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夏雲  作者: 逢内晶
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校内新聞と『祟』

 昼休みになったので、校内新聞を見るために彩夏と教室を出た。校内新聞は職員室横の掲示板に貼り出される。近くまで来ると3・4人の生徒が新聞を読んでいるのが目に入った。ほとんどの生徒は朝か2時間目と3時間目の間の休み時間に見たのだろう。


「えっと、ニュータウン開発による里山破壊が特集で組まれてるみたいね。」

 

 彩夏の言うとおり、今回は特集記事でニュータウン開発のことに紙面のほとんどが割かれていた。

 僕や彩夏も含めて、この学校の生徒は20年ほど前から開発が始まったニュータウンに住んでいる。一応僕たちが生まれる頃に開発は一段落したと聞いていたけど、2年くらい前から第2次の開発が始まったと、高橋先生から聞いたことがある。正直なところ、僕はあんまり興味が無い。開発されるのは今まで森だった部分(正確には里山と言うらしい)で、あまり近づいたことがないからだ。でも昔から住んでいる人にとっては愛着がある地域らしく、反対の署名運動も以前見たことがある。


「特集とは言ってもそんなに珍しいテーマじゃないよね。普通の新聞でもたまに記事になってるし。」

 

 校内新聞が大人にも生徒にも人気なのは普通の新聞では取り上げないようなことを、面白く記事にしているからだ。確かに単なるニュータウン開発に関する記事だけではあまり校内新聞らしさが出てない。


「校内新聞クラブとしては一応開発には『反対』の立場みたいね。」

 

 僕はこれまで新聞には常に『事実』が書かれているのだと思っていたけど、高橋先生によると、それは大きな間違いで新聞にも『意見』がちゃんと書かれているらしい。彩夏によるとそれは『ニュータウン開発には反対』という意見だったようだ。


「大ちゃん記事の最後を見て!」

 

 彩夏が少し興奮した様子で記事の最後の部分を指さした。


「ん?えーっと『開発対象地域は昔神聖な場所としてあがめられており、天変地異を治めるために生贄を捧げたという言い伝えも残っている。開発に反対する人々の中には、そのような場所を開発することによる祟を恐れている人もいるようだ。』か。まあ、そういう人もいるんじゃないの?僕は全く信じないけど。」


「そう?私は祟があっても全然不思議じゃないと思うよ。」


 彩夏を見ると心なしか少しワクワクしているようだ。そう言えば彩夏は『学校の七不思議』みたいな話が好きだった気がする。ただ、『祟』にワクワクするのはちょっと不謹慎だよな……


「祟なんてそんな非科学的なこと有り得ないよ。」


 突然声をかけられてびっくりした。いつの間にか横にメガネをかけた生徒(上履きの色から考えるとどうやら同じ6年らしい)が、校内新聞を覗き込んでいた。んー、顔は何度が見たことがある。名前は、


「小野寺君だっけ?」

 

 彩夏がのどまで出かかった名前を言ってくれた。僕や彩夏は一度も小野寺君と同じクラスになったことはないけど、顔と名前は何となく一致する。小野寺君は僕達の学年で一番成績が良い生徒として6年生の間ではちょっとした有名人だからだ。


「やっぱりないかなあ、祟で工事を中止したって、時々テレビでも言ってるし、ありな気もするんだけど。」

 

 彩夏はそんなに祟が起きて欲しいのだろうか……


「ああいうのって大抵『やらせ』か無理やりこじつけてるだけでしょ。高橋先生が顧問していながらこんな記事載せるなんてよく分からないよ。この特集自体は明日に合わせて組まれたんだろうけどさ。」


「明日?」

 

 何かあったっけ?


「6時間目に今月の講演会があるでしょ。そこでニュータウン開発の賛成派・反対派の代表の人を1人ずつ呼んで話してもらうんだよ。」


 小野寺君はあきれたようにそう言うと、教室へと戻って行った。


「ああ、そう言えばそうだったね。」

 

 僕達の学校では月に一度外部から人を招いて色んなテーマについて講演してもらう。生徒はもちろん、地域の人も聴くことができ、今回のように対立する意見があるときは両方の立場の人を呼ぶことが多い。この「両方の立場の人を呼ぶ」というのが中々好評らしい。

 それにしても、明日のことなのにすっかり忘れていた。明日のことを考えれば、今回の特集は納得できる。それに、何といっても講演会は話を聴くだけでいいので楽だ。少しうれしい気分になりながら教室に戻った。


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