第17話 リンゴの木の家で
森へ入り、妖精の小道を通ってやってきたのはリデスのおうち。
目印はもちろん一本のリンゴの木。
「ここだ!」
と言った場所には、大きな木と、その前にちょこんと立つ小さなリンゴの木があった。
小さな木には、ぽいっと一口で食べられるほど小さなリンゴが実っている。こういう品種なんだね。かわいい。
妖精のおうちにお邪魔するのは初めて! 女王陛下の時はお庭訪問だったしね。
入り口は見当たらない。リデスが手をかざすとその部分の木が光る。
「このまま入れる」
と言って木の中にすっと消えていくリデス。リデスに続く。何もなくすんなり入れる。
入ると大木の中に仕切りのない一部屋が広がっていた。
「ここの家具はじいさんからもらったんだ。リンゴの木で作ったんだとよ」
「へぇ、どの家具にもリンゴの絵が描いてあったり、彫られてたりする!」
「あぁ、リンゴ畑面倒見てる礼だとさ」
僕にはちょっと大きいけど、人族用よりはかなり小さい妖精サイズ家具。ほんのりリンゴの香りが漂う部屋。
リンゴが詰まった木箱が数箱ある。人族から教えてもらったお菓子を作るために、人族の台所を真似して作ったんだって。料理や菓子づくりは苦手だからまだ上手く作れたことはないそうだ。
「俺はリンゴを育てるのが好きで得意だからな。それでいい。菓子は得意なやつに作らせればいい」
「ふふふ、そうだね。おじいさんのところの料理人さん、とっても美味しいお菓子作ってくれるしね」
「あぁ、それで満足だ」
そう言ってテーブルに木箱から持ってきたリンゴとバラの形を模したアップルパイとリンゴジュースを並べていくリデス。
僕もそう思う。前世の記憶にあるお菓子は、知っていても自分では上手く作れなかったな。結局家の料理長にお願いして作ってもらったっけ。
僕は、リンゴがたっぷり入っているパウンドケーキとリンゴのコンポートを出す。
お菓子をつまみながら、女王陛下にこれまでの出来事を報告する手紙を書き始めた。
報告や何か困った時にはこれを使いなさいと渡された紙の束と樹液を固めて作ったというペン。前世にあったガラスペンというのに似ている。透きとおった薄緑色ですっごく綺麗なの。
テーブルの端でカリカリ書いていく。
もぐもぐもぐもぐ。お菓子美味しい、美味しいよ。書いているはずの手は止まるのに、お菓子を口に運ぶ手は止まらない。止められない!
「おい!」
リデスにお菓子を持っている手をつかまれた。なぜ? 首をかしげリデスを見ると
「落ち着いて食べろ。頬が膨らむ程口に入れなくても、誰も取ったりしない。先に手紙を書いたらどうだ? そんな食べ方見てるこっちが不安になる」
ん? 僕そんな変な食べ方していた? ま、先に手紙書いちゃうってのは同意。もぐもぐしたから落ち着いたし。
「そうする。報告終わらせてからゆっくり食べるよ」
頷き、納得したリデスが手を離してくれる。よし、報告書に集中! して書き上げる。
届けるのは魔法で、簡単にできちゃうよ。
一緒にもらった魔法陣が描かれた世界樹の葉っぱ。その上に手紙を置き魔力を込める。魔法が発動して葉っぱ全体が光に包まれる。光がおさまると、そこにあったはずの手紙が消えている。
無事送信完了!
これでようやく、心置きなくお菓子に集中できる。んふふ。一つ一つゆっくり味わって食べよう。
パウンドケーキを二切れ食べ終えた僕は、次にどれを食べようかとテーブルにあるお菓子をじっくり見て選んでいると、さっきの魔法陣が光りだした。そして手紙が現れた。
女王陛下から? 早い。さっき送ったのにもう返事来た! 返事の内容はこうだ。
僕が、「相手が妖精と人族二人だけなら捕まえとくよ」と言ったのに対して、捕まえてもその場で処分してもよいとのことだ。判断は任せるが決して無理はするなとある。
二人で対処できない、危ないと思ったらすぐリデスと逃げるように。可能ならば、女王陛下のところまで逃げてきてもいいよって書いてある。
依頼したことは十分役目を果たしたので気にするなとも。なので、適度に休みを取りならが事に当たること。
人族がいないことについての理由もおそらくと前置きがあったが理由を教えてくれた。
「魔物の襲撃があったせいかもしれない」と女王陛下は書いている。妖精の森に現れた緑閃竜に応戦したが仕留めきれず、逃してしまった。
追撃したが人族の地域へ行ってしまった。その地域がこの領地内かもしれないということだった。ただ、ここの領地はとても広くリンゴ畑からは離れている場所のようだ。
すでに人族たちが仕留めたようなので、討伐に関わっているものたちもすぐに戻るだろうとある。
撃退したといえ緑閃竜襲来の後始末がまだ残っているようで、それが落ち着いたら一度こちらに直接様子を見にいらっしゃるとのことだ。
そちらの対応を優先してください、できることは僕たちでやっておきます。無理はしないので心配しないでください。終わったら報告に伺いますと返事しておこ。
来られたら、面倒……いや、おおごとになりそうだ。偉い人はどっしり構えている方がいいよねぇ。
僕がちょーっとがんばってちょいちょいって片付けるのが一番だと思う。
さて僕は、続きのおやつ。
アップルパイから食べよう。バラの形をしたやつだ。パイ生地と薄くスライスされたリンゴをぐるぐる巻にして焼いたやつ。
いい具合に焼けたパイの間にある皮付きリンゴが、赤い花びらのようになっている。使ったリンゴの色が鮮やかだったから、本当に綺麗なバラのようだ。
サクサクしっとりしたパイとシナモンが効いた甘いリンゴ。見た目の美しさも、味の美味しさもどちらも満たされる最高なアップルパイだ!
できる! やるなぁ、リンゴ畑の料理人。リンゴでこれだけ美味しいんだから、一番好きなもの作ってもらったら、どれほど極上の味になってしまうのか。
想像だけでも美味しそうだぁって、んふふふって笑っちゃうよ。
今度ぜひ、一番の好物レモンタルトもお願いしたい。材料持ち込みでお願いしたら、僕の好物のレモンタルトも作ってくれたりするかな。
お礼の品とか、妖精の燈火とかあげたら作ってくれるだろうか。リデスとおじいさんに聞いてみよ。
心ゆくまでお菓子を味わい、満足した僕たちは、最後の仕事をしに丘の上の小さな邸へと向かった。




