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強制種族変更で妖精ライフ! ~転生辺境伯家四男ののんびり満喫!小さな美味しい冒険~  作者: 朝森朔


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第30話 番外編 秋の終わり、冬の始まり、実りの儀式

「リンゴは今年も豊作で質の良いものが収穫できたそうです」


 そう話してくれたのはイケメン従者兼護衛のヴァレリオだ。僕が戻ってからも、ヴァレリオはさらに厳しい訓練をしている。そして時々心配が過ぎて目の光が死んで僕をぎゅっとしてくる。どうしたものか。


「それはそうだよね。リデスがあのリンゴ畑手伝ってくれてるんだもん」


「リデス様というのは、アルフレード様が妖精の森で大変お世話になった妖精ですね?」


「うん、そう!」


 僕が妖精に種族変更して妖精の森に出現するところから知っていて、何かと助けてくれたリンゴの妖精リデス。


「元気にしてるかなぁ」


 少しひんやりしてきた外の庭を眺めながら、僕はキリッと綺麗系な専属侍女ジェンマが淹れてくれた温かいアップルティーを飲んでいる。もちろん今年収穫されたスライスリンゴがティーポットにたくさん入っている。


「はふぅ~。美味しいし温まる」


 フレッシュな甘酸っぱいリンゴの香りが鼻に抜けて、紅茶とよく合ってフルーティな味わいだ。


「ん? あれは?」


 庭に植えてある栗の木に、ふわふわと光る何かがたかっている。よく見ればすぐに分かる。


「光? いや妖精? でしょうか?」

「何をしているのでしょうか?」


 一緒に様子を伺ったヴァレリオとジェンマ。


「妖精さんだね。栗拾ってる」


 全体的に茶色。頭の帽子全体がツンツントゲトゲなやつだったり、先がとんがった栗の実の形をしてたり、三角帽子の先端に栗のイガイガが付いてたり、栗の実が三つついてたり。


「個性的すぎる、んふふっ」


「可愛らしいですね」


 うん、ジェンマと同意見。自分より大きな栗をイガイガごと抱えてふよんふよんと飛んで喜んでいる。かわいい。けど痛くないのそれ? 他にも落ちている栗を拾ったり、魔法で栗の木を揺すって栗を落としたりしている。


 三人で妖精の栗拾いを見ていると、他の妖精は栗拾いに夢中な中、一人の妖精がこちらへふわふわ飛びながら近づいてきた。窓をコンコンと叩くので、ヴァレリオが窓を開けると、ふわっと入ってくる。


「どうしたの?」


「君、リンゴの妖精と一緒にいた妖精だよね?」


「うん、そうだよ」


「なんで今日ここにいるの?」


「なんでって、ここ僕の家だから……」


「僕たちは、リンゴの妖精が大切にしている大きな畑の近くから来たんだけど……その妖精、今年のアップル・ウェッセリングの準備で忙しくしてたよ。君は行かなくていいの?」


「アップル・ウェッセリング?」


「うん、だいじな儀式でしょ?」


「それは、どんな儀式?」


「リンゴの儀式! 僕は栗の妖精だから詳しくは知らないけど。リンゴの妖精に何してるのか訊いたら、毎年欠かさずやってる大事なアップル・ウェッセリングの準備って言ってたから」


「そっか。その大きな畑って妖精の森の中? それとも人族の畑?」


「妖精の森の外だよ。『じいさん』って呼んでた人と一緒だった? かも?」


「あー、それはたぶん、畑を管理しているおじいさんだね。場所はきっと僕の家のリンゴ畑だね」


 行ったほうがいいよね。うちの畑だし。どんな儀式かも気になる。でも、領都からは遠いよね。僕一人なら妖精の通り道で行ける? 一人で行くって言ったらみんな心配するだろうなぁ。あれこれ考えに耽っていると


「今日はさ、境界の日だから道が開いてるよ。僕達もそれを利用してあちこち栗拾いに行ってるんだ」


 秋の終わり、冬の始まりの時の数日間、境界の扉が開いて行ったことがない場所でも行けるようになるそうだ。行ったことある場所しか行けない妖精の道の上位互換的な? それを妖精と一緒に利用すれば人族も通り抜けできると。


「行くしかないね!」


 うん、一人だと心配かけるならみんなで行けばいい。ジェンマとヴァレリオたちに頼んで、さっそく家族に伝えに行ってもらう。


 両親も、三人の兄たち、ジェンマとヴァレリオ、護衛数人で行くことになった。


「領主として、行って儀式を執り行わねばなるまい。今年の豊穣への感謝と、来年の恵みの祈りを怠ってはならぬ」


 と父上はとても張り切っていた。


 協力してくれる栗の妖精さんたちには、栗ジャムとマロングラッセをお礼として渡した。ふふふ、僕監修のごろごろ栗入りジャムは美味しいよ!




 夕暮れ時のリンゴ畑。生い茂っていた緑の葉も落ち葉となり地面を覆っている。赤いリンゴの実も収穫され、枝と幹だけになったリンゴの木。


 儀式はリデスが選んだ今年一番のリンゴの木。周りを囲むように辺りは魔法で照らされている。


「リデス! 久しぶりー」


「おぉ、アルフ来たのか?」


「うん、うちに来た妖精さんたちに、今日リデスたちが、大事な儀式をリンゴ畑でやるって聞いて。ぜひ手伝いたいと思って。うちの畑だからね」


「そうか。助かる。アフルもやるならいつもより大規模になりそうだな」


 そうかな? ちょっと手助けするだけだからいつも通りになると思うよ?


 リデスと挨拶を交わしていると、おじいさんと父上で儀式の準備を始めていた。


「では、まずその木の根元の供物台にトーストしたパンとサイダーを」


「ああ、わかった」


 おじいさんの進行で父上がグラスに注がれたアップルサイダー、——お酒のやつね——シードルとも言う。それと、リンゴがたっぷり入ったパンが盛られた皿を奉納する。


「皆様方は、パンを枝に吊るしてください。旦那様はこのサイダーをリンゴの木の根元一周に注いでくださいませ」


 父上はおじいさんからサイダーが入った瓶を受け取り、木の周辺にたっぷりと注いでいく。シュワシュワと音を立てながら土に染み込んでいく。リンゴのみずみずしい果実味あふれる香りが広がる。


 母上や兄上たち、僕とリデス、おじいさんは、綺麗な紐が付いているスライスされたリンゴパンを枝に結んで吊るしていく。ジェンマたちや護衛さんは見守る係ね。


「ここらへんかな?」


 僕はぱたぱたと羽を羽ばたかせて飛び、自力でパンを枝に吊るした。魔法のおかげ!



 準備ができた。僕とリデスは祝福の歌を歌う。


 グラスとリンゴの枝をそれぞれの手に持ち、軽く叩きながら。


 リーン、カラン、リーン、リーン、カラン~。


「「古き良きリンゴの木よ。

 古酒の力を分け与え、新酒の力を注ぐ

 リンゴの木にこの祝杯を捧げる

 よく芽吹き、美しく花咲き、美味しく実り、カゴいっぱいに幸せを!」」


 すると、木の根元に注いだサイダーが、グラスから立ち上る気泡のようにキラキラと大地から舞い上がる。


 その木だけでなく、畑全体から輝く気泡が浮かび上がっていく。


 夕日が沈んだリンゴ畑は、その光の粒に照らされて神秘的な光景だ。


「これが祝福……」


 リデスと一緒にやったんだけど、自分でも驚きの現象。他のみんなも、その景色に声も出せず心を奪われ見入っている。


「こんな畑全体に……ここまでなんて、初めてだ」


 あ、いつもより広範囲になって驚いている。目が限界まで見開いている。


「あぁ、流石です。アルフレード様のお力はこれほど素晴らしいとは!」


 イケメン従者のヴァレリオは僕を見て、感動で目をうるうるさせている。やめてっ! 僕のせいじゃないよ。リデスと二人でやったからだと思うよ。うん、そうだよきっと。そういうことにしとこ。



 しばらくして、その美しい光景が落ち着いた頃。


 ジェンマとヴァレリオが皆に温かい飲み物を配りはじめた。中身は温めたアップルサイダーにシナモンやナツメグ、クローブなどのスパイスを入れたもの。


「アルフレード様はこちらをどうぞ」


 と言ってジェンマが僕へ渡したのは、もちろんアルコールを完全に飛ばしたものだ。


「はふっ。ふう、ふう」


 息を吹きかけ少し冷まして、ごくり。アップルサイダーが口から喉を通ってお腹をじんわり温めてくれる。


 周りを見ると、僕を挟むように両隣には双子の兄上、その左側には母上と父上、右側には長男のヴィル兄上にリデスとおじいさん。後ろに控えている、ジェンマとヴァレリオ、護衛さんたち。


「また来年もこうして、皆でこの儀式を執り行おう」


 父上が目を少し細め、口角を上げ穏やかで優しい微笑みを浮かべながら言う。


「はい! 父上」


 僕が返事をする。来年の約束ができるのが嬉しくて一番に返事しちゃったよ。


 少し遅れて、みんなもそれぞれ「そうだな」とか「ええ、そうですね」「また美しい光景を家族で見たいわ」などと言いながら頷いている。


 僕はもう一口、ごくりとアップルサイダーを飲む。


 家族と大切な人たちに囲まれて、体だけでなく心までほっこり温まる僕なのでした。





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