第23話 番外編 羽の付け目はやめてぇ
「うひひひっ……ははは。ひゃふふふっ。お、伯父上。まっ、待って、くださっ。そこはっ、ひっ、ひぃひぃっ」
羽の付け根をさわさわ触るのはダメです!
「よーく見せておくれ、アルフレード。これは診察なんだ。決して興味本位ではないよ。必要なことなんだ! 君のためにもね」
羽を持ち上げて、どうなってるのか見たいのはわかりますが、そこはくすぐったいです。
なぜ、こんな状況になっているかというと……それは、家に帰って来たときまでさかのぼる。
女王陛下の魔法で領都の家へ戻ったあと、サロンにて両親と兄上たちとお茶とおやつを楽しんだ。もちろん何があったか報告を兼ねてだ。
そして、僕の体について異常がないか、怪我はしていないかなどの確認がされた。辺境伯家に専属で仕えてくれているおじいちゃん先生だ。
怪我が絶えない辺境伯家の騎士たち、僕たち家族や使用人たちの病気や健康管理まで一手に引き受けてくれている優秀な医師である。
そのおじいちゃん先生に診てもらった結果、
「視診・触診とも特に問題はありませぬ。魔法診——これは魔法による全身スキャンですがその結果でも体内に病気や損傷は見当たりませんな」
ただし、種族特性や、細微な異常のなど詳細な診察・解析は王都の専門家の診立てが必要ということで、十日後、王都から二人の専門家がやってきた。
一人は王宮診療所の医師、ジルド・ディ・メディーリオ。父上の幼馴染だ。
もう一人は母上の二番目の兄、僕の伯父にあたるデルフィーノ・ディ・グランリモーネ。侯爵家次男、王宮魔術研究所の副所長である。
跡取りでもない四男の僕の健康診断にしては、大物すぎる人達がやってきた。
んー、それにしても
「名前とか色々長い!」
先生と伯父上にしよ。
この人選の理由は、とても親しい間柄であることが一つ。
二つ目の理由として僕の行方不明は偉い人たちの間で知られていて、王宮なんかにも協力してもらっていたらしい。
だから、「戻ってきたよ」という報告をする。ごく一部の人たちには、僕が妖精になっちゃったよというのも報告された。
妖精のことはまだ大々的に公表しないので、身内ともいえるこの二人が派遣されることになった。
場所は、父上の執務室。ここが防音、防御など厳重に守られている場所だから。いるのは両親、三人の兄上たち、執事長、ジェンマとヴァレリオ、護衛として辺境伯騎士団の騎士団長と副団長。
やってきた二人がまず最初にしたのはおじいちゃん先生と同じ、見て触って、魔法診。これは先生が担当。
「光が少しまぶしいかもしれません。目をつぶっていてもいいですよ」
と言われ、左手に魔石を握り、僕に向けて突き出すと
「まぶしいっ」
気になってずっと先生を見ちゃっていた。おじいちゃん先生の魔法診とは違ったね。
「通常の魔法診よりさらに詳細に診察するために魔石を補助として使うのです」
とのことだったが、特に異常はなかった。安心!
その後、あちこち測られた。
ほとんど成長していないことが、地味にショック。知っていたけれどね! 羽つきになった僕の服を準備するためにメイドさんたちが測ったからね。
とりあえずは兄上たちのお下がりを直してもらって着ているよ。すぐに新しい服は出来上がらないからね。
そして冒頭のあれである。
伯父上は容赦なく、その珍しい羽を観察しまくった。初めは遠慮がちだったが欲求が抑えきれなくなったのだろう。
結果やりたい放題となった伯父上を止めてくれたのは母上だ。
「お兄様、お控えくださいませ。そんなことをしていたらアルフレードに嫌われますわよ」
その言葉にピタっと動きが止まる。その隙に僕は母上のもとへふわりと飛んで避難する。
「まだ、重要なことが残っていますわよね?」
その一言で、伯父上が準備に取り掛かり、何やら木箱をテーブルに置き、蓋を開く。
中にあったのは水晶と尖った何か、計測器っぽいいろんな何か。これで僕の情報が丸わかりになるんだそう。
「では、この針に指を強く押し付けて血を一滴水晶にたらして」
「はい!」
と返事をし、言われたとおりにちょーっとびびりながら実行する。伯父上は「あれ? 妖精って血が通っているのか? そこは同じなのか?」とぶつぶつ独り言をつぶやいていた。
血をたらした瞬間、水晶から画面のようなものが映し出され、そこに色々書き出された。
名前:アルフレード・ディ・ラレス/アルフ ラレス辺境伯家四男
種族:人族 → 強制種族変更 → 妖精
年齢:未確定
魔法:火属性(上級)・水属性(極)・風属性(極)・土属性(上級)・無属性(上級)・妖精魔法・闇属性(黒)
従魔:ラピス(元精霊ノームの眷属 精霊ノームの赦し)
備考:妖精女王の加護、精霊ノームのお気に入り、
黒いキラキラは魔人の闇属性のせいかも。その特性、効果は不明。自分で探してみてね! 闇にのみ込まれたりはないと思うけど一応気をつけて!
妖精は年齢なんて気にしないよ。なんてったって妖精女王は……おっとこれ以上は言えないな。だから五歳でいくか、十五歳になるか好きに決めてね。
妖精だっていうことは確定したね。
「あのとき強制的に種族変更されちゃったんだね。それで死なずにすんだのかな? 緊急措置みたいな」
魔法は元のレベルがどうだったのかわからないけれど。この世界の魔法の強さは初級、中級、上級まではあると知っている。
それでも、
「すごく強くなってるよね、特に魔法とか。もうへなちょこって言われないくらいに」
上級ってのは普通に強い。国のトップと言われる魔法使いになれるくらい。
「極? ってなんだろ」
僕はつぶやき、周りの大人達を見る。みんな無言で、映し出されたステータス画面を凝視。
そして気になっちゃう、備考欄の誰か知らない人。かっるぅーい。軽すぎて、いい加減すぎない? 神とかそういう偉い人っぽいよね?
「テキトーすぎない?」
最後の「年齢を好きに決めてね」とか。それから特性も調べてよ。そこ教えてよー。僕が一人であれこれ思っていたら
「妖精女王の加護を受けていたのだな。しかも精霊ノームからも気に入られてしまったなんて」
「それは、アルフレードを守るということにおいては、喜ばしいことではなくて?」
「そうだなんだが……それに魔人の闇属性? アルフレードがまた危険にさらされるのか」
と隣にいた父上に母上ごと抱きしめられた。父上をまた不安にさせてしまったかな。
「強制……アルフレードをこんな目に合わせたあの娘。やはりあの時、私の手で処分しておくべきだった」
一番上のヴィル兄上は恐いことをつぶやいている。
「あの娘の従者はまだ見つからないんだったな。そいつを見つけ出しこの手で処分すればよい」
父上の言葉がそれに続く。
「そうですね、直接この手で報いを受けさせなければ収まりません。聖王国のとある領地までの足取りは掴めましたが……」
「その領地を潰すか。いや聖王国を潰したほうが早いか。あそこは小さいから簡単じゃないか。アルフレードのためならいいだろう」
二人が怖いこと言っている。母上が混乱しておかしなことを言い出した二人をなだめている。
二人共、落ち着けば大丈夫だよね? 脳筋気味ではあるけど、本来は辺境伯として優秀な領主と次期領主だし。
「アルフレード、スゴイじゃないか! 魔法が格段に強くなってる。俺が強くなった魔法を受けてやる。模擬戦で試してやるぞ」
と言ったのは双子の兄、エド兄上。剣で戦うのが大好きな脳筋兄上だ。
「……すごいね。極というのは聞いたことがないけれど。僕よりずっと強いんだろうね」
「そ、そんな……聞いたことはあった。だが師団長ですら火と風の上級のみだというのに。水と風が伝説としてかろうじて聞いたことがある極、火と土、無属性まで上級なんてことが……ありえるのか」
双子の弟リート兄上と伯父上はそう言い、未だにそのステータスを凝視して固まっている。
周りの大人たちが大変になっている。先生はステータス画面の内容を黙々と書き写している。
「この状況、僕には手に負えない」
仕事のできる父上やヴィル兄上。戦闘狂で言い出したら止まらないエド兄上。先生やリート兄上、伯父上も、ちょっと変になった。
「母上がなんとかしてくれるよね」
ここは、母上に任せよう! ジェンマの胸にぽふんと飛んでダイブする。
「どうなさいました?」
「色々ありすぎて……ちょっと落ち着きたい」
「では、新しいお茶を準備させましょう。もちろん甘いものと一緒に」
「うん!」
指示を出しに行こうとしたジェンマから、ヴァレリオが僕をするっと横取りし、スポンと近くのソファーへ座らせてくれる。
そこへおやつが準備される。
「あ、レモン型の焼き菓子!」
ころんと丸いレモン型をしたケーキ。ふわふわ生地の上にレモンアイシング。仕上げにレモンピールをトッピングしてある。
「あっ、酸っぱっ」
生地にもレモン果汁とレモンピールが入っている。もちろんアイシングにもだ。だから、ちゃんと酸っぱい。甘さもあるけど、酸っぱさの勝ち!
甘くした紅茶を飲んで
「ふぅー。美味しい。これだよね! 僕の好みど真ん中」
さすが僕の家の料理長、わかってるー。満足している僕の様子を見て、ジェンマとヴァレリオも笑顔で嬉しそうにしている。
僕には、混乱している大人たちへ適切な対応ができそうにないから、今は気にしないでおこう。そして、おやつで一息ついてから考えるのがいいと思う僕なのでした。
番外編を少しずつ更新していきます!
しばらくの間、ゆるっとお付き合いいただけたらと思います。
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