第6話 採取
これが……妖精の燈火、なんじゃないかな。しかも数多が多い。こんなにまとまって咲いているとは思わなかったよ。
あの絵には一輪だけだったし。見本だからよくわかるように一輪だけ描いてあったのかな。
合っているよね? 近づいてよく確かめてみることにした。
ぽや~んと光る花を間近で観察。
「やっぱりこれだ!」
妖精の燈火。掲示板で見た絵と同じ。薄く白い花びらが透き通って、ほんのりと光を放っている特徴そのままだ。
掲示板の情報によると、傷つけるとすぐに枯れてしまうらしい。どうやって持ち帰ればいいのー。
石の裏側に掛けられた朽ちた倒木の上に、一輪、二輪……七輪の花が咲いている。
ぎゅっと密集はしていなくて、花と花の間は少し離れている。その周りには赤と白のグラデーションキノコが何本も生えていて、なんだか神秘的な雰囲気だ。
まだ昼間だから、花の発光はかすかにしか見えない。夜になったらきっともっと綺麗に光るんだろうな。
「どうしよう」
しばらく考える。うーんどうしたらいいかな。
考えながら、倒木の周囲をぐるりと飛んでみる。違う角度からよく観察する。
もうすぐ倒木の周囲を一周し、元の場所へ戻ろうしたところで、後ろから妙な気配を感じた。振り返ると、木の陰から何かが見ている。黒い影が一瞬見えて、すぐに隠れた。
「誰?」
恐る恐る近づいてみると、小さな動物か何かが震えながら隠れている。
大きさはリスくらい。フェネックのような見た目に、リスのようなふっさふさの尻尾を持ったもふもふな動物だ。よく見ると体の一部が黒く変色している。
「こんにちは。大丈夫だよ、怖くないよ」
ゆっくりと近づいて声をかけると、その小さなもふもふ君は震えながらもじっと見つめ返してきた。まるで何かを訴えかけているようだ。
体の一部、右後ろ足が変色して黒ずみ、黒いもやもやが出ている。瘴気か呪いか、ぼくみたいに魔人と何かあったのか。
とにかく良くないものに侵されていると思う。魔獣化し始めているのだろうか。でも目はまだ普通の動物の目をしている。
「怪我してるの?」
もふもふ君は「キューぅ」とかすかに鳴いて、こちらに視線を向けたまま動かない。恐れているようだけど、逃げもしない。助けを求めているみたいだ。
瘴気や呪いを浄化したり解呪する方法……そんなのどうすればいいかわからない。
んー、試しに汚れを取るだけの浄化の魔法をかけてみよう。ぼくが使える魔法のなかで、似たような効果のものだから。汚れた体なんかをきれいにするあれだ。ついでに悪しきものを清めるイメージも追加しながら
「浄化の風よ、穢れを祓い、澄み渡れっ」
軽やかな風の魔法を小さく唱え、優しくもふもふ君の足に向けて放つ。風が黒ずんだ部分を包み込むと、びくっと体を震わせたけれど、逃げ出そうとはしなかった。
しばらくすると、黒ずみが少しずつ薄くなっていく。風の魔法に乗せた浄化の力が効いているみたいだ。
「よかった……」
完全に黒ずみが消えると、ぼくの周りをぴょんぴょん跳ね回っている。
「うわっ、びっくりした! よかったね、治って」
もう大丈夫そうだ。元気になったことを確認し、ぼくは妖精の燈火の採取をしようと移動する。もふもふ君もぼくの後を跳ねるような足取りでついてくる。
再び近くに寄ってじっくり観察。
何度見ても幻想的な光を放っているのってすごい。この辺りはちょっと薄暗くて、そのせいかジメッとしてて陰鬱な雰囲気。明かりが必要なほどじゃない。茎から花まで全体が光っている。うっすら透明っぽいけど、その形はよくわかる。
魔法? 魔法を使える植物? いや違う、そんなわけないよね流石に。
この森に生えているから魔力持っているのか。そうだった、魔力持っているから妖精が好んで食べる植物あるんだった。魔力で光っているから、こんなふうになるのー。
うわー綺麗。ホント綺麗。ぼーっと見とれちゃうよね。
上手く摘めるといいけど。普通に摘んだら黒く干からびちゃうんだよねぇ。掲示板に失敗談として書いてあった。
でも、一回やってみよう。上手くできるかもしれないし。自分でやって確かめてみないとわからないこともあるし、試しにね。
他の花を摘む時と同じように、風魔法で根元を切って一輪摘んでみた。
が、切った瞬間、花の光が消えた。みるみる変色し、萎れた。
白く透けていた花びらが、透明感ゼロの濁った黒へと変わった。カッサカサに乾いて黒色に変容した。見る影もない。
ついでに魔力も消えた。
掲示板に書いてあったとおりだね。
切ってから何か処理を施すってのは間に合わなさそう。いや、すっごい速さでやればできるかもしれないけど、ほとんど無理。
「うーん……」
切る前に何かする? 根ごと引き抜いても……一瞬で全部枯れちゃいそう。
でも群生しているから、土の下でつながっているのかもしれないし。
どこかの大元のから切り離されたら、その瞬間繋がってるものもダメになっちゃう。
大元の何かごと摘んで全部ダメにしちゃうのは絶対に避けたい。やっぱり一輪ずつ試しながら慎重に摘もう。
他の魔力がある植物は、木とか花の茎とか、根から切り離しても別にすぐ枯れたり、魔力なくなったりしないよねぇ。食べたら魔力とか回復するし。花もしばらく時間が経てば、普通の花みたいに萎れて枯れるけど。こんな一瞬で枯れたりしない。
木の実や果実は収納しとけばずっとそのままだ。
「切って摘むんじゃなくて、収納しちゃう?」
一輪だけ収納ってできる? 繋がってて、まとめて一株ってなっているっぽいけど。
その前にもう一回じっくり観察してみよ。へへ、ちょっとビビりなのは人族の時と一緒だね。慎重なんだと言っておく。
はっきり違うのはぽやんと光っていること。かすかに、花から溢れ出ているみたいに光っている。こんな時、植物図鑑とかあったら便利! なんだけどなぁ。
前世のぼくは、もっと簡単にこういうのを調べられてたなー。妖精の掲示板も持ち運びできてどこにいても閲覧できるようになったらいいのに。そしたらすごく便利~。
他の違いは、本体から切り離すと光と魔力が消えちゃうこと。魔力が無くなるから消えちゃうのか? あの光は魔力が光っているのかな。
花本体は、透けている白っぽい色だ。魔力がずっと本体から流れているのか。ずっと流れてないと枯れちゃうやつ。それとも切った所から抜け出て枯れちゃう?
抜けちゃうんなら、魔力が切り口から漏れ出ないように蓋か、栓をしたらいいのか。
茎に栓をするって変。んふふ。茎にコルク栓をするとこを想像しちゃった。そもそも茎にコルク栓入らないし、無理やり入れても茎が裂けるだけだよ。ばかなこと考えちゃった。
切り離してからも、魔力を送り続けるようにすれば枯れない? でも、それってかなり難しそう。魔力を供給する何かが必要だね。魔石かな?
倒した魔物から時々、コロンって出てきた魔石。あれ魔力の塊だよね。あ、魔物の魔力ってダメかな。
でも普通に人族の時利用してたよね。明かりとか、他にも色々。いける? いけないね、そこに繋げている間に枯れるね。結果はカラッカラの真っ黒だよ、多分。
あれこれ独り言をぶつぶつ言いながら考えていたら、もふもふ君が、ぼくの方を見て首を傾げた。そして、
「キューッ」
と鳴きぼくを見上げる。さらに、何かを伝えようとするかのように鳴く。
「キキュ、キュッ、キュッ」
「この花のこと、知ってるの?」
もふもふ君は嬉しそうに跳ねた後、花に近づいてその周りをくるくると回りはじめた。すると、花がより明るく光りだした。
「すごい」
もふもふ君が花の周りを三周回ると、花が淡い光を放つ何かに包まれた。魔力かな?
後ろ足で立ち、前足二本を前に突き出し、魔法の刃を放って、その境目をスパッと切った。花は萎れることなく、むしろより明るく輝いている。倒れないのが不思議。
ぼくの方を見て、鳴き声をあげた。まるで「ほら、これでいいでしょ」と言っているようだ。
「そうか! 魔力で覆ってから切ればいいんだね」
そして、いつの間にか、小さな前足と身体でぎゅっと抱えていた小瓶。瓶はその中から花を包んだのと同じ淡い光を放っている。
魔法で瓶の栓をとり、摘んだ花を浮かせて移動させ瓶の中に入れ栓をする。その瓶をぼくに差し出してくる。
「ぼくにくれるの?」
「キュゥ」
と鳴き、頭を動かし頷くしぐさ。
「ありがとう! 嬉しい。ぼくにもできる? 残ってる花で試してもいい?」
その問いに答えるように、もふもふ君は花の根元に近づきピピッと花を指し示す。
「よしやってみよう!」
もふもふ君がやってくれたように、魔力で包むんだ。切った箇所から魔力が漏れ出さないようにする。
あれだ。前世の記憶でぼくも使ったことがある、傷の治りを早くする薄いシートみたいなものだ。傷口を乾燥させないシートで全体を覆ってみるイメージをしてみよう。
そのシートをもっと薄く、透明にしたもので、どこからも流れ出さないように。
イメージは出来た。
よし、切る前に全体を魔力で包むのを試してみようか。
花びらの先端から茎へ向かって、薄く膜を貼るように魔力を丁寧に流していく。
花全体を包むように、結界を張るみたいに覆う。中の魔力が外に漏れて霧散しないように、そーっと。
簡単に壊れないよう強度をもたせる。花の動きを邪魔しないようにしなやかに。それを切り離す位置まで持ってくる。
もふもふ君が見せてくれた通りに!
最後は妖精の燈火の茎に馴染ませて染み込ませるように、魔力を素早く、鋭く入れ込み、全体を覆う。妖精の燈火に流れているほんの少しの魔力も漏れ出さないように。
「おぉぉー! 変色してない!」
花は変わらなかった、切り離しても。白く淡い光を放ち、魔力もちゃんと残っている。
上手くいった! ほんとに採取できたーっ。
もふもふ君が見せてくれた方法で、ちゃんと成功したんだ!
できた。本当にできちゃったよー。
嬉しさのあまり、ふわんと浮かんで一回転しちゃう。んふふふ。もう一回ふわんと浮き上がっちゃう。
人族ならきっと、花を両手でかかげてちっちゃいジャンプを何度もしている、そんなつもり。ぼくは元々浮いているから微妙に違うけど、気持ちは同じだ。
この嬉しい気持ち誰かに話したい。そうだ、リデスに話したい。見せたら、きっと驚くだろうな。これは、絶対リデスに見せに行かなきゃ。




