第15話 偽りの実
最初に調べた進化前の光の塊妖精たちがいたのは地図で見るとリンゴ園より上、北側にあたる場所だ。
今回はリンゴ園から南下してみる。まだ足を踏み入れていない地域だ。
木と木の間隔は広く、そこに花が咲いている。点々とある花畑を眺めながら南へ進んでいく。
時々花の蜜をつまむ。花によって特徴があって食べ比べ楽しい。調査はもちろん忘れてないよ。でも、おやつという名の栄養補給も大事。
リデスのお気に入りは
「俺はやっぱりリンゴの花の蜜が一番だな」
知ってた。さすがブレないリンゴの妖精。
「僕は違う種類の花をいくつか摘んで、その花の蜜を混ぜて楽しみたい派!」
どの花の蜜も美味しいんだよね。適度におやつ休憩を挟みながら、出会う妖精たちから話を聞いたり、危険を知らせたり、おやつ食べたり。それなりに時間をかけて調べ歩いた。
そんなふうに楽しみながらも、未調査の場所をあちこち進んでいく。すると、花畑の一つに妖精さん発見!
進化した後の妖精さんだ。花の茎に寄りかかってぐったりして見える。
「どうしたのー? 大丈夫ー?」
僕が声をかけるとゆっくりと顔を上げこちらを向くが返事はない。近づいてリデスが
「おい、大丈夫か? 何かあったのか?」
「み、水……ちょうだい」
純粋な水持ってない。代わりに収納から女王陛下からいただいた朝露の瓶を取り出して口元へ持っていく。水じゃないけど平気かな? 乾きを潤す、元気になる効果はあると思うんだ。
ちょっと心配したけど、それは必要なかった。ごくごくあっという間に朝露を飲み干す。
「ぷはぁー」
息を吐き出したのを見て、大丈夫そうかな? と思う。
「ありがとう。助かったよ」
「ならよかったよ。で、どうしたの?」
「返事できないほど何があった?」
僕とリデスがそれぞれ訊くと
「あぁ、ちょっと騙されて魔力奪われた。やばいと思って、振り切って逃げてきた」
「騙されたって誰に?」
「なっ! なんでそんなことになった?」
僕とリデスが同時に質問しちゃったのを、まだ、ちょっとだるいから待ってという妖精さん。ならばと、追加で女王陛下印の特製蜂蜜ドリンクをあげたよ。
美味しいだけじゃなく効能に体力、魔力などあらゆるものを回復って書いてあったからね。
蜂蜜ドリンクをクイッと一飲みしてから、話してくれた。さすが女王陛下お墨付きのドリンク、この回復力よ。
「進化した妖精が知恵の実とも呼ばれる、ノチラの実を食べると新しい能力を授かるって知ってるか?」
「あぁ、聞いたことはある。だが手に入れるのは難しいだろ」
「そうなんだ。妖精は生まれた姿のままか、進化を果たしてそれぞれ願う姿になり羽を得て特別な力を持つ。俺もそう思ってたんだが……」
その妖精が続けて事情を話してくれた。
知り合いの人族の子どもが足にひどいケガをしたそうで妖精の魔法で傷は塞げたけれど、足が動くことはなかった。それをなんとかしたいと思ってな探していたそうだ。
その人族は妖精の姿が見える人族で、この妖精さんに色々くれたり、話をしたりずっと一緒に過ごしてきたそう。やがて結婚し子どもも生まれた。
その人族の家族は妖精さんの姿こそ見えなかったけど、蜂蜜の飴とか、小さなポットに入れた牛乳とかを窓辺に置いてくれたりと一家でずっと交流があったんだって。
「それは、なんとかしてあげたいね」
「ああ」
「そんな時、噂を聞いたんだ。ノチラの実が手に入るって。それで、ある人族に会った」
そこで、この魔導具に魔力を注いでくれたら礼にノチラの実をやると言われて。言われるままに魔力を注いだら、どんどん、どんどん魔力が抜けていって止まらなかった。
魔力が全て吸い取られ、自分が消えてしまうんじゃないか? 何かヤバいと思って無理やり魔導具から手を引きはがして、なんとかここまで逃げてきた。
もうこれ以上体が動かせなくて、ぐったりしているところに僕たちがきた。そんな状況です。
このあたりまで来て、話をあちこち聞き回っている時に声をかけてきたのは、やっぱりあの魔石の妖精。そいつに連れられて人族のところへ行った。
今思えば先に居た妖精たち、床にへたり込んでたんだけど、あれも魔力吸われて話もできないほど弱っていたのかもしれない。
逃げられずにそのまま力尽きていたら、あの妖精たちみたいに囚われ続けていいように使われていた。
「魔力を奪われ続けたら消えてたかもしれない」
「そうか。それは、とりあえずお前だけでも逃げてこれてよかった。オレたちも詳しく知れたしな」
「うん。残された妖精も早く助けなきゃ」
「その人族のどんなヤツだったか覚えてるか?」
「あぁ、女だ。長い赤髪だった。『自分はここに囚われているかわいそうな人なんだ』とも言っていた」
そいつを助けるために力を貸しているんだと、魔石の妖精が言っていた。そして
「先に対価としてもらったのがこれだ」
と小さな袋から木の実を取り出して見せてくれた。ハシバミの実。魔力も何もないただのハシバミの実。
「これがか?」
「これは、残念だけどノチラの実ではないよ」
リデスと同時に出た言葉。うん、そもそも人族が手に入れられるものじゃない。それを協力してくれた妖精みんなに配るなんて無理に決まっている。
「あぁ、やっぱりそうだよな。薄々わかっていたんだ」
「うん、熟したハシバミの実が花の妖精の祝福を受けた朝露をまとったものだからね。それがノチラの実だよ。これはただのハシバミの実だ」
「魔力も何もないただの木の実だもんなコレ」
「簡単に手に入れられるものじゃないってわかってたんだけどな。焦って正しい判断もできなくなっていたんだな、俺は」
ずぅんと落ち込む妖精さん。
「でもお前は助かって、もう体力も魔力も元通りになったんだ。何もなくなるよりずっといいだろ。消えてしまったらそれで終わってたんだ」
「進化前の妖精で、帰ってこない妖精もたくさんいるんだよ」
「ああ! 俺達の時間はたくさんある。お前が望む能力もそのうち手に入るだろうよ」
僕とリデスがなんとか励まそうと声をかけると
「……そうだね」
力なく話す妖精さんに、僕は
「それにね、これが助けになるかもしれないよ」
収納から小瓶を取り出して妖精さんに渡す。
「これは? 何かの薬……なのかな」
「そう、傷や怪我に効く薬。妖精のものだけど人族の子どもの怪我にも効果あるんじゃないかと思って。毒にはならないと思うから試しに飲ませてあげて」
女王陛下流石です。感謝です。執事さんもありがとう。頂いた薬や飲み物がとーっても役立っています。
「アルフ、お前それいいのかよ」
「いいに決まってるよ。僕使う予定ないし。まだたくさん持ってるし。一つぐらいあげても問題ないよ」
「アルフがいいならなんも言わねーけどさ」
「え、なんなの。何かあるのこの薬。俺なんかがもらっていいものなの」
「あー、気にするな。こいつはちょっと特別でな。アルフがお前にやるって言ってんだ。もらっておけ」
「……ありがとう」
もらった妖精さん。僕と手に持っている薬を交互に何度も見て困惑していたけど、ちゃんと受け取ってくれたよ。よかった!
リデスが妖精さんの肩を抱き小声で話しかけた。何を言ったのかまでは聞こえなかった。
他にも効果がありそうな薬や薬草、怪我によさそうな食べ物がないかバスケットの中を探すのに夢中になっていたんだ。
「いいか、それは確実に怪我を治す。速攻でな」
「そんな薬どこで手に入れたんだ? 俺がもらって、しかも人族の子に使ってもいいのか?」
「かまわない。そして気にするな。何も詮索するな。知らないほうがいいこともある」
「そう、だね。ありがたく受け取るよ。感謝の気持ちだけは彼に返すよ」
ふぅとため息一つ吐くリデス。そのまま声をひそめて話を続ける。
「そうしろ。それからアルフのことは他のヤツに話すな。助けろとか薬くれってやつが殺到したら困るからな。特別なんだアルフは。特に人族にはバレないようにしろ。できればその子どもが一人の時にこっそり使え。人族の欲は深い」
「あぁ、よく心に留めておくよ。もちろん誰にも話したりなんかしない。この薬を使うときも十分注意するよ」
「そうしてくれ、あいつは全く自覚がないからな。特別だっていう」
「そう……みたいだね。さっきもらったドリンクも効果がすごかったしね。驚いたよ。魔力も戻って、もうすっかり元気なんだ。信じられないよ」
僕はバスケットから見つけ出した役立ちそうな物を手に、二人に呼びかける。
「ねぇ、これも一緒にその子にあげてよ。怪我に効く薬草とさっき君も飲んだ蜂蜜ドリンク。体が元気になれば薬の効果がもっと上がるんじゃないかな」
「はい、どうぞ」と差し出す僕を見て眉をハの字にし困った表情の二人が顔を見合わせる。リデスがゆっくりうなずく。それを確認した妖精さんもうなずき、お礼を言われた。
「あ、ありがとう。俺だけじゃなく見知らぬ人族の子どものために、とてもよくしてくれて」
「いいよ。もう無茶して危険なことに巻き込まれないでね」
「そうだな。礼はお前にこんな仕打ちをした妖精と人族のいる場所教えてくれればいい」
「もちろん、案内するよ」
ぼそぼそと「こ、こんなにしてもらって……お礼は何をしたらいいんだ。俺に返せるものなんてないぞ……」という妖精さんのつぶやきは僕の耳に入らない。
リデスに報告があるんだ。
「すごいんだ、このバスケット」
妖精女王陛下の庭で執事さんからもらったバスケットを掲げる。
「何がすごいんだよ。っていうかすごい中身以上にすごいことってなんだよ」
「さっき妖精さんに蜂蜜ドリンクあげたでしょ」
「あぁ、今もう一本追加でやったしな」
「そう! それで残りは一本のはずなんだけど。見て、じゃ~ん」
バスケットの中を見せる。
「また三本になってるの。あげた薬草も元通り! 数が増えてるの。ふふふ」
「……」
無言でじっとバスケットの中を見つめるリデス。
「どうしたのリデス。これは、別に大したことない? 妖精界では普通なこと?」
「いや、どこの世界でもこんなん普通じゃねぇ。なんだそのバスケット」
「なんなんだろうね。執事さんが追加してくれてる、そんなわけないから。自動追加魔法でもあるのかなー。いいバスケットもらっちゃったね」
「自動追加って。わけがわからん」
「うん、僕にもわけがわからない。へへ。これがあれば、弱ったり怪我した妖精を見つけた時いくらでも助けてあげられるよ」
「ああ。お前はそういう優しいやつだな。だからそのバスケットくれたんだろうよ」
僕の頭をぐしぐし雑になでるリデス。
「ちょっとー。雑。うん、たくさん妖精を助けられるようにくれたんだね」
「そうか、そうだな。お前はそう考えるやつだからな」
リデスが僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。くそぅ、体格差で好き勝手にされる。もう少ししたら追い越す予定だから待ってろよリデス。
気が済んだリデスは、顔を引き締め
「じゃぁ、行くか。妖精から魔力集めてるやつのとこ」
「うん」
助けた妖精に先導してもらって、僕たちはその場所に向かって進み出した。




