第13話 妖精の通り道
僕は初めて妖精の通り道を使うことに浮かれている。瞬間移動なんて楽しみしかないよ。
リデスはなんでもないことのように軽く言う。
「一瞬ぐらんとするが、それだけだぞ」
リデスは何度も使っているから慣れたものだが、僕はわくわくが止まらない。
妖精の通り道――現在地と遠くの場所を繋げ、距離をぎゅぎゅっと縮めて移動するそんな魔法だ。この世界で妖精の通り道とは違うけど、転移魔法を使える人族は最高位魔法使いの数人だけ。
それを妖精たちや、リデスは簡単に使えちゃうのだ。
「どんな感じなのかな」
期待と心配半々で聞くと、リデスは「すぐにわかる」とフッと笑うだけだ。
「こっちだ」
と案内された場所。
リンゴ畑の奥の森。成長途中の若木が二列並んで植えられている。向かい合った木が上で絡みつき、その木々の中を通り抜けできるようになっている。
言われたとおり、木々の中を歩いていく。真ん中辺りまで来たところで一瞬揺らぎ、体にぐわんとした感覚がきた。
そのまま歩いて木々の間を通り抜けた先はやっぱり森。通ってきたところ、後ろを振り返っても木の隧道の奥にあったはずのリンゴ畑はない。水色の小花が咲く草原が広がっていた。
「一瞬!! 行く時、一言今から行くって教えてよ」
「あーわりぃ。別に特別なこと何もなかったろ」
「いや、一瞬ぐわんときたよ。ほんと一瞬で。行くぞっ言ってくれたらもうちょっと楽しめたー」
「まー、帰りもあるし。アレフなら一度見れば次からは一人でも通れるだろ」
そうだけれども。
納得はいかないけれど、僕、今瞬間移動しちゃったよー。んふふ。ふわんて飛んで、縦に一回転しちゃう。嬉しい。
「ほら、浮かれてないでやることやるぞ」
「あ、そうだった」
リデスが出した地図と、僕が女王陛下にもらった便利地図をあわせて確認。自分がいる現在地が表示されるすごい地図。
確認とか打ち合わせを来る前にやっておくべきだったよね。浮かれて早く妖精の通り道使ってみたかったから。ま、いっか。
うん場所は大丈夫、合っている。
まずはこの近くにいる妖精探して、話を聞く。探すまでもなく、少し離れてはいるものの光がふよふよしているのが見える。まぁまぁいる。
「ちっこいのがこんな集まってふよふよしてるなんてありえねぇ」
そうつぶやいたリデスが口をぎゅっと引き結んで硬い表情をしている。
おじいさんに会いに何度もこの辺りに来ているが、一、二度見かけただけだったと。それも光の塊が一つか二ついたか? というくらいで、珍しいこともあるもんだと思ったという。以前はその程度だったのだ。
本当に集まっているの? 元々これくらいは居たんじゃなくて?
僕の希望としては、たまたまここで妖精がたくさん生まれちゃった! とかね。そんな平和な理由だったらいいなって思う。
ほら通常は魔素が豊富で比較的安全な掲示板の周辺地域が多いけれど、他の場所で生まれることもあるしね。何かあってたくさん生まれちゃったよ、へへ。ってことを期待したい。
が、それはないんだろーなーと感じている。何かがあった。その何かから悪いことを連想させる。もうね。そんな予感するよ。
あまりよくないんじゃないの、これ。
そんな状況だ。だって、軽く周辺を見回しただけで七つか八つの光の塊がふよっている。羽つき妖精さんは見当たらない。
確認のため、ふよっている光の塊に近づいて話を聞いてみる。僕らが話しかけるより先に
「あ、君たちはここで進化したのー?」
「本当にここに来れば進化できんのか!」
「僕たちここまでは来られたんだけど、ここから先の行き先がわからないんだよー」
「何を手伝ってやればいいんだ?」
ぽんぽん質問が飛んでくる。その様子は、目を見開き異様なほど爛々と輝かせて迫ってくる、光の塊の中にそんな姿が浮かぶような。こちらが一歩引いてしまうほどの圧を感じた。
進化への切望。
それはどの妖精にもあるものだが、彼らの様子はそれを超えて、何かに取り憑かれているかのように普通じゃなかった。
リデスと目を合わせると、彼も同じことを感じているようだった。何か噂以上の何かがある。
「まず、俺たちはここで進化したわけじゃない」
リデスが冷静に答えた。
「そして、知っての通り進化には条件がある。俺もこいつアルフも、条件が満たされその時がきた。だから進化すべくして進化した」
まぁ、僕はちょっと運に恵まれただけのラッキー進化しちゃったんだけれど。
「だから、君たちが言っている行き先や、何かを手伝ったりするのか? ってわからないんだ」
僕も答えるが、彼らは僕らの答えに納得していない様子だ。
リデスが彼らに
「この先ってここから何処かへ行って、何かすると進化できるのか?」
「うん、そう聞いたよ」
「誰から聞いた?」
「黒い帽子とトンガリ靴の魔石の妖精」
「「妖精!?」」
僕とリデスの声が重なる。そして僕が続けて問う。
「妖精が妖精を進化させてるの?」
「わかんない。僕たち魔石の妖精が他の進化前の妖精に話してるの偶然聞いて。ここまで後を追って来たの」
「途中で見失ったけどな。だから進化したお前らに聞こうと声かけた」
魔石の妖精。それは聞いたことがあった。彼らは、鉱物から生まれる妖精の一種で、特に魔力の結晶である魔石に宿る妖精は特殊な力を持つとされている。
しかし、他の妖精を進化させる能力があるなど聞いたことがないし、通常ならありえない。
「ねぇ、リデス妖精が妖精を進化させるってできるの? 女王陛下以外でも?」
リデスは眉をひそめながら
「無理だと思う。女王陛下は特別だからな。それ以外の妖精がどんなに力が強かろうと普通の妖精ができるなんて聞いたことない」
「だよねぇ。女王陛下が進化させてる訳ないし。してたら僕にここを調べるの頼んだりしないしね」
「えっ、女王陛下って言った? それって妖精の女王陛下のこと?」
「君は、女王陛下に会ったの?」
「……あ、うん」
しまったと思いながらも返事をした。そして僕たちがここに来たのは、女王陛下に頼まれたからだということ、ここで噂になっている進化はたぶんできないということ。
できたとしても女王陛下が心配する程だから危険を伴う、実際に消えている妖精がいることを伝えた。
そしてここから離れることを勧めた。
最初は渋って迷っていた彼らも、最後には「一度森の中心部、掲示板があるあたりに戻るよ」とふよふよ飛んでいった。
ついでにここに進化の噂を聞いて来ようとしている妖精を見かけたら、「その噂は間違いだったよ、って伝えてくれる?」と頼む。
その後も周辺を飛んでいる妖精に聞いた結果、どの妖精も進化できると聞いて集まってきていた。
噂をまとめると
進化には何か対価が必要である。
これらのことには『魔石の妖精』が関わっている。
魔石の妖精は連れてきた妖精を進化させるのに人のところへ連れて行っている。
これらを話してくれた者たちは、魔石の妖精にすら会ったことはなかった。
それから僕らはしばらくの間、捜索、話を聞く、休憩おやつタイムを何度も繰り返した。
そして、やっと実際に魔石の妖精に会い、進化直前までいったけれど怖くなって一人逃げてきたという妖精がいた。
魔石の妖精に話を聞いて、ついてきた。進化させてくれるのは人族。魔石の妖精もその人族に進化させてもらったそうだ。
そして進化するためだと、ある人族のところまで行こうとしたが
「僕、一緒に来た友達をおいて逃げてきちゃったんだ。森を抜けた先にある人族がいるところから嫌なのが流れてきてるのを感じて、森から出られなかった」
「嫌なのって何? 一緒に来た友だちはそのまま行っちゃたの?」
「上手く説明できない……近づけば近づく程嫌なのが纏わりつく感じがして行けなかった。でも、あいつは行っちゃった。一緒に行って進化しようぜ! って言われたけどやっぱり怖くなって」
「それでその友達は進化できたのか?」
リデスが問う。
「わかんない。心配でずっとここで戻ってくるの待ってる」
「その場所はどこか覚えてるか?」
「友達と別れて、引き返してきたところまでなら。森から出てないから、その先の人族の場所はわからないよ」
「かまわない。そこまで案内してくれ」
向かっている途中も、妖精に会えば彼らから話を聞いた。
その中に人族を見たという妖精がいた。
魔石の妖精が他の妖精を連れていくの偶然見かけたので、噂が本当なの確かめようとこっそり魔石の妖精たちをつけたそうだ。
そして彼らが会っていた人族を見たと。
だが、どんな人族だったかはっきりしない。人族で、髪が長かった気がするからたぶん女性ということだけだ。これだけじゃ、見つけるなんて無理だよ。
「魔力が少ない人族だったから興味が持てなかった。魔力弱い人族は多いから見分けがつかない。だから、どんな人族だったかと聞かれても覚えていない」
気に入った相手しか顔を覚えていないでしょ! と言われリデスも「それもそうだな」と同意していたので仕方ない。妖精ってそうなんだと思うしかないね。
ふと、僕も妖精だった! と自分のことが気になって家族の顔を思い出してみた。
両親、兄上たち、ジェンマやヴァレリオ。大切な人たちの顔は覚えている。うん、大丈夫。ちゃんと覚えているよ。




