第8話 友への贈り物
驚きで作業を止めてしまったリデス。
契約して従魔にしたのかどうかよくわからないけど、助けたらついて来たので一緒にいるということを説明した。
「それよりさ、何かしてたみたいだけど続けなくて平気?」
「あ、あぁ。今、受粉ってのをしてた。人族のじいさんに色々聞いてきてな」
綿毛をぽふぽふ白い小花につけている。
実がなるまでのあれこれを聞いたり、一緒にリンゴの世話をしたり、人族がリンゴから作ったお菓子を食べたりと忙しくしてきたんだって。
今までリデスはそのまま食べるかジュースにするだけだったみたいで、特に焼いたリンゴは美味しくってお気に入りだそう。
ぼくも好き。焼きリンゴとかアップルタルト、アップルクランブルにアップルパイとか。
話を聞いてるだけでも美味しそう、ぼくも食べたい。焼きリンゴなら自分でもできそうだからやろうと思ってるというリデスに、ただ焼くだけよりもっと美味しく作れる物あるよと、リンゴポットを教えた。
そう、リンゴポット!
陶器でできたリンゴの形をしてる。リンゴ丸ごと一個入る大きさ。上部が蓋になっていてぱかっと開けられる。その中に芯をくり抜いたリンゴを入れ、くり抜いたところに蜂蜜とバターを入れてオーブンで焼く。
蜂蜜じゃなくて砂糖使ってもいいよ。ここでは砂糖は希少で高価だから簡単に手に入らない。蜂蜜はこの森でも手に入るからね、妖精には蜂蜜!
オーブンってある? まぁ、なければ魔法でできちゃうし。
で、蒸し焼きにされたリンゴは、美味しさを一つも逃さず、ギュッとリンゴポットの中に詰まっているのだ。
蓋を開けた瞬間立ち上る爽やかなリンゴや、甘い蜂蜜と香ばしいバター、これらの香りだけでも美味しいってわかるよね。
ぼくがリンゴポットで作る焼きリンゴの説明をすると、聞いていたリデスが
「話だけでも、そのリンゴポットで作った焼きリンゴがどれほど旨くなるのか。オレも試して、食べてみたくなるな」
まだ試したことのないリンゴポットの焼きリンゴに思いを馳せている様子。ぼくも美味しさを思い出しちゃって想像にふけっていると、リデスはハッと本題を思い出したようで
「それよりもだ! お前がぶら下げてる瓶の中にある妖精の燈火、それはどうしたんだ?」
リデスから花のことを聞かれた。
「森で見つけてね。ピスタに教えてもらって、魔力でぐるんって包んだら枯れずに摘めたの」
この花を摘むまでのあれこれと、掲示板に寄ってからここへ来たことなど話した。
「これ、妖精の燈火で合ってるよね?」
「そうだな。オレが聞いたことある話と一致することが多い」
掲示板にあった情報の他に、妖精の燈火を見つけて採取しようとした妖精がリデスの知り合いにいるんだって。もっと小さい頃に会ったって。今のリデスも進化前だから小さいのでは、という疑問は置いておく。
その妖精、二箇所も咲いている場所を見つけたんだけど、一度も摘むの成功しなかったそうだ。それぞれの場所に一輪ずつしか咲いてなかったからチャレンジしたのは二回。
他の妖精が見つけたのも一輪だけしか咲いてなかったんだって。「一輪でも見つければすごいだろ」とリデス。
ぼくが見つけた場所は群生してて、まだ咲いているのがあった。
採取したいなら教えてもいいよと言ったけど、その妖精は「自分の目で見られただけでも幸運だった」ってもう探していない。今は遠くの場所で水晶の花を作ってるんだって。花は好きなんだね。
願いことが叶うってことも聞いてみたけど、
「オレも叶うらしい、ということぐらいしか。具体的にどうすれば叶うかまでは知らん」
「やっぱりそうかー。そう簡単になんでも上手くいかないよねぇ。」
「すまんな」
別にリデスが知らないのは何も悪くないし、もう気持ちが切り替わってるので気にしていない。知らないだろうなーってのは予想していた。い、一応ね。
「それでね、これあげる」
収納から妖精の燈火を一輪取り出し、リデスに差し出す。
「は? アルフ。なんで? オレに?」
「うん、ぼくからのお礼と、これからもよろしくねっていうのを込めて。ぜひ受け取ってほしい」
「いやいやいやいや。こんなすごいの貰えない。オレ別に大したことしてないだろ」
「ううん、ぼくすごく感謝してるよ。それにね、まだ妖精の燈火あるからリデスにあげても平気なの」
「お前何やってんだ。実物見れただけでも幸運だっていわれてるものを。それを採取して。しかもいくつも持ってるなんて」
最後につぶやいた「おかしいだろ。こいつの魔法どうなってんだよ」っていう言葉は、ぼくには聞こえなかったけど。
できちゃったからね。へへへ。妖精の魔法がすごいからね!
「妖精の魔法少し上手く使えるようになってね。思い通りできたから。たくさん咲いてて練習できたしね。それにピスタのおかげ。ピスタがいなかったら他の妖精と同じように失敗して終わったよ」
隣にちょこんと座っているピスタの頭を撫でるように、光の塊全体でもふもふを堪能する。うんうん、ついてるよねーぼく。
「リデス受け取って!」
「いや、もらってもいいんだが、オレが持ってるとそのうち枯らしちまうんじゃないか?」
「なんで? 収納魔法使えるよね」
「あぁ、だがオレの、っていうか普通の妖精が使えるのは時間が経過する。妖精によって時間経過の速さはまちまちだがな」
「え、ぼくが収納してるやつは、入れた時で時間止まるよ。みんなそうじゃないの?」
「あぁ、どの妖精も収納魔法使えるってわけじゃないしな。特に進化前の妖精は使えるやつ少ないぞ」
進化した妖精でもぼくみたいに完全に時間停止して、最初に入れたままの状態で劣化しない収納魔法使える妖精は珍しいって。
掲示板にあった魔法はどの妖精も、全部使えると思っていたよ。
「じゃぁ、リデスが収納しても時間経過しないような魔法できるかやってみる! そしたら受け取ってくれるでしょ。枯れないんだから」
「そんなこと……できるのか? いやアルフの特異な能力を発揮すればできるのか」
複雑で難しい顔をしてリデスが何かブツブツ言っているが、まぁいいや。放っておこう。
今は花だ! 枯れないようにしなくちゃ。
リデスにあげようと思っていた妖精の燈火。魔力が漏れ出さないように覆っているそれはそのままに、もう一枚結界を追加する感じで。それ以上劣化しないように、時間をそのまま止める?
今のまま、綺麗な姿をずっと保つ、イメージで魔力をぐっと瓶の中に込める。
最初覆っていた膜に新しい膜がくっついて、密着して、じんわり馴染んで一つに融合した。
「はい、これ。たぶんこれで枯れたりしないと思うよ」
「は? 今、何したんだ」
「えーと、枯れたりしないような魔法かけてみた。初めてだから成功したかはっきりとはわかんないけど。でも、もし枯れちゃってもいいから。とにかく受け取って」
リデスに押し付けるように差し出すと、今度こそ受け取ってくれた。
「わかった。もらっておく。ありがとな」
と、眉尻を下げ、ぼくと花を交互に何度も見るような動きをし、「ほう……」と花をじっと見ながら息を吐く。しばらく花を見て
「大事にする」
と一言。笑顔を見せてくれた気がした。赤い光の中にそんな表情がぼんやりと浮かんでいた。
ぱぱっと魔法を使って収納してくれた。よかった! リデスにぜひ見せたかったのもあるけど、お礼に何か贈りたかったんだ。
初めての妖精友達だし。友達、友達って思ってもいいよね? うん、ぼくは勝手にそう思っておくよ。
妖精になった瞬間からずっと見ててくれて、色んなこと教えてくれて、ちゃんとお礼ができてよかったー。嬉しい気持ちで、ふよんふよん飛んじゃう。
「これ、お前にやるよ。妖精の燈火の礼としては全然足りないけどな」
言い終わるより早く、目の前に瓶が三つ出てきた。全部リンゴを使った食べ物。リンゴバター、大きめのリンゴがゴロゴロ入っているジャム、中に角切りリンゴが入った飴。
おじいさんがリンゴ畑を手伝ったお礼にたくさんくれたから、「遠慮せずに受け取れ」って言ってぼくにくれた。
おぉー。人族が作ったもの久しぶりだよ。
さっそく一つ飴を食べることにした。あまーい飴。
リンゴの香りが鼻に抜ける。飴をかじるとカリッ、カリッと音がして、中からシャキシャキリンゴが出てくる。美味しい!
中のリンゴはリデスが魔法をかけたりして手伝い、美味しさが増したリンゴなんだと教えてくれた。
今日はこのまま、リデスと一緒にリンゴの木を見ながら過ごす。おじいさんの家のこととか、他にはぼくの前世の記憶にあったり、食べてきたリンゴ菓子の話とか。
今日はリデスと話しできて楽しい! 早く実がなるといいね。




