天使がほしい
TRRRR、TRRRRR。
「はい、もしもし」
「あ、貴明か? 俺、天使、ほしいんだあ」
ブツッ……、ツー、ツー、ツー。
TRRRR、TRRRRR。
「なんだ、変態野郎」
「変態野郎なんて言うなよお。俺にはちゃんと雅人って名前があるんだから、そっちで呼んでくれよお」
「突然『天使がほしい』とか意味不明のことを言うやつなんて、変態野郎って呼び名で十分だ」
「相変わらず口が悪いなあ……でさ。俺今、めっちゃ天使がほしいんだよ」
「……意味が分からない。どこかに頭をぶつけたか?」
「いやいや! そうではないんだよ貴明君。誰だって天使にあこがれるものではないか! 例えばだね、適当に電話したら、『お助け女神事務所』につながって、『君のような女神に、ずっとそばにいてほしい』なんて言ったら、それが現実になるとするだろ? めっちゃ幸せな気分になれるじゃん」
「ああ、うん。とりあえず雅人が何に影響を受けたか、それだけはようく分かった。漫画の読みすぎは体に悪いぞ」
「別にそれが原因じゃねえよ。俺は昔っから天使にあこがれてたんだ。例えば俺が『おーい、俺は今、のどが渇いておるぞよ』と言うとするじゃん。そしたらしずしずと現れて、『はい、温かいココアをお持ちしました、ご主人様』って天使が飲み物を持ってきてくれるとか、最高なシチュエーションだと思わね?」
「それ、天使じゃなくてただのメイドだろ」
「ちっちっちっ、甘いな貴明、甘すぎるぜ。天使だったらできるけど、ただのメイドでは絶対にできない事があるんだぜ!」
「ん? なんだ?」
「それは、羽プレイ!」
ブツッ……、ツー、ツー、ツー。
TRRRR、TRRRRR。
「なんだ変態」
「いや、ごめん。言い方が悪かった。だから電話を突然切るのはやめてくれ。ただ単に俺は天使の背中に乗って空を飛んでみたいってことを言いたかっただけなんだよ。それはどんだけがんばっても、ただのメイドにはできないだろ?」
「今更どんなふうに聞いても、お前の言葉は卑猥にしか聞こえん」
「まあ、そんなにエロチックに考えんなよ。要は、俺はただ単にかわいい美人な天使と、同棲したいって思ってるってことをお前に言いたかっただけなんだ」
「そんな宣言を俺にするな。うざいだけだ。このバカ」
……友達がいのないやつだ。こういう想像というか妄想というか、そういうものを突然誰かに聞いてほしくなる時ってあるじゃないか。
これ以上話をしても、貴明は『うざい』だの『変態』だの、悪口しか言ってくれないような気がしたので、俺は会話を打ち切ることにした。
「まあ、聞いてくれてありがとな。そんじゃまた」
「もう二度とかけてくんな。じゃな」
ブツッ……、ツー、ツー、ツー。
電話が切れたと同時に、俺はベッドに寝転がった。そして、そのまま物思いにふける。
「ふぅ……けど、ほんとに天使、来ないかなあ……突然天井を突き破って、俺の顔の上に着地するんだよ。キャッっていう声と同時に、天使のおしりと俺の顔がこんにちは! なーんて、なーんて!」
そんな風に俺はしばらくの間、身を悶えていた……そんな時、突然天井がバキッというものすごい音とともに、突き破られた。何が起きたと思った瞬間、誰かが降ってきた。
「ギャッ!」
そのまま俺の顔と天井を突き破ってきた誰かの尻がこんにちはってした。ついでに口が、相手のおまたとむちゅってくっついた。
こ、これはもしかして俺の妄想が具現化したのか!? やった! こんなうれしい時が来るとは!
く、くそ。こんなうれしいときだってのに、目の前が真っ暗だ。なんで顔が見えないんだ。
「す、すまない……突然羽の調子が悪くなって、ここに墜落してしまったんだ」
……ん? なかなかハスキーな声だ……天使の声というのは結構中性的な者なんだな……。
「お詫びに、何か一つだけ願い事をかなえてあげる。何か願い事を言ってくれ」
はて、ところで、顔の真上でむにゅむにゅする、この異物はなんなのだろう? 女性にはこんなものは普通ついてないはずなのだが……。
……こ、これはもしかして。男しか持っていない、あれなのではないだろうか?
「どうしたのだ? 無言になって」
顔をもぞもぞとさせていると、その異物の正体は、おっきな玉が2つと、棒があるということが分かった……。
「お、お、お前!? 男かあ!?」
「ま、まあ、一応男だが」
うわああああ! 終わった……終わったよ……まだキスもしたことないのに……最初に口づけしちゃった相手が男のあそこだなんて。
「なんで男のおまたと俺の顔とでこんにちはしなきゃいけないんだよ!? 早くどけよ!」
「す、すまぬ。落ちた衝撃で、ちょっと身動きが取れなくなっていてな……とりあえず天井だけは私の力で直しておく」
さ、最悪だ……早くどいてくれ! 自分以外の男についてるあれの感触なんて、いつまでも味わってたくないんだよ!
地獄の気分を味わっているときに、突然ガチャリと俺の自室のドアが開いた。
「ま、まさと!? た、貴明から聞いたんだから! 雅人って、天使がほしいんだって? も、もう、水臭いなあ。隣の家に、私って言う幼馴染がいながら……あんたみたいにモテないやつ……わ、私があなただけの天使になってあげても……って雅人?」
その時、きっと空気が凍ったに違いない……幼馴染の直美が見たものは、よくわからない格好をした男が、俺の顔の上にまたがっている光景だった。
天使が女なんて事はきっとないですね。
『お助け女神事務所』というのは、『ああっ女神さまっ』という漫画です。