たちのクラスの子が声を聞いたのは昨日の夜だよね。」


「うん、私が聞いた話では21時過ぎくらいに『許さない』って小さなか細い声が聞こえたみたい。」


「ありがとう。実は家に帰ってから二人が来るまでネットで調べてみたけど、そんな声を聞いたっていう書き込みやつぶやきはなかったよ。となると、考えられる原因は1つ。」


 思わず僕と彩夏は身を乗り出していた。小野寺君は一呼吸置き、少しためらいながらこう言った。


「自作自演。」


「え?」


 思わず彩夏と声が重なった。


「あんまり同級生のことを疑いたくないけど、いくら何でもこの一連の騒ぎはうまく行き過ぎてるよ。前の2つの騒ぎは偶然だとしても、今回のも偶然で済ませるには都合がよすぎる。そこで、2人に聞きたいのは、その『声』を聞いたって子が自作自演をするような子だと思う?例えばそういうオカルトの類の話が大好きとか。」


「うーん、青木さんはどちらかというとおとなしい感じの女の子で僕の目からはそんな風には見えないな。一応一連の騒ぎで友達とオカルト関連の話をしているのは見たことあるけど、特別大好きってわけでもなさそうだし。」


「私もないと思う。今日本人から直接話しを聞いたけど、ものすごく怖がってて、もともと青木さんはこういう話がそんなに得意じゃないみたいだった。」


 僕と彩夏の返答を聞いて小野寺君は少しがっかりしている様子だった。さすがの小野寺君でもこの騒ぎの原因をつきとめるのは難しいようだ。


「こうなると、他に聞いた人がいないかもう少し詳しく調べてみるしかないかなあ。聞いたのが21時過ぎってことである程度絞り込めるけど、その子が聞いてたラジオ番組って分かる?」


 そこまでは知らないので彩夏の方を見たけど彩夏も首をふった。どうやらここまで来て完全に手詰まりのようで、小野寺君は少し悔しそうだ。今日はここで解散かと思ったけど、ちょうど小野寺君のお母さんが帰ってきて、ラムネやらわらび餅やらを頂いているうちに辺りは暗くなり始めていた。


「今日はありがとう。結局分からずじまいだったけど、もう少し調べてみるよ。」


 玄関まで送ってもらい、ふと空を見上げるともう星が出始めていた。


「あ、流れ星!」


 彩夏が空を指さしたけど、流星はもう消えていた。そう言えば今はみずがめ座なんとかっていう流星群が観測できるんだよな。今晩辺りにベランダから見てみるのも悪くないかもしれない。あれ?流星群とラジオと言えば……


 僕は小野寺君の方に振り返った。


「小野寺君、青木さんが聞いてた番組が分かったかもしれない。」


「本当!どんな番組?」


「昨日青木さんが聞いてた番組はないと思う。」


 彩夏と小野寺君が訝しげな顔をした。無理もない。自分でも意味不明な表現だとは思う。


「ちょっと大ちゃん、それってどういう……?」


 彩夏の質問を遮りながら質問する。


「彩夏、青木さんって普段からラジオを聞く習慣あると思う?」


「うーん、そんな話は聞いたことないから、たぶんないんじゃないかな。」


「だよな。だとすると青木さんはなぜ昨日ラジオを聞いていたのか。それはたぶんあれのためじゃないかな?」


 そう言いながら空を指差す。ただ、彩夏はまだ気づかないようだ。


「空?」


「違う違う、流星群だよ。」


「電波観測か!」


 いきなり小野寺君が声を上げたのでびっくりした。そもそも流星群がラジオで観測できるって知ってることにも驚いた。


「松井君、伊藤さん、本当にありがとう。これで何となく原因はつかめたよ。もう少し調べる必要があるけど、明日にはおそらく原因を報告できると思う!じゃ、また明日!」


 そう言い残すなり、小野寺君は急いで家にも戻っていった。その勢いの良さに僕も彩夏も少し呆気にとられていた。それに、あんなに嬉しそうな顔初めて見た気がする。これで、明日には一連の騒ぎの真相は全部解明されるんだろう。彩夏にとっては面白くないかもしれないけど、僕は明日が楽しみだった。


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