第7話 名前はピスタ
リデスだけじゃない。もっと見せたい人がいる。ぼくの大切な人たち、両親や兄上たち、ジェンマとヴァレリオ。みんなにも見せてあげたいからちょっと余分に摘んでおこ。
早く家に戻りたいな。そして家族にも会いたい。
家族のことを考えたら、ちょっと寂しくなったぼく。
その間にもふもふ君は準備を進めていた。空間魔法を使い、いくつもの瓶を出してくれていた。その瓶はいつ、どこで収納していたの? という疑問は訊かないよ。
「仕事、できるね」
今はそれだけでもとっても助かるよ。
その瓶に摘んだ花を一輪ずつ入れていく。ありがとうもふもふ君。こんなにたくさん、幻と言われた花が採れるなんて嬉しい!
大満足なぼくは足取り軽くスキップでもしそうな勢いで、飛んでるからスキップじゃないけど。一度拠点にしてた木まで戻ることにした。そこで休憩と一旦気持ちを落ち着けたい。興奮している自覚がある。
瓶に入れた妖精の燈火を魔力で持ち上げ掲げる。今は明るい昼間だけれど、ランプを持って夜道を照らして歩くイメージでね。たくさん採取できた嬉しさと、少しの自慢したい気持ちで!
ゆらん、ゆらんって瓶の中で微かに揺れる花も綺麗。
拠点にしてた木の上に到着。太く広い枝で休憩する。ぼくには花の蜜、ピスタには木の実を収納から出しておやつタイム。
ほっと一息ついて冷静になってきたら、そういえば……と
「願いごとって……いつ叶うんだろ? っていうか、まだ願ってない。誰かに言えばいいんだろうか。誰に?」
無事に花を摘めた喜びで忘れてたけど、摘んだ瞬間とかに何かが起きて願いを伝えて叶えられるもんだと思ってた。
今この花に願えばいいの? それとも摘む時に願いごと伝えたり、思ったりしながら摘んだらよかったんだろうか。
あれ? この話噂だった。「叶うかも」って話だった。確実じゃなかった。えーっ気づくの遅い。
うーん、まぁでもいいか。摘むために考えたり、思った通りの魔法使えたりするの楽しかったし。この妖精の燈火見ているだけでも楽しい気分になる。
ふと横を見ると、ここまでついて来たもふもふ君がいる。このままずっと一緒にいるならあったほうが便利だよね、名前。
「ねぇ、もふもふ君っていうのもあれだしさ、名前つけてもいい?」
「キュウ!」
かわいい返事をして、小さくジャンプするもふもふ君。名付けを許可してくれた。
「フェネックな見た目で、基本は茶色と白の毛並みなんだよね」
尻尾は、ふっさふさでくるんとしてる。色はまろやかな灰みの黄緑、ピスタチオグリーンの綺麗なグラデーション模様になっている。
「この尻尾の綺麗なピスタチオグリーンからとってピスタってどう?」
「キキュー」
嬉しそうに鳴きながら、小さく何度かジャンプして、頭をスリスリしてきた。光の塊でももふもふは感じられる不思議現象。そして弾き飛ばされない絶妙な力加減。喜んでくれてる。
「じゃあ、よろしくねピスタ」
「キュッ!」
返事をして頷くピスタ。かわいい。
名前も無事決まったことだし出かけるよ。リデス、戻っているかなー? ピスタと一緒にリデスのところへ見せに行こう!
さて、リデスのところへはどちらへ行けばいいのかと考えていると、ピスタはこっちだ! と指すように前足を出した。
「リデスのところ? こっちへ行けばいいの?」
そう質問するとピスタは嬉しそうに跳ねた。
ぼくはリデスのことを話したわけではないのに、ピスタはリデスの居場所を知っているみたいだ。
そして妖精の燈火の扱い方も知っていた。ピスタは普通の動物よりもずいぶん賢いのかもしれない。
「わかった。ピスタについていくよ。あ、途中で掲示板に寄ってからリデスのところへ行くよ! 案内よろしく!」
了解! とばかりに、ピッと前足を上げて敬礼を決める。
さっきピスタにお願いされて出した瓶入りの花。妖精の燈火を入れた瓶のランプを持っているかのようにしてふよふよ進む。他から見たら光の塊のぼくと瓶が縦に並んでふよふよしているようにみえる。
気にしないよ。ちょっと自慢したい気持ちが勝っちゃったんだ。しかたない。ふんふんふーんって知らないうちに鼻歌が口からこぼれ出る。
ぼくたちはのんびりと目的地へと歩き始めた。
先導するのはピスタ。ぼくはその後ろをついていく。
不思議な出会いだったけど、このピスタは何か知っているのかな。妖精の燈火がどうしてこんなところに群生していたのか、そしてなぜピスタがその扱い方を知っているのか。
んー、今は考えてもわかんない!
ピスタは話せないしね。知っている人がいたら聞こう。それか掲示板に情報ないか見てみよ。
ピスタの歩みはのんびりだけれど、確かな足取りで森の中を進んでいく。時折振り返ってぼくを確認するように見てくるピスタは、とってもかわいいし、一緒に過ごす仲間がいて楽しい。
ずんずん進んで、もう少し行けば掲示板の巨木があるあたりまで来た。出会う妖精はそれほど多くない。
一度人型の妖精を見た。蝶の羽根がついてた。すぐに森の奥に溶け込むようにすーって姿を消しちゃったけど。あんなこともできるって妖精すごい!
あとで姿を消す魔法練習してみようと思う。そしたらあいつらに何か言われずに済んで、掲示板も他のことも気にせずできる。今後の課題。リデスに会った後はそれを研究しよ。
こそっと、掲示板のあたりを覗く。青、白、緑の三人組はいない。
初めて来た時は羽つき妖精は、あいつら以外いなかったけど今回はいる。光が一つと、羽つき妖精が二人、羽はトンボの羽みたいなやつ。羽も色々種類があるんだね。
何か新しい情報とか妖精の燈火のこと調べたいから行ってみる。ぼくをみて羽つき妖精が、目を見開き、体をビクッとさせて、その場から後ろへ避けた。
一応先輩妖精には一言断ろうと思い
「あ、あの。ぼくも掲示板見ていいですか?」
「あぁ、妖精なら自由に利用してかまわない」
片方の妖精が応えてくれた。凝視されているけど。いきなり魔法で攻撃されなくてよかった。
なんだろ。やっぱり嫌がられているのかな。あいつらぼくの事、悪い風にあちこちで広めているのかも。気にしても仕方ない。あいつらが来ないうちに済ませよう。
羽つき妖精たちから何も言われなかったので、そのまま掲示板で情報集めることにした。
あ、ずっと下の方に進化したての妖精さんのこともほんのちょっとだけあるね。そんな情報、前はそこまでゆっくり見られなかった。
妖精の燈火について、真偽はともかくいくつか目撃情報が更新されてたが、他に新しいことはなかった。
願いごと本当に叶うのかとか、どうやったら叶うのかについても詳しく知りたかったけど、前回と同じで採取できた人が未だ他にはいないから、叶うらしいということ以上の事はなかった。残念。
他には、新しい魔物の目撃情報があった。最近出現し始めたらしいから、まだ未確認のことが多いって。
飛ぶ魔物で、花の形か何かの植物を模した杖みたいな武器を持っている。小さいけれど、魔力が膨大なのが離れていても感じられるほど強力で、その魔力に触れると危険。妖精に被害は出ていないが気をつけるようにと。
目撃されたのは魔物同士で暴れていたところだった。目撃しても近づかない、他に何かわかったら報告することってあった。遭遇しないように気をつけよ。
ぼくが試してできた妖精の燈火の採取方法を掲示板に載せようか考えていると、まだ遠いが光の妖精がちらちら近づいてくるのが見えた。他の妖精たちが増えてきて、また因縁つけられたり、もめて他の妖精に迷惑かけたりするのも面倒だなと思う。
リデスのリンゴの木ところへ向かおう。
森の中を歩いていると、時々妖精たちが姿を現しすれ違うことが増えた。みんなピスタと花を見てその場に止まったり、ぼくを見て驚いた表情を浮かべたりしていた。
「あれは……妖精の燈火?」
「あんなの見たことない!」
「黒い妖精と一緒にいるのは何?!」
ざわざわと声が聞こえてくる。でも、前のように追い払われたりはされない。みんな好奇心いっぱいの顔で見ているだけだ。
ピスタはそんな視線にも気にする様子もなく、ずんずん先へ進んでいく。気にせずぼくもそれについていった。
やがて森が開け、リデスのリンゴの木が見えてきた。
「あっ、いた! リーデースー」
リンゴの木の周りを飛び回りながら何かしている? 作業中みたいだ。
木の周りを飛んでいた赤い光がこちらを向いた。
「おお、アルフか。戻ってきたんだな。ん? それは……」
リデスがピスタと妖精の燈火が入った瓶に気づいて、急いで近づいてきた。
「信じられない……それは妖精の燈火か! アルフが採取したのか? どうやって……」
挨拶もそっちのけで驚いた様子のリデスの質問攻め。
ちょっぴり久しぶりに会ったリデスは、光のなかの人型がさらにはっきりと見えるようになっていた。光の中で人型のリデスが口を動かし話しているように見える。進化が近づいているのかも。
「この子が手伝ったり、教えてくれたんだ」
ピスタを紹介する。
「見たことない珍しい獣だな。妖精が契約して従魔を連れてるなんざ聞いたことないが、どうしたんだそれは」
ピスタをじっと見つめながらリデスの驚きは続いた。




