第21話 調査結果の報告とご褒美
風がそよぎ、女王陛下の着ている服の裾がひらひらと揺れ、めくれて美しいおみ足を大胆にご披露されている。
気にしていらっしゃらないのかな? あえて、あえてのご披露ですか。美しいものね。
突然のご登場にレモンタルトを頬張ろうとしていた口をぽかんと開けたまま固まる僕。
リデスはすかさず椅子の横で跪き、深々と頭を下げる。それを見たおじいさんと家の人たちも同じように跪く。
ぽけっとしていた僕も慌てて跪こうとした。
「かしこまらずともよい。他の者たちもくつろいで構わぬ」
皆、立ち上がるが動こうとはしない。緊張して動けないよね。突然女王陛下とかに会うって。
僕も国の王様に突然会ったらどうしていいかわからない。一応、貴族の礼儀とかマナーとか習っていたけど、王様には会ったことないから対応に困るよね。
すっと音もなく静かに女王陛下の後ろから出てきた執事のセバスティアーノさんが
「では、女王陛下のお席を、こちらへ整えて差し上げてくださいませ」
と指示をだす。「はっ」と良い返事をし、テキパキ動き始める皆さん。細かく伝えて、片付けさせたり、椅子を一つ追加で持ってきてもらったり、この場を完全掌握した執事さん。
整えられた席に女王陛下をご案内して、お茶の準備を始めた。
「こちらへおかけくださいませ」
おじいさんには新しく追加された椅子の席をすすめる執事さん。女王陛下は紅茶を一口飲み話を始めた。
「アルフ、今回のことよくぞ解決した。そしてそなたらに何もなくてよかった」
あれ、僕報告したっけ? まだしてないよね? 首をかしげると、考えていることがわかるのか
「精霊ノームから話を聞いておったのよ。そこのちっこいのがノームに報告していたのを知らぬのか。それで此度参った次第」
「そうなの?」
いつも僕のそばにいた相棒のピスタ。今は僕の膝の上でくつろいでいる。もふもふの尻尾を撫でる手がとまらない。そのピスタに聞く。
寝た振りで通すつもりか、反応しない。なでると頭をスリスリ押し付けてくる。が、質問には全くの無反応。顔を隠してしまっているので黙って報告していたのは少し悪いとは思っている様子。
このぉ! もっふもふで可愛い奴め。
そうだ、報告!
「女王陛下これを、妖精から奪った魔力で作られた魔石です」
魔石の入った袋を渡す。それからルクレーティアと魔石の妖精が、妖精たちにやっていたことを報告した。静かに、時に顔を顰めて、それでも最後まで冷静に話を聞いてくれた。
「すみません。ルクレーティアを捕まえずにその場で手を下しました。これについての罰はどんなものでも受けます。どうしても僕は、彼女を僕の手で……。亡き者にしたことを後悔していません」
「アルフに罰など与えるわけがなかろう。これだけの妖精の命を奪ったのだ。命をもって償うのは当然。礼をいう。よく努めを果たしてくれた」
女王陛下は、その袋を愛おしげに、両手で包み込むように、優しい手つきで魔石の袋を撫でられた。
「アルフがそこまで言うからには、相応の理由があるのであろう?」
元人族ということは知っていたけど、その詳細な経緯は知らなかったそうで、ルクレーティアが僕にしたことを話した。
「もともと、理由がなくとも処分してかまわないと調査を頼んだ時に申したであろう。そなたが気に病むことは何もない」
優しく微笑み、「とても感謝しておる」と言いながら頭をなでてくれた。僕は、もう小さな子どもじゃないんですよと思いながらも受け入れちゃってた。へへへ。
「してアルフ。いやアルフレード。そなたへの一つ目の褒美をここに用意した!」
女王陛下が、ふいっと手をかざす。そこには、リンゴ畑の小さな邸までの道がある。
何もなかったはずの道の両側に、数十本の木がぐんぐんと伸びる。上の方で葉や枝が交差し、木々が並ぶ間を通り抜けできるような空洞ができあがった。その木々の間にできた空間がぐわんぐわんと歪む。
女王陛下が魔法で作り出したのは、妖精の小道だね。一瞬で遠くまで行けちゃう魔法の道。僕とかリデスが使っていたやつとは規模が違う大きなものだけど。
馬のいななきが聞こえて、歪んだ空間から馬が出てくる。その馬に騎乗していた騎士も現れる。次に出てきたのは黒い馬車。所々に施された装飾がシンプルだけど上質で品がある。お偉い貴族が乗ってそうなやつ。
馬車を引いていた馬ごと、周りにいたであろう馬に騎乗した騎士たちまで、まとめて全部が移動できちゃう、連れてきちゃう魔法ってすごい!
「あの馬車は……」
あの馬車、忘れようにも忘れられない。
馬車数台と騎士たちが次々に現れ、静かに整列していく。皆が空間から出終わると、すぅーっと妖精の小道の木々は消える。
小さな邸の手前で馬車は止まり、騎士が扉を開ける。
そこから身なりのいい大柄な男の人が降りてくる。
馬車の中に手を差し伸べ、女性をエスコートする。
「あ、あぁ、忘れてない。僕はちゃんと、覚えている」
女性がゆっくり馬車から降りてくる。明るい茶色の髪。周囲を見回し、僕を見つけて、花が咲いたような笑顔を僕に向けてくれる。
「父上、母上ーー」
こちらに体を向け近寄ってくる二人に駆け寄る。
ふわっと飛んで母上の胸に飛び込み抱きつく。
「あぁ、アルフレード。あなたなのね。やっと、やっと、再びこの胸に抱きしめることができたわ。愛しの我が子アルフレード」
ギュッと抱きしめてくれる母上。
何も変わらない。昔と同じ。優しく穏やかな母上の腕の中はあたたかい。
背中に感じるもう一つの温もり。僕を抱きしめる母ごと、力強く包んでくれる父上。
「……遅くなって、すまなかった。アルフレード」
「父上……」
低く落ち着いた声が少し震えている。そっと僕の頭をなでる、ごつごつした大きな手。
「何もできなかった父を、それでもまだ父と……呼んで、くれるのか」
もちろんです父上。やっと会えた!
ずっと、ずっと忘れないで覚えててくれた。
今まで、ちゃんと探しててくれた。
よかった。本当に嬉しい!
「父上たちばかりずるいです。僕らにとってもアルフレードは可愛い弟です」
「父上に抱き込まれたら小さなアルフレードが隠れて見えないです」
「小さな可愛いアルフレード。父上より俺だろ。ほら来い!」
兄上! この声は兄上たちだ。兄上たちもいる!
抱きしめた力を緩めようとしない両親の間から、もぞもぞ動いて顔だけなんとか外に出して兄上たちの方を見る。
「おいで」
と一番上の兄上が両手を広げる。
スルリと両親の腕の中から抜け出し、その腕に飛び込む。
「あーにーうーえー!」
「無事で本当によかったよ。よく頑張ったねアルフレード。不甲斐ない兄ですまなかった」
そう僕の肩に顔をうずめて震える声で謝るのは、文武両道で頼れる一番上の兄。兄上の頭をちっこい体で力いっぱい抱きしめる。その気持だけで嬉しいです、兄上。
「ずいぶん面白くなって帰ってきたなアルフレード。なんだよこれ。いい羽つけてんじゃねーか」
「また一段と可愛くなって帰ってきてくれましたね、アルフレード」
次男と三男、双子の兄達が羽をつんつん突きながら言う。
いつも「めんどくせぇ」と言いながらも剣術を教えてくれたちょっとやんちゃな二番目の兄。
得意な魔法で僕の好きな絵本に出てくるドラゴンを作って見せて遊んでくれたり、最後はいつも疲れて寝ちゃう僕を抱っこして部屋まで連れてってくれた優しく賢い三番目の兄。
二番目の兄が僕の頭をなでる手は前よりゴツゴツしている気がする。でも今日はいくらでもガシガシなでていいですよ。髪がグシャグシャになっても怒ってプクーっとふくれたりしません。
三番目の兄は頬を優しい手つきでふにふにふにふに。ずっとしててください。頬が伸びて戻らなくてもふにふにされていたいです。
あ、ほっぺをふにふにしている兄上の指先から魔力が漏れて綺麗な星の粒が出ています。そんなに気に入ってくれていたんですか。
僕も兄上のふにふに好きです。絶妙な力加減が気持ちいいです。
大きい兄上は、僕をじっと見てどうしたんでしょうか。僕の顔どこかおかしいですか?
あぁ、抱っこされているからこんな間近で、整いすぎている美しい顔に大人の色気が増し増しの甘い笑顔で見られると照れちゃいますよ。んふふふ。でも今日はいくら見てもいいですよ。僕も兄上の顔じっくり見ときます。
「ん? あっ」
大きい兄上の顔を確認するようにペタペタしちゃう僕。顔の次は肩、胸、腕。頭の上から足までよーく見る。双子の兄上たちも同じように、僕の小さな手で触れる。
三人の兄たちみんな前より大きくなっている。体もがっしりして大人になっている。
特に双子の、剣術が得意の二番目の兄上は三人の中で一番大きくしっかりとした筋肉がついている。身長は父上よりずいぶん大きく成長しているね。
僕は兄上たちを順番にあちこちペタペタと触るのを止められない。僕の行動を不思議そうにしながらも、優しくそして温かく受け入れてくれる兄上たち。
そう、兄上たちは、過ぎ去った十年の分だけちゃんと成長していた。




