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強制種族変更で妖精ライフ! ~転生辺境伯家四男ののんびり満喫!小さな美味しい冒険~  作者: 朝森朔


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第27話 番外編 ルクレーティアの尋問

「意味がわからない」


 ぱらりと書類をめくる音しかしない執務室に響く声。それを二度も読み返しての一言。


 父である辺境伯から、私、長男のヴィルフレードに回ってきたこの書類。召喚した魔人を使い、可愛い弟のアルフレードを行方不明にした罪人、ルクレーティアの供述聴取報告書だ。


 我が騎士団の第三部隊長が直接尋問し書いたもの。彼は、剣の腕はもちろん書類仕事も難なくできる男だ。書いてある内容も聞き取った事実のみを正確に、わかりやすくまとめてある。そう、きちんと何の過不足もなく正しく書いてあるのだ。


 にも関わらず理解できない。まったく内容が頭に入ってこない。


「私はこんなに理解力がなかったのか。愛しい弟がいなくなりショックで正気を失った?」


 いや、ここで何度読み返そうとも同じだ。


「直接、罪人に訊き確かめなくては」


 なぜこんな事態になったのか。手がかりを得て、一刻も早くアルフレードを見つけなければならないのだから。




 辺境伯家の領都にある本邸。その広い敷地内にある、騎士団庁舎の地下牢へと向かう。



 ガチャン——。


 石造りの地下牢に、鉄格子と手枷がぶつかる音が響く。


「あぁ、ヴィルフレード様、来てくださったのですね! 早く私をここから出してくださいませ」


「何を言っている! 罪人を牢から出すわけがなかろう。アルフレードにしたことを尋問しにきたのだ」


 報告書ではわからなかったからな。


「なぜ私を罪人などと……」


 わざとらしくうなだれ、頬に手をあて傷ついた様子を見せるルクレーティア。こいつがどうなろうと心底どうでもいい。


「こちらの質問に、事実のみ簡潔に答えろ。それ以外は口を開くな。そして私はお前に名前で呼ぶことを許していない」


「っ、将来ヴィルフレード様の大事な友人で仕えることになる王太子殿下の妃になる私にそんな口を——」


 水魔法でルクレーティアの頭から顔を覆う。


「余計な口をきくなと言ったはずだ。うるさい。平民が王太子殿下の妃にはなれない。お前の元の身分、男爵令嬢だとしても無理だとわからないのか」


「……ごぽぽっ……ごぽ」


 あぁ、水で塞いでいては返事もできないか。


「仕方ない。うるさくするな。訊かれたことだけ答えろ。できなければまた水で口を塞ぐ」


 うん、うん、と何度も頭を縦に振るルクレーティア。魔法を解き、水を消滅させる。ごぼごぼと咳き込み、息を大きく何度も吸い込む。苦しかったようだ。これで静かになるだろう。


「まず、お前は辺境伯家子息拉致および殺害未遂の罪で死罪が決定している」


「なっ、なぜです? 私は従者に渡された魔法陣に魔力を流し発動させただけです! それもあんな魔人が出てくるなんて知らなかった。前回召喚したときは確かに赤尖晶石の幻獣レッド・スピネルカーバンクルが召喚されたのです」


「今さらお前がここで何を言おうと関係ない」


 ギリッと強い視線で、私を蔑むような表情で


「それに私は王太子妃になるのですから、死罪などありえないですわ。きっと王太子殿下が助け出してくれるはず……」


「これは、王宮も承知していることで、決定は覆らない。もちろんお前の両親も承知している。すでにお前は男爵家から除籍され、身分は平民。男爵も爵位を返上し、元男爵婦人の実家に身を寄せている」


 貴族が辺境伯の子息に手を出した時点でよくて修道院へ幽閉か、普通は奴隷落ちや死罪。平民ならその場で切り捨てられる。そうしても問題にならない。


 すぐにでも手にかけたい気持ちに駆られるが、今は我慢だ。刑の執行は、愛弟アルフレードが見つかってからだ。これは少しでも手がかりを得るためとの父上の判断だ。


 報告書を見ながら一つずつ尋ねていく。


「まず、この世界はある物語の中であるということ。お前はその物語の主人公で、後に聖女となり王太子妃となるという、荒唐無稽な話についてだ」


 そんな話は、どこにもない。一体どこから出てきた?


「えぇ、ここは私のためにある世界です。それが真実であると私の従者に水晶に映し出された動く絵で見せられたのです。そして、実際にその通りのできごとが起こったのですから信じますでしょう?」


「それだけで、この妄想を信じたと?」


 そういえば、報告書に男爵家の者たちは従者に精神支配か、記憶改ざんの魔法をかけられていたとあったな。となると、こいつも同様か。


 さらに、水晶で見たという戯言を続ける。


「私は従者が見せてくれたものと同じように、急激に魔力が増えたのです。急に増えすぎたせいで魔力操作に慣れず暴発させてしまいましたが……。でも、そのおかげで、ここ辺境伯家に来ることができたんですよ!」


 などと言ってくる。


 お前のわがままで無理やり来たんだろう。本当は、この屋敷内ではなく辺境伯家の魔法学校へ行くはずだったのだから。


「ですが、アルフレードが物語と同じ悪役をきちんとしなかったので指導しましたの。私を庶子だと差別し、侮辱し、毎日いじめるのです。わがままですぐ癇癪を起こし、辺境伯家子息の権力を使い、弱い立場の者たちを虐げる日常」


 あんな素直でいい弟が、ありえない! 思わず目の前のこいつを睨み、威圧をかけてしまった。今は、続きを聞かなければ。


「それで? 話を続けなさい」


「アルフレードの私に対するいじめが次第に苛烈になっていき、ついに命に関わる大怪我を負わされたのです。そのとき治癒能力が覚醒。私は、伝説上の聖女並みの治癒能力持ちとなるのですよ。一日以内なら死者すら蘇生可能となるほどの!」


 目の前の罪人は、架空の聖女にでもなった自分を想像しているのか。両手を胸の前で組み、視線を上に向けて恍惚とした表情で酔いしれている。


「何を見せられ、聞かされているんだ私は」


 はあ? 何だそれは。そんな大怪我をしたからって能力が覚醒するだって? 都合がよすぎるだろ。


「本邸から追い出され、別邸に住むのも私じゃなかった! さらに、私に怪我を負わせたことで、ここ領都から田舎へと幽閉されるのもアルフレードなのにっ!」


「だが、アルフレードはそんなことをする弟ではない。私達家族や邸の者たち皆に愛され可愛がられている」


「そうです。それが本当に憎らしかった。私が何をしようとも関心を持たず。侮辱も、いじめもしない。そのせいでいつまで経っても本来の物語が始まらなかったじゃないっ!」


「当然だ。ここはお前に都合のいい物語の中じゃないからな」


「私がこんなに惨めな思いをして、苦しんでいるのに! あいつは本来の役割をせず、毎日、家族や使用人に囲まれのんきに楽しく過ごしていた。嫌われ疎まれるどころか、周りの皆から愛されていた。悪役で嫌われているはずのアルフレードのくせにっ」


 当たり前だ。我が弟の愛らしさは皆が認めるところ。悪役など似合わないし、嫌われる要素がどこにもない!


「あいつが悪役をやらないから、私の治癒能力がいつまで経っても覚醒しない! だから邪魔者は消えてもらったのよ」


 思わず右手を剣の柄にかけた。ギリギリのところで抜くのを止めた。


「アルフレードがいなくなったところで、お前の立場が変わるわけでもないのにか」


「変わるわ! だって魔人を召喚したときに従者が私に言ったんだもの。魔人にアルフレードを消させれば、私がその代わりになれるって」


「そんなわけあるか!」


 思わず大声が出た。お前の度重なる嫌がらせを寛大な心で大目にみて優しさを持つ弟だ。妖精のような儚げな外見のアルフレードにお前ごときが代わりなど、身の程をわきまえろ。


「従者が、あいつより優秀なことを見せ続けて上手く追い出したら、治癒魔法が覚醒するよう取り計らうと。そうすれば王太子殿下の右目も治せるようになるからと。私に感謝し実力を認め、恋に落ちた王太子殿下が婚約をしてくださる」


「おい待て! なぜお前が殿下の目のことを知っている? 誰から聞いた」


 低く、ひどく冷静な声で問いただす。殿下の目のことは一部の者しか知らない極秘事項だ。それを男爵令嬢が知っている? どこから漏れた?


「なぜって、従者から見せられましたから。私が病気で失明した右目を、覚醒した治癒魔法で治療したところを。ですから、ヴィルフレード様、早く私を王宮に連れていき殿下に会わせてください。その役目は貴方様なのですよ」


 まったくもう、兄弟揃って役目を果たさないなんて。などというこいつの悪態はこの際どうでもいい。


 問題はこいつに付いていた従者の男だ。あのいつもフードを被り正体不明の消えた従者は何者だったのだ。なぜそんなことを知っていた? こんな奴に教えて何になるというのだ?


「だが、お前の治癒魔法が覚醒したとて殿下に会うことはない。殿下の目は病気ではなく怪我で視力が低下し、ほとんど見えなくなった。が、婚約者のフロリアナ様が作られたポーションで完治している」


「そ、そんな……もう治っている? じゃぁ私は、私が治癒魔法をかけるはずなのに。そして、妃になるのに……いや、そんなの嫌よ」


 王太子妃になって、私のことを庶子だとか馬鹿にした奴らを見返すんだから。もう私にはそれしかないのに。あいつが消えて、やっとこれから私の物語が始まるところだったのに……ぶつぶつと、叶うはずもないことを言っているルクレーティア。現実がようやく理解できたか。


「あいつのせいだ! アルフレードーーーーーー!!お前はっ、私の前から消えても——」


「うるさい!」


 怒鳴り散らすこいつに、再び頭部を水で覆い静かにさせる。それでも怒りの表情でこちらを睨んでくる。息が苦しいはずだが、鉄格子を掴み震わせるようにがちゃがちゃと音を立てる。私には届かないが水で窒息するのもかまわず、目をむき出しにして大口を開け何かを叫んでいる。


「ひどく醜い表情だ」


 もう、今日は駄目だな。これ以上は話にならん。報告書通りの内容だったことだけしか確認できなかった。


 一部情報が間違ってはいたが、後で殿下に報告しなければな。

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