第5話 森の探索
妖精になって、たぶん二日目。
正確にはわからないけど、一度眠って起きたから、今日は二日目ってことにする。
ぼくが妖精に種族変更されてからどれくらい時間が経ったのか正確にはわからない。けれど、ざっくりでも時間の経過を把握しておきたい。
だってさ、そんなに疲れないし、眠くない、お腹もすかないぼくになっちゃったんだ。
でも、休むのは大事だからね。広めの木の枝の上で眠ってみたよ。あと人族だった頃の習慣も、忘れないようにしたい。
人族だった時の習慣が染み付いているし、なんとなく忘れちゃいけないような気がする。だから、休憩や睡眠、水分や食事はとるようにしている。
そういうことを忘れてしまったら、家族のこともいつか忘れちゃうんじゃないかって不安もある。
この森の中は妖精に必須の魔素が豊富にある。ここにいるだけで少しずつ吸収しているんだと思う。
だから必ず何かを食べなくても、お腹がすくことはない。ただ、何か食べると、その分魔素が早く吸収できるから自然回復よりずっと早く回復する。
でもぼくは飲んだり食べたりするよ。だって美味しいものの情報知っちゃったし。知らない美味しいものたくさんあるんだよ。
一度は試したくなるよね。
通り道に、美味しい朝露の在り処として載っていた場所があったので飲んでみた。
飲み食いするといっても口があるわけじゃない。丸飲み? 光に吸い込む感じ? そんな感覚に近い。
飲もうと思ったら、すーっと朝露がぼくの中に入ってくるのを感じた。
滝の近くに生えている、植物の葉に貯まる朝露は美味しいらしい。うん、ほんのり甘くて美味しかった。
適当な場所で飲んだ朝露は無味無臭だったり、ちょっと苦かったり。その植物に由来するのか、周りの環境の影響を受けるのか。
美味しいもの情報は正確だってことがわかったよ。
そういえばリデスってリンゴどうやって食べたんだろ。
丸飲みかな。それとも魔法で小さく刻んでちょっとずつ? その時からうっすら姿があって口から普通に食べていたのかも。今度聞いてみよ。
そして魔法。妖精になってから実践で使うのは初めて、もちろん生き物に対してもだ。
初めの頃は獣。ぼくに向かってきた獣だけだけど。攻撃してこないならそっとしておこうね。
人族だった時は、実戦経験なんて機会はあの魔人だけだったから、まともに戦うのは初めてでぶっつけ本番。どうなるのかと心配したけどなんとか倒せたよ。
最初に出くわしたのは、イノシシみたいな獣。
大きくて、突進しかしてこない単純な動き。魔法の試し相手としてはちょうどよかった。氷弾で簡単に倒せた。
倒した獣は全部収納している。何かに使うかもしれないし、異空間収納の容量、どれだけ入るのか確認のためでもある。
今は獣に魔獣が追加された。魔獣は見つけたらとにかくやっつけた。魔素が瘴気に変わり、その瘴気に当てられ変容した獣が魔獣。
生きたまま瘴気を払い獣に戻す方法はまだない。魔獣に見つかったら必ず襲ってくるから仕方ない。
人族だった時に使えた魔法は全部使えた。以前は体の中で何か詰まる感じがあって魔法の発動まで時間がかかっていた。
今はイメージしたらそのままの魔法が簡単に使えるようになって、速攻で攻撃できる。
しかもしょぼい魔法じゃなくなった。同じ魔法なのに、威力がぜんぜん違う。一気に強くなった。
これは、かなり嬉しい!
試しに一度、人族では上級という風魔法使ったら、その方向の大木が何十本もサクッと切れて、なぎ倒せた。怖い。威力強すぎ怖い。
妖精すごい。妖精ってみんなこんなに使えるんだね。でも、使う場面は選ぼう。むやみに使っちゃダメだ。
時々現れる魔物。魔物は倒すと黒い灰みたいに、体が粉々になっていく。最後は灰も消えてなくなる。魔素から作られている魔物や魔人は死ねば魔素に還元されて消える。
どこから、どうやって生まれてくるのかはまだ解明されてないけど。消える理由はそうだ。
掲示板の巨木からはだいぶ離れたところ。途中まではあちこちでふよふよ飛んでいた妖精も見なくなった。
代わりに魔獣や魔物が食べ残したのか、誰かが倒してそのまま放ったらかしにされた獣を見かける。
変なところまで来ちゃった。でも、他の場所には妖精いたし、すでに調べ尽くされているんだ。目撃情報も殆どなくさほど調べられてない、他の妖精が来ないのはこの辺りだ。
ちょっと危険度が上がるのは事実。きれいな花も、美味しそうな果実も、いい香りのする草も見当たらない。あるのは、びっしり苔に覆われた倒木ばかり。
小さな丘? って感じのこんもりした土。そこから、白い牙らしきものが突き出ていた。何の獣だったんだろ。
他には、食べられそうにないキノコがびっしり生えているサークルだったりがある。
「なんのサークルなの」
進化した妖精さんが、妖精のサークル作っている現場のぞき見しちゃったけど、後に生えたキノコは可愛かったよ。綺麗に等間隔に並んで、つやつや、新鮮! って感じで、サークルの中は小花が咲いていた。
隙間なく、びっしりとぎゅうぎゅうにキノコだけが生えているのとは違うね。キラキラ妖精があんまり好きそうじゃないよね。うん。昼間でも薄暗いし、怪しさしかないようなところだ。
「ないなー妖精の燈火」
拠点にしている木の周りを、四つに分けて一方向ずつくまなく探している。
今日は最後の北方向。この場所で一周したことになる。ここでも見つからなかったら他の場所へ移動だね。
あ、それとも一度違う時間に探してみようか。朝だけとか、夕方から咲く花もあるって前世の記憶に残っている。
「探す時間を変えてみるのもいいかもなー」
そんなことを考えながら、北側へふよふよ飛んで進む。途中見つけた小川沿いに注意深く、あちこち探しながら進む。
大人の人ならがんばれば一人でも登れそうな、小さな崖というか段差がある所まで来た。ま、飛んでるぼくが進むのには何の問題もないんだけどね。
川はその上から流れ落ちてきている。滝というほどの大きさじゃない。
ここで一旦休み。そんな疲れてはないんだけど。ぐるりと一周見回し、考える。段差の上へずんずん先へ、先へ進んでみるか。
「いや、どうしよっかなー」
うん、この段差までを一区切りってことにして、進むのは後にしよう。段差の手前一帯を見て回ろう。川沿いから離れて木々が生い茂る中に入って探してみよ。
うーん、妖精全然見ないなー。実際歩いてみて、あと慣れたのもあるけど、怪しさや怖さもあまり感じなくなってきた。魔物も出てくるけど、みんな妖精で魔法使えるんだからちょいちょいって簡単に退治できちゃうのにね。
やっぱり黒くて禍々しい見た目? 見た目が嫌なの?
清らかっぽいしね。そういうの好むっていうし。
だから黒には、どうしようもない嫌悪感とか、生理的に受け付けないもので嫌な感じが耐えられないの?
ぼくは、
「ぼく自身から黒いキラキラ出ちゃっているから平気なのかな?」
その事ももう全然平気。小さい魔物は寄ってこなくなったので、手間が省けて楽ちん! って思うことにした。
掲示板で見た絵とそっくりな形の花を見つけた。花の周りに、中心が緑色で外側に向かって白のグラデーションのキノコが数本ぱらぱらんて少しバラけて生えている。
すごい色のキノコ。ちょっと離れて咲く、真っ赤な花。形は似てるけど色違いだね。
掲示板の絵にあった花は、白くて透き通っているような花だった。
ぼんやりと光っているようにも見えた気がする。
「赤じゃないんだよなー」
昼間じゃ光っているのわかりずらいね。やっぱり夜? 夜探したほうがいいのか。
見つけて持ち歩けば、ランプみたいになりそう! って、だから妖精の燈火なんだよね。名前つけた人センスいい。
色違いの赤い花を、風魔法で茎を切り摘んでみた。そのまま魔力使って近くまで運んでくる。普通に綺麗な赤い花。妖精の燈火とは違うみたい。一応しまっておこ。
妖精の燈火の特徴の一つに、ちょっとでも傷つけちゃうと色は黒ずみ、生気を失い、カラカラに乾燥し萎れてしまうってあった。
普通に摘んだらダメなやつ。むずい。難しそう。だから見かけたよって情報はあっても、実際に摘んだよって妖精はいないんだ。
木の間と落ち葉が敷き詰められた、足で歩けばふかふかそうな地面をした森を進む。少し湿ってそうだから、人族だったぼくが歩けば派手に転びそう。
草はあんまり生えていない。時々数個まとまって生えているキノコを見つけるが、近くに花は咲いていない。茶色くて、どこにでもありそうなキノコばかり。
最初に見つけた赤い花以外見つけられていない。赤い花でも結構珍しい花だった?
「あ、またあった。グラデーションキノコだ!」
今度のは中心が赤。いや、薄い赤、というより濃いピンク。
それぐらいの控えめな赤が、外側に向かって白く広がるグラデーション。一つだけだけど。
ふよん、くるりと、ぼく自身が左右に回転してグラデーションキノコを探す。
「あ、あれグラデーションっぽい」
半分回転したあたりで見えたキノコ。さっきのより一回り小さい赤から白のグラデーションキノコが石の下に三本生えていた。人だった時のぼくくらいの大きさで、苔がびっしり生えた石。
裏側を見てみると、さらにあった! グラデーションキノコ。
六本がぱらぱら少しばらけて生えている。ずいぶん前からそこにあったであろう朽ちた倒木が大きな石へ斜めに掛かっている。かろうじて倒木だったとわかるそれは、落ち葉にまみれている。
そして、そこに——ぽや~んと微かに光を放つ花を見つけた!




