第十四話 バトルエンド。勝者は――
ガン、ギイン。
ドン、ゴン。
およそ、剣で戦って聞こえる音ではない。樹は大剣を、九条の素早い動きに合わせて細かく動かしていく。
ギン、ギュン。
ぶつかる度に、振動と音が耳を痛くさせる。樹は眉をしかめた。
「降参はいつでも受け付けているよ」
「誰が」
細かく、両手剣ゆえに足りない速度を相手の剣を流すことに集中する。
対する九条は、樹の適応力に焦りを感じていた。
(僕に合わせてくるなんて)
普段、九条に付きっきりで教えてくれるのは剣術の名人だ。その名人ならともかく、樹は庶民。
(裕福な家庭育ちとは聞いているが、それでもここに入るまで訓練は受けていないはずと)
事前に聞いていた情報と違う、九条の中に焦りの他に苛立ちが浮かんでくる。
(いいや、勝つのは僕だ)
速度を上げる。リズムを保っていた剣の動きを、予測できないように。
レイピアの補助アプリが九条の動きに合わせて輝きを増していく。
(動きが変わった)
樹も気づいた。一定だったリズムから、速度を上げて時折感じる重い手ごたえ。
(戦闘補助アプリってのがよく分からないんだけど)
樹の中でアプリの機能に当たりをつける。恐らく、九条の動きに合わせて出力を変えるのだろう。
(それなら)
樹は次の機会を待つ。自分の勘を頼りに、相手の最も力を入れている箇所を探す。
(ここだ)
思い切って樹は剣で九条を弾いた。九条は、樹の突然の行動に目を白黒させている。
「魔術ブースト、風限定解除」
『承認』
樹の大剣が緑色に輝く。速度を得た大剣が滑るように九条の鎧を切りつけた。
「ちいっ!」
一瞬の無防備な状態を突かれ、九条の鎧の耐久値が減る。
「これは」
巻き込まれないよう離れた位置で見ていた教官が、手元のモニターを見て目を見開く。
「九条様の耐久値が残り540? いくら魔術ブーストがついている大剣とはいえ、そんなことあり得るのか?」
驚異的な数値である。九条の攻撃力の約5倍。
「大剣の構成を見ておくべきだったか」
教官の背後で見ていた職員が拳を握る。
「いや、まだだ」
教官の言葉通りだった。九条が樹の攻撃を弾き、素早くレイピアを鎧に突き刺した。
「耐久値……残り、730」
樹はまだ余裕がある。とはいえ、やはり洗練された九条の動きは教官たちからの目から見て気持ちがよい。
「動きに無駄が少ない。さすが九条さまだ」
思わずこぼれた言葉だった。
だが。
「……はあ」
九条はレイピアを構えて美しいフォームを維持する。樹はそれを見て首を振った。
「疲れないの?」
「何だい、急に」
「……模範的でいなくちゃいけないのって、疲れない?」
樹の言葉に九条の瞳から炎が消えた。
「……確かに幼い頃はきつかったよ。でも、僕は父を尊敬している」
「父のようになりたいんだ」
心からの言葉のようだった。少なくとも樹には、そう聞こえた。
「なんだ。ちゃんと考えられるんだね、君」
「なに?」
「神託だとか、周りばっかり気にして。自分の意思がないのかと思った」
樹の言葉の真意を、九条はどれだけ理解できたかは分からない。
だが、それは樹も同じである。
「君こそ。ルールを外れるという真の恐ろしさをわかっていない。分かっていないからこその、無謀な強さだよ」
九条は、諭すように言葉を重ねる。
「君の強さは、このままいけば恐らく誰かを傷つける。君を孤独にする」
「……気を付けるよ」
樹は剣を構えなおした。恐らく、お互いに次が最後。鎧の耐久値は関係ない。
樹も正直限界だ。先ほどから膝が震え、剣を取り落としそうになるのをこらえている。
九条も息が切れていて、疲労が隠せなくなっている。
「でも、訂正させてほしい」
「なんだい?」
九条の瞳をまっすぐ見て樹は告げた。
「俺には、椿さんと玄武がいるから。二人は、俺が間違っていたら叱ってくれる」
「……そうか」
九条の顔に笑みが自然と浮かぶ。
「それを、堂々と言える君の素直さが今だけは、羨ましいよ」
九条の足が地面を蹴る。樹も、最後の力を振り絞って走り出す。
「はああああっ!」
九条のレイピアが樹の首元を狙い貫こうと迫ってくる。樹が大剣で受け止め、弾く。
「魔術ブースト、制限解除!」
「攻撃ブースト、制限解除!」
樹の大剣が白く輝く。九条のレイピアが黄金をまとい、速度を上げて樹の心臓へ向かう。
「砕け!」
樹の命令を実行し、大剣は九条のレイピアを弾き飛ばした。この一撃に残っていた力をすべてつぎ込んだ九条は、樹の攻撃を受け止めきれない。
態勢を崩した九条に樹は更に踏み込み追撃を加え、鎧を破壊した。
「ばか、な……」
見ていた教官が声を失う。九条は倒れこみながら、微笑んだ。
「見事だ、三橋樹……完敗だよ」
その顔はどこか、満足げだった。




