第28話 番外編 レモンの旬は冬
僕アルフレードは、大量の黄色い果実に埋もれています。
「んー、すはー」
鼻から思いっきり息を吸うと、レモンの爽やかさと甘い柑橘系のとってもいい香りでいっぱいになる。右を見てもレモン。左を見てもレモン。
「好きなものに囲まれてるって幸せ。このままレモンの中で暮らしたい」
「ここはエントランスだ。邪魔になるからやめておけ」
「エド、そこじゃないだろ。アルフレード、レモンに埋もれて生活するのは貴族としてどうかと。それよりレモンを食べたりしたほうが美味しいよ?」
双子の兄上たちと訓練場から本邸に戻ってきた僕たち。そこにちょうど馬車から降ろされている木箱。木箱にはぎっしりレモン。勢い余って突っ込んでいきレモンまみれになった僕は、冒頭のアレになる。それを生ぬるい視線で見ている双子の兄上たち。
脳筋のエド兄上は
「アルフレード、レモンは逃げないぞー。でも埋もれてるのもいい。レモンが似合うからな俺の弟は」
「あぁ、なんて可愛いんでしょう。絵師、絵師を呼んでこの夢のような組み合わせを残さなくては」
魔法大好きリート兄上は、「はあ……」と悩ましげなため息までついていた。ただちっこい五歳児がレモンを独り占めしようとしている図だけど?
「ちょっとはしゃぎ過ぎました」
さっきまで、脳筋のエド兄上と魔法バ……魔法の探求に熱心なリート兄上の双子にねだられ妖精の魔法を披露&体験させていた僕。やりすぎて、とさりと膝と手をつき四つん這いの体勢に倒れるまでやって疲れ果てているので
「疲れ切っている僕にはこれ以上ない食材。料理長にこれでおやつを作ってってお願いして!」
「すでに、このレモンを使って準備しております」
すかさず僕の専属侍女、プリン好きなジェンマから返事があった。しかもジェンマは僕が好きなレモンケーキをお願いしてくれていた。兄上たちとの休憩という名のお茶会の準備もしてあるって。
「さすがジェンマ!」
レモンまみれの僕をそっと抱き上げてくれるイケメン従者のヴァレリオ。そのままお茶会の準備がしてある部屋へ。
「飛べるけど?」
「……」
というのは聞かなかったことにしたのかな? 無言でぎゅっと抱きしめたまますたすたっと目的の部屋へ。
戻ってきてから家族や周りの人たちの過保護がひどい。ヴァレリオは特に、ちょっとしたことで目からハイライト消えるときがあるからされるままにしている。
「心配かけすぎたしね」
兄弟三人の小さなお茶会には、母上の実家の侯爵家から届いた僕の好物レモンをメインに。
「今日はレモンパーティーだよ!」
「お、おぉ。あれだけレモン届けばな」
「アルフレードが好きなら僕は何のパーティでもかまいませんよ」
双子の兄上たちに宣言! エド兄上がちょっと引いてる。張り切り過ぎたかな?
だってさ、伯父上が無事に戻ってきたからとあんなたくさんのレモン届いたんだよ! レモンも、戻ってきたことを祝ってって気持ちもうれしい。
木箱に詰められたレモンは僕が知ってるレモンよりかなり大きい品種だったり、黄色だけでなく緑色のレモンもあった。
「いろんな種類のレモンでいろんなおやつや料理が出来るんですよ」
これが興奮せずにいられようか。いや無理だ。まだ食べていないのに疲れが吹っ飛んだよね。
一緒に手紙も送られてきた。送り主は侯爵家当主の伯父からだ。「診察だよ」といいながら、あちこちいじくりまわし、僕をくすぐりの刑にした王宮魔術研究所の副所長の兄である。
「今日はこのレモンを使ったおやつ」
ババン! とテーブルにメインの菓子として出されたレモンケーキ。
前世でいうところのデリツィア・デル・リモーネ。イタリア、アマルフィあたりで名物なやつ。
僕が戻ってきてから何度か作ってもらっていて、今日のは伯父上のレモンを使った特別バージョン。
レモンの香りがふわっと香り、僕の鼻を刺激してくる。
「見た目も僕好みに進化している」
見ただけで、ゴクリと喉がなる。形はレモンを半分に切ったような、半球形。こんもり丸くて、てっぺんにレモンを飴でコーティングしたものがトッピングされている。横には緑鮮やかなミントの葉。
「形もレモン、色も薄黄色のほんのりレモン色!」
料理長やるな。僕の好みを的確に攻撃してくる。これは味も期待!!
上からスプーンを入れ、ベースのスポンジまでひとすくい。ぱくりと口に運びもぐもぐ。
「んーっ。あま酸っぱ甘い」
「ベースのスポンジにはリモンチェッロを染み込ませたそうです。もちろんアルフレード様のはアルコールを飛ばしてあります」
おぉ。大人な感じの仕上がり。最後ほんのりほろ苦風味なのはリモンチェッロの残り香かな。たっぷり染み込ませてあるから、しっとり感が増し増し。
「美味いな、酒がたっぷり染み込んでるせいかそんな甘くなくていい」
「えぇ、さらにレモンクリームにもしっかりレモンの酸味が効いているのでさっぱりしてますね」
兄上たちにも好評だ。やったね。
ベースのスポンジ、レモンクリーム、スポンジではさむ。挟まれたクリームはカスタードにしっかり目に泡立てた生クリームと混ぜてある。ふんわりなダブルレモンクリーム。
その上から少し硬めのレモンクリームをたっぷりかけて、全体を包んでいる。よく冷やすと中のクリームとの食感の違いがよく出る。
「ふわぁ~。口も鼻もレモンでいっぱいです」
もうね、僕の中も外もレモン。紅茶にもレモン浮かべているからね。
「ぷはあ。訓練の後の火照った体にはキンキンに冷えたこれはいいな」
エド兄上が、ぐびっと煽ったのは、小さめなリキュールグラスに注がれたリモンチェッロ。瓶を氷に突っ込んで凍らせる勢いでキンキンに冷やしたやつだ。アルコール度数が高いから凍らないけどね。
それを見たリート兄上も、紅茶からリモンチェッロにチェンジ。
「あぁ、よく合いますね。これもアルフレードの提案ですか?」
「はい、でも僕はレモンのお酒だから合うかも? と参考までに料理長に伝えただけですよ」
あれこれ工夫したのは料理長! さすが。で、兄上たちはもう大人で、お酒飲めるから紅茶もいいけどこっちのほうが好きかもって思ったんだ。
「あー、兄上たちは大人なんだなー」
と僕は、美味しいレモンケーキを食べながらしみじみ思う。最後のひとくちをもぐもぐ堪能しながら次は何を食べようかなー? たくさんあってどれにしようか迷うなーなんて。
そんな大好物と兄上たちとの時間を満喫し、これが僕の理想ののんびりライフだ! って充足感でいっぱいになっていると兄上たちから同時に
「ところで伯父上の手紙何だったんだ?」
「伯父上はお変わりなくお過ごしか?」
「はい、伯父上は僕が無事戻ってきて嬉しい、好物のレモンを贈るからそれで疲れを癒やしなさいっていうのと。あとは……レモン祭りがあるから遊びにおいでと」
こういうところは双子だなーって思う。内容は違うけど話し出すタイミングがぴったり! うふふ。
「そうか。じゃぁいかなくちゃな!」
「そうですね、僕達もアルフレードの護衛を兼ねて行かなくては!」
レモン祭り、またレモンに囲まれてアルフレードがはしゃいでる姿が見えるぞ! とか。伯父上に特産品のレモンを使って何か新しいものを! なんて頼まれるかもね、とか言ってる兄上たち。
「はっ、アルフレードの才能が見込まれて伯父上にとられたりとかは……レモンが好きすぎて帰りたくないという可能性も?」
「そんなことにはなりませんよ、リート兄上」
いくらレモンが好きでもそこまでは、ね? 有能だと言われている伯父上からみたら、そこまでの才能でもない。ちょっと前世の記憶活用してるくらいだし。まだそれでチートしてないしさ。
「それよりレモン祭りどんなだろう……兄上たちは行ったことあるんですか?」
「あぁ、九歳の頃一度な」
「レモンを使ったものの屋台が並んだり、広場の中心に特大のレモン像が置かれるよ」
「おぉぉ、それは行かなくちゃですね!」
「おう!行こうぜ!」
「えぇ!行きましょう」
仲良し双子、再び!
「僕が父上たちに話してみますよ。任せてください」
とリート兄上。うん、リート兄上なら安心。上手く話してくれると思うし、準備もばっちり抜けなくしてくれる。
「アルフレード様、私も参りますよ」
従者のヴァレリオ。また僕が置いていくと思っているのかな。まだまだ不安は解消されないよね。
「もちろん! ヴァレリオとジェンマはいつも一緒だよ」
「「はい」」
二人のやる気に満ちた、少し安心したような笑顔。ふう、二人のケアはちゃんとしなきゃね。
「楽しみですねーレモン祭り」
妖精の森以外で、他の領地への旅行とか行ったことないし。伯父上の領地はここから南の海があるところっていうし。レモンが特産品の一つだけど、他にも色々あるし。
今からうきうきが止まらない! でも行ったら楽しさより、大変な苦労してる自分がいるような気が、しなくもない。




