プロローグ
空想科学祭FINAL参加作品です。夏らしい作品になるよう意識したので、ご一読頂ければと思います。
「梅雨」ほど小学生の気持ちを表している天気はないと思う。1年間のうちで唯一祝日のない6月に始まって、夏休みが始まる直前に終わるなんてで出来過ぎている。
こんなことを僕が思うのは、今がまさに梅雨の真最中で、今日も朝から雨がじとじとと降り続いているからだ。あと2週間もすれば夏休みが始まるとはいえ、こうも雨が降り続くと、どうしてもどんよりとした気持ちになってしまう。
「ねえ大ちゃん、校内新聞が新しくなったみたい。見に行こうよ。」
自分のあだ名を呼ばれたので振り向くと彩夏が立っていた。
彩夏とは家が近所で小学校に入る前からよく遊んでいた。しかも、小学校に入ってから今まで6年間ずっと同じクラスだ。クラス替えがある度に母さんには「腐れ縁ねえ」と言われる。
「もうすぐ朝読書の時間始まるし、後にしようよ。どうせ今行っても人でいっぱいだしさ。」
「うーん、確かに人混みに入るのはちょっと嫌かも。じゃあ、昼休みに行こっか。」
彩夏が「人混み」と言ったけど、これはあながち間違ってない。僕の学校の校内新聞は先生からも生徒からも人気がある。毎月第1火曜日と第3火曜日に発行されるので、火曜日の朝には校内新聞を見る人だかりができる。
校内新聞がこんなに人気になったのは3年前にある先生が赴任してきて、新聞クラブの顧問になってかららしい。
「おーい、朝読書はじめるぞ。」
「ある先生」が教室に入ってきた。クラスメイトたちが慌てて席に着く。そう、「ある先生」とは僕のクラスの担任の高橋先生だ。何でも大学生のときに新聞や広告、テレビ(まとめると「メディア」と言うらしい)に関する研究をしていたことがきっかけで、新聞クラブの顧問になったらしい。
『先生の意見が正しいとは限らない』
『色んな人になりきって考えろ』
『君がそう思うならそれでいい』
が口癖のちょっと変わった先生だ。
僕は人に向かって「本が好き」と言ったことはないけれど、この朝読書の時間は嫌いじゃない。一日当たりたった10分間だけど、毎日やっていると2週間で1冊の本が読み終わる。このペースなら1ヶ月で2冊も本を読めて、僕には十分だと思うけど、隣のクラスには1週間に2冊のペースで本を読む生徒もいるらしい。すごいとは思うけど、うらやましいとは思わない。僕は僕のペースで読んでいけばいいんだ。
そんなことを考えていると朝の会のチャイムがなった。「朝の会」と言っても先生が出席をとって、一言二言何か言うだけだ。今日は流星群についてだった。何でも夏休中の8月に観測できる『ペルセウス座流星群』は明るい星が多くて見やすいらしい。今でも『ペルセウス座流星群』ほど見やすくはないものの、『みずがめ座デルタ流星群』が観測できるようだ。それに、流星群を『見る』のではなく『聴く』ことでも観測できるという話を聞いて驚いた。FMラジオであえて局番を合わさない状態で流星があると「コーン」という高い音がするらしい。
朝の会の後はすぐに1時間目が始まる。今日の1時間目は国語だ。国語は嫌いなじゃない。まあ、僕は嫌いな教科もなければ好きな教科もないんだけど。




