第29話 番外編 初めての妖精サークル
僕は、広い邸の敷地内をあちこち探検中。なぜなら
「今日は、伯父上から送られてきたレモンの苗木を植えます」
そのための場所はどこがいいかを検討している。僕んち広いからね。
「キュゥ!(はい)」
「うっ、かわいいなピスタ」
返事をして、ピスタのちっこい前足をピッとあげて「了解!」って敬礼するの。
「よし! ピスタには邸を案内しながら行くぞー」
「キュー(行きましょうー)」
僕らの息はぴったり。そして、最近ピスタの言葉が分かるようになった。他のみんなには鳴き声のままだけど。
今日巡るのは中庭、裏庭、そして温室の三か所。前もってどこに植えたらいいか庭師に訊いておいた。
今は、最後の温室の中。「この場所はいかがですか?」と庭師に提案されたところにいる。
「この小さなレモンの苗木には、ちょっと広すぎない?」
温室の一角、直径十メートルくらいの範囲がぽっかりと空いている。ちょうど花の植え替え作業をしていたところに、僕のレモンを植えたいんだけどって話があり、そのまま空けておいてくれた。
「今はそうですが、大きく育つことを考えればちょうどよいとのことです」
イケメン従者のヴァレリオの報告。外周に沿って通路になっていて通路の周りは花が多いエリアだ。
「周囲の花には蜂や蝶などの虫が集まりやすいのでレモンの受粉にいいとのことです」
うん、ヴァレリオが庭師の話を詳しく教えてくれる。
「そっかー、そういうことも考えないとなんだね。ピスタはどう思う?」
「キュキュ、キュゥ。キュッ、キュッ、キュゥキュ!
(ここが一番いいと思います。中庭や裏庭より温かいですしね!)」
「あ、そうだね!」
さすがわかっているなピスタ! 可愛い上に賢い。よしよしと撫でて褒めるついでに、もふっりふさふさ尻尾をモフる。
ここは伯父上の領地よりずっと北。なにせリンゴが名産になるくらいの土地だ。外で育てるとレモンにはちょっと寒すぎるよね。
そんな説明をすると
「えぇ、庭師も同じようなことを申しておりました。もしかしたらアルフレード様のお力で寒さなど関係なく育てられるのかもしれませんが、そうでなければ温室でと」
「季節とか気温とか、いくら妖精の魔法でも無理だよ」
「そうでしょうか?」
え、やめてヴァレリオ。いけるのでは? っていう期待の眼差し。気象とか自然現象なんかできる? いやできないと思うよ。
「じゃあ、ここに植えよ」
「キュゥ(そうしましょう!)」
ヴァレリオから苗木を受け取り、根鉢より一回り大きな穴に肥料も一緒に入れる。土を埋め戻し、たっぷりの水をやったら終わり。
庭師が先に土や肥料など準備してくれてたから簡単にできた。
「あとは、育つのを待つだけだね」
「キュッ(そうですね)」
「ええ、楽しみですね」
なんて話ながら、侍女のジェンマがここでお茶が出来るよう準備してくれるのを待っていた。すると温室の中に光の塊がふよふよ飛んでいることに気づいた。そして、僕の服の裾を引っ張る何か。
「あっ!!」
そこには羽つきの妖精さんが四人? 四妖精が飛んでいる。僕が妖精さんに気づくと、ふわりとレモンの苗木の横に降り立つ。
みんな緑色のキラキラをふりまく妖精。若葉色から深緑まで濃淡はあるけど基本緑。それぞれ違う形の帽子には、新芽の双葉だったり、楓の葉っぽいのだったりがぴょこんとついている。
「さあ! 今から始めるから君も早くここに来て」
「えっ?! 何を始めるの?」
突然のことで戸惑っていると、一妖精が飛んできて僕を引っ張る。されるがままついて行き妖精さんの後ろに並ぶ。僕と妖精さんたちでレモンの苗木を囲む。
「じゃあ、いっくよー」
という新芽の双葉が付いた帽子をかぶっている若葉色のキラキラ妖精が掛け声をかける。リーダーかな?
一斉に、ふわり、ふわりと飛んでは土に着地を繰り返しながら苗木の周りを回る四妖精たち。僕もあとに続く。ふよふよと光の塊の妖精も一緒に飛んでついてくる。
ふわりと飛ぶと、しゃらりしゃらり、りぃ~ん、しゃらり、りぃ~んと鈴のような音が鳴る。三周したら、逆周り。
「うわー、すっごいキラキラ」
飛ぶ度に、一回りするごとにキラキラが増えていく。音も次第に増幅されていく。
「楽しくなってきた!」
自然と口がほころび笑顔になっちゃう。僕もみんなと一緒にふわりと飛ぶごとに、しゃらん、り~んと音が鳴る度に気分がアガる。飛び上がる高さも高くなる。
逆周りの三周目が終わると、カチッと何かにはまるようにひときわ強い光が、ビカっと光る。
「まぶしいっ」
両目をぎゅっと手のひらで押さえる。そっと手のひらをずらして覗くと、光の柱がぐんぐん上に伸びていくのが見える。温室の天井を突き抜け空高く上がったところで、ぱんっと弾ける。
弾けた光はキラキラしながら空から降ってくる。緑色の透き通った花びら。宝石で作ったような輝きを放ちながら降り注ぐ。
「なんと美しい光景でしょう」
「素晴らしい魔法を使い、光の粒をまとったアルフレードもまた麗しい」
「キュキュ、キュゥキュゥー(すごい、宝石みたいな結晶の花びらなんて初めて見た。さすが主様)」
ジェンマとヴァレリオが感動している。ヴァレリオは僕じゃなくて、この幻想的な光景をもっと見て!
ピスタ、その結晶ってなに? あう、肩に乗ってもっふり尻尾でスリスリしてくる。もふもふに癒やされて、細かいことはどうでもよくなっちゃう。あと僕だけの力じゃないよ。
「うん、成功!」
リーダーの若葉妖精が、レモンの苗木に視線を向ける。僕もつられて苗木を見る。
むくっ、むくむく、むくむくむくっと成長を始めた。
「あー、これ! 前に妖精の森で見たやつ」
妖精さんたちがやってた。サークル作って周りをくるくる回って、光の柱のあとにょきにょきって木が大きくなってたやつー。
「うわ、僕、参加しちゃった」
そんで、できちゃった。他の妖精さんに怖がられたり避けられたりもしないで一緒にできちゃった。ついでにレモンも急成長。すごく嬉しい!
「いいことずくし!」
「僕らもだよ。君のおかげでいつもよりいい感じにできたよ。ありがとう」
「ありがとねー。こんな結晶初めてできたよ! 女王陛下に報告しなきゃ」
「さすが女王陛下のお気に入り。君のおかげで広範囲にできた」
「キラキラも増し増し、んふふっ」
それぞれからお礼を言われた。
「いや、僕の方こそありがとうだよ。この妖精さんのサークル? 儀式? やってみたかったんだー」
レモンの苗木は、二メートルくらいまで成長した。白い五枚の花弁を持つ花もいくつか咲いた。これから咲くであろう蕾もたくさんついている。
「じゃあ、またねー」
軽い感じで挨拶をして、去っていく妖精たち。
「うん、本当にありがとう。またねー」
もう半分くらい妖精の通り道に入っていて、消えかかっている妖精たちに向かって手を振り、最後まで見送った。いつの間にか来てて、やりたいことをやって、あっという間にいなくなった妖精たち。
「ふぅ、ひと休みしよっか?」
レモンの苗木を植えて、その周りをくるくるしただけだけど、大仕事を終えた気持ちになる。
お茶をして一息ついて、今のできごとを落ち着いて考えたい。勢いで色々やらかしちゃった気がする。怒られはしないと思うけど。
「アルフレードーーーー」
執務室で仕事中のはずの父上が、僕を呼ぶ声が近づいてきている。
そういえば、妖精さんが広範囲って言ってたね。あの光は、どれくらい遠くまで降り注いだんだろうか。




