第3話 初心者妖精ライフ
んーと。ここは……。
視界がぼんやりとしていて、薄暗い。
少しずつ視界がはっきりしてくると、周りに何があるのか見えてきて、どうやらここ、森の中っぽい?
ぽわぽわ、ふよふよと浮かぶ丸い光。その向こうに、どっしりと立つ大きな木々がいくつも見える。
さっきまで、ぼくは邸の訓練場にいて、魔人に、口の中へぽいって放り込まれて。
あのあと、どうなったんだろ。
ぼく、生きてる? それとも、ここって死んだら来る世界とか?
ひそひそ声が、周りから聞こえてくる。
「生まれましたね」
「うん、生まれたね」
「生まれる瞬間が見られるなんて初めてだな」
声の主を見つけようと周りをくるっと見回す。
くるんって、回った!?
うん。今、かるーく一回転した。僕自身が。
「んぇ?」
ふわっと回った自分を、なんとか確認しようとする。
……ない。
ぼくの体が、ない。
人族の体じゃなくて、まぶしく光っているだけ。
下を見ても足がない。手を前に出そうとしても……やっぱり、ない。
誰か、鏡ください! 今すぐ自分の姿を確認したいんですけど!
周りに何個もぽわぽわふよふよと浮かんで、光みたいな何かがいる。
「おい、あれ、黒いの混じってんぞ」
「えぇ、キラキラの中に黒い何か見えます。純粋な光とは異なりますね」
「く、黒って初めて見たよぉ。ちょっとこわいよ」
光だと思っていたけど、違った。さっきのひそひそ話の人? たち。羽がついた小さな人たちが少し近寄って、ぼくを観察しているっぽい。
前世の記憶と、ジェンマと一緒に呼んだ本にあった姿と同じだから、彼らは妖精みたいだ。
「俺らとは違うんじゃないか?」
「えぇ、黒い色は魔族しかないって聞きましたよ。悪しきものが混じっているのでしょう」
「黒は不吉だし嫌だよ……」
どの妖精が言ったのかわからないけど、変なこと言いだした。
ぼくは、周りにいる妖精たちをよく見てみる。
色んな色がキラキラだ。赤、緑、白、青、黄色、水色などなど。
羽の付いたちっちゃい人の姿でも、まぁるい光に見えるのも妖精かな。どの妖精も魔力だろうか、キラキラ何か振り撒いている。
ぼくもキラキラ振り撒いているのかな。
黒が混じっているのは、ぼく以外いないみたいだ。他の妖精たちも、黒が混じっているなんて聞いたことないって言ってたし。
周りを見回してみる。黒は、いないね。ぼくだけだ。
そんなに悪いものなんだろうか。
もし悪いものだと言われても何もできないけど。気になるし聞いてみようかな。
「あの……」
ふよふよ近づいて聞こうとした時
「おいっ、いきなり近づいてくんなって!」
「やめてください! あなたの黒い魔力がこちらに影響したら困ります」
「うぅぅ、黒いのって、よくないんだよね? だから、あんまりこっちに来ないでよ」
ぼくに近づくなと言ってきたちっちゃい人の姿に羽のついた妖精たちは、白いキラキラに青色が混じっているやつと、混じりっけなしの基本の白いキラキラだけのやつ、薄い緑色が混じっているやつがいる。
うん、とりあえず青、白、緑としよう。名前知らないからね。とりあえず色で区別しよ。
今しなくちゃいけないことは、ぼくがどうなったのかと、ここがどこなのか知ることだね。
ぼくは少し離れたところから、青白緑に聞いてみる。
「あの、さっきから何でそんなに言われるのかわからないんだけど。ぼくなんかした? あとここがどこかわかる? ぼく自分の姿を確認したいんだけど、どうやったらいいかな」
「お前なんも知らないのか」
「まぁ、生まれたてだし何も知らないんじゃない?」
「そうか。でも俺はすぐ理解できたけどな」
ふんっ、と青が偉そうに言う。
「そうですね、どの妖精でもこうしている間にも知識が入ってきて理解できるもんですよ」
あなただけが特別じゃないですよって、言う白。
「ねぇ、もう行こうよー」
「そうだな。変なの混じったら純粋じゃなくなるしな」
「そういうことですから。君もすぐ理解できるようになるんじゃないですか。僕たちは行きますけど」
全く話を聞いてくれない。欲しい返答もない。
「あの……待って」
訳のわからない今の状況で、こんな森に置いていかれるのは困るよ。聞きたいこともまだまだたくさんあるし、そう言ってついていこうとした時
ヒュンッ。
「付いて来るなよ」
って言われたのと同時に音がした。瞬間体が後ろに飛んで、三妖精からぼくが少し遠ざかった。一言い残し去っていく妖精たち。森の奥へ消えていく。
ぼくに何が起きて飛ばされたのかわからない。直接触れて何かできる距離じゃなかったから、魔法かな。あれが妖精の魔法。初めてくらった。
風魔法だったのかな? 痛くはなかったけど、何か当たってポンッと体がちょっと弾かれた感じがした。
「おいっ。大丈夫か?」
声をかけられビクッとする。見るとまた別の妖精。こっちは光の塊がふよふよ浮いている。
人の姿じゃなくても話しできるんだね。光の塊なぼくも話せてたけれどさ。他の光の塊が話していると、できるんだ! って思っちゃうよね。
この妖精は赤が混じっている。さっきの奴らは基本の白にほんの少し他の色が混じっているかなぐらいだった。この妖精は赤と白が半々ぐらいの割合。赤みが強い。
「あ、うん。えーっと。大丈夫。魔法で軽く飛ばされたぐらいだし、痛くなかった」
「今のが当たって痛くなかったのか? あの威力のが当たっても何ともないのか? すごいな」
「ね、あの魔法上手だね。痛くなかったよ。あの妖精すごいね」
「違ぇよ。すごいのは、お前がな。あんな魔法くらって、少し後ろに飛ばされるだけで済むって……生まれたてで、とんでもねぇな」
「うん? ぼく?」
話しかけてきた赤い光の声がだんだん小さくもごもご言って、最後よく聞き取れなかった。
「まぁ、いいか。それよりお前何か知りたいんだろ? オレが知ってることなら妖精について教えてやる」
「えっ? ぼ、ぼくやっぱり妖精なの?」
「どうみても生まれたてほやほやの妖精だろ」
妖精だとはっきり言われた。自分の体を確認したいけど、まだ自分で見られていない。
いや、人族じゃないかも、周りにいる光とか羽がついているちっちゃい人たちみたいなのかなーなんて薄々わかっていたけれども。
簡単に受け入れられないっていうか、受け入れたくないっていう気持ちがあるからね。間違いかもしれないと、うっすら願う。
はっきり鏡で自分の姿見てないし。
赤いキラキラと同じような姿なんだろうか。色が黒で邪悪っぽそうだから違うかもだけど。
「君はぼくと一緒にいていいの? なんかぼく変だって言われたけど」
「そんなのオレに関係ねえ。オレがしてぇと思ったことをする。ほら行くぞ、こっちだ」
という赤いキラキラに言われるがまま、ぼくは付いて行く。
赤いキラキラは名前がある妖精で、リデスという。ぼくはアルフと名乗っておいた。
赤いキラキラのリデスも妖精が生まれる瞬間を見たのは初めてで、「いいものを見せてもらった」と言われた。
やっぱり黒いキラキラが混じった妖精見たのは初めてだって。
自分の姿も確認させてくれた。
リデスが、苔についていた小さな水滴を集め、暗緑色の葉の上に集める。魔法で葉の表面に薄く固定したら鏡みたいなのができた。
葉っぱ鏡に映る姿に、思わず息を飲んだ。
そこにいたのは、淡い白色の光を基調とした、ふわりと浮かぶ光の塊。リデスや他の妖精たちと同じような姿だ。
だがよーく見ると青白いキラキラの中に黒い光が星のようにちらついている。他の妖精には見られない特徴。
「本当だった……」言葉がぽろりと漏れる。
「ぼく、光の塊の妖精になっちゃったんだ……」
五歳の貴族の男の子だったぼくの姿は、どこにもなかった。
ぼくは何で黒のキラキラなんだろう。思い当たる節は……ある。たぶん黒い霧を撒き散らしていた、あの、ま、じ、ん。
いやはっきりとわからないし、なんか嫌だから考えないでおこ。
うん、ま、いいよね。リデスは妖精だって言ってくれたしね! 気にしても仕方ない。初の黒いキラキラ妖精が誕生したんですよーってことで押し通そう!
こうなったら仕方ない。現実をいったん受け止めよ。そして、そーっと横に置いとこう。
人族の前世記憶持ち辺境伯家の四男から、妖精に! なっちゃったね。
望んだわけじゃなく、ルクレーティアのせいで、だけどね!
ぼく先祖、初代の奥様が妖精だったよっていうのは聞いてたよ。その妖精のその血を濃く受け継いじゃったっていうのも知ってた。
でも、ずっと、ずーっと昔の何百年も前の話だったし。たまたまその妖精の生き写しみたいな見た目で生まれちゃったよぐらいだと思ってたのに、本物になっちゃうなんて驚きだよね。
さて、ぼくをこんなにしたルクレーティアをどうしようかな。彼女にはこの責任をちゃんと取ってもらわなきゃ。仕返しももちろんするつもり。
あの後どうなったかも確認したい。魔人は倒せたのか。
家族は、ジェンマやヴァレリオ、家の他の人たち、邸や領都は無事なのかどうなのか。
そして、一番は家族のもとへ帰ること! こんな光の塊の妖精になっちゃったけど家族だと思ってくれるかな。
そのためにも、まずは情報だね。そもそも家に帰れるのか? 帰れるならどうやったら帰れるのか? ここは、家からどれくらいの距離なのか、そっからだし。
あとこの姿もね。光の塊じゃ、ぼくってわかってもらえなさそう。
リデスが「進化したり、その後さらに成長したら姿が変わるやつもいる」ってことを教えてくれた。人の姿になる方法もあるかもしれない。調べなきゃ。
調べることたくさんだなぁ。何せわからないことだらけだから、一から勉強しなきゃなー。
絶対家に帰るぞー! そしてなんとしてでも家族にまた会うんだ!




