第12話 リンゴ畑も進化する
やってきました!
リデスのリンゴの木が植えてある場所。だけれど……今、目の前に広がる光景は、僕の記憶にない全く違うそれになっていた。
「こんなに変わるなんて」
以前は一本のリンゴの木を大切に育てていただけだったのに、今は数十本のリンゴの木が整然と並ぶ立派な果樹園になっている。
しかも、大きくつやつやな真っ赤なリンゴがたわわに実っている。
いつのまに、こんなに! 周辺の森を切り開き、畑を拡張していた。
場所は間違えてはいないはずだし、前来た時からそれほど期間はあいてない……はず?
魔法を使って、ここまでしたんだよね? 妖精の魔法ってスゴイ! あっという間にこれほどのリンゴの木を立派に育てられるなんて。リデスがリンゴの妖精っていうのもあるんだろうな。頑張ったんだなー。
さて、進化したことを報告して、今の姿を見せたかった。それから女王陛下からの頼まれごとの噂を聞いてないかなーって来てみたら、すごいことになってる。
びっくりしてぼーっとリンゴ畑を見ていた僕のところへ、畑の奥の方からすぅーっと飛んできたリデス。
「お前、アルフか」
「うん、わかる? 僕進化して姿が変わったんだけど」
「当たり前だ。わかるに決まってるだろ。姿形が変わっても、妖精がそれぞれ持っている元々の色は変わらないからな」
リデスは黒いキラキラを指し、お前には特別な色が舞っているだろと、そう言って微笑んだ。
「それにしても、ずいぶん大きくなったな。どれだけ経ったんだ」
「んへへへ。僕が人族だった時とだいたい同じくらいの大きさ。それに羽がついた感じ?」
くるりと回って背中を見せる。シュッとした四枚の羽がついている。
実は飛ぶ時、この羽の力だけでは飛べない。進化前と同じで魔法で飛んでいる。羽にも魔法をかけているから、補助的に使っている。
リデスも大きくなった。進化直後は、手乗りサイズの羽つき妖精ぐらいの大きさだった。今は僕より二回りも大きい。何がこんなにリデスを大きくさせたんだろう。
リンゴ、リンゴなの? リデスの育てたリンゴ食べたら僕も! 僕も大きくなれる? 人族だった時からの僕の小ささが解消されるかも!!
リンゴに多大な期待を抱いていると
「それにしても早かったな。生まれてからこんな早く進化する妖精なんて聞いたことないぞ。お前は特別だからな、と考えれば納得するが。やっぱりきっかけは妖精の燈火か」
「あ、それはね女王陛下に進化させてもらった」
「なっ、じょ、女王陛下に会ったのか!? 妖精女王陛下のことだよな。またとんでもない方と会ったんだな。すげぇな」
「そんなことないよ。色々あってね。たまたま、ホント偶然女王陛下に会ったんだ」
お互い外見の変化に驚きながらも、以前と変わらない関係でいられるのは嬉しい。しばらく近況報告しあい、本題の女王陛下の庭で起きた出来事を話し始めた。
話を聞いたリデスは、特に三妖精たちについては
「あの三妖精、そんなしょーもないことでアルフのこと消そうとまでしたのかよ! そんなヤツら消しちまえばよかったんだ」
と、本気で怒ってくれた。そして、僕の無事を確かめるようにぐっとハグして、「本当に無事でよかった」とぽそっと耳元でつぶやいた。
家族も誰もいないこの森で、僕のことを本気で心配してくれるのは嬉しい。
それから、ノチラの実をもらったこと。
「すっげーものもらったな。やったことからすれば妥当だけどよ。アルフはすげーな。よくやった」
と頭をぐりんぐりんされた。一番上の兄上がよく頭をなでてくれたのを思い出した。
他にも、女王陛下の庭の知らない植物の話や、それを下賜されたこと。
その植物は大きな籠に入っていたから何をもらったかはわからないと言ったら、
「何が入っているのか見てみようぜ!」
というリデスと、たぶん執事であるセバスティアンさんが入れてくれた目録的な、説明が書いてある紙を見ながら実物を確認していく。
二人して目をぱちくりさせて固まる。血の気がさーっと引く。恐ろしい……恐ろしいものをもらってしまった。
「世界樹の小枝に新芽、葉に実……」
実は普通の実に加えて、完熟まで。表記が違うということはなにか違っているのだろう。朝露、夜露……。読み上げるリデスの声が若干震えていた。
「これ本物なのか?」
「執事のセバスティアンさんが準備したものだから、間違いないと思う」
他にも、黄金のリンゴ、蘇生薬の材料セット、珍しい果物や薬草など。
籠には女王陛下の魔法がかかっているのだろう。このさほど大きくない籠によくこれだけのものが入るなってぐらいたくさん入っていた。
量だけでなく、入っているものの希少さや質も高くておかしい。
普通の植物や果物に見えても、細かく植物の説明や効能を読むと普通じゃない。
女王陛下の加護がついているのか、性能的におかしな効果がついてて。気楽に食べられない。もちろん、ありがたく有用な効果なのだけれど。
好物のレモンタルトの材料が砂糖以外は揃った……はずだったんだけれど、なんか違う。
こんなとんでもないものを、どうして籠に詰めちゃったんだ!
僕、神の酒と呼ばれるほどの美酒を生み出すっていう、伝説のぶどう。ぽいぽいつまんで食べちゃったよ。
「これ全部、アルフにくれたのか?」
リデスの顔には驚きと尊敬の色が浮かんでいた。
「うん……」
しばらく、放心していた僕たち。
意識を取り戻したリデスが「オレもいい話がある」と言った。
「アルフが言ってたリンゴ専用の器な。あれをじいさんに頼んで作ってもらった」
「リンゴポットできたの! あんな簡単な説明とへなちょこな絵だったけど」
「あぁ、リンゴポットに入れて焼いたリンゴは最高だ! じいさんも喜んでた。それでアルフに相談だ」
「僕に相談?」
「あぁ、リンゴポットをじいさんが売りたいそうだ。その許可がほしいとな」
「うーん、おじいさんが作って売るんでしょ? 好きにしたらいいのにダメなの?」
「いや、お前が考えただろ」
んー。前世の記憶! と言えたらいいけれど、まだなんとなくそれは話せていない。
妖精になる前の人族だったときの話——この世界の貴族家に生まれてから、妖精になってしまったまでのことは話してある。
まぁ、僕が考えたわけじゃないし、許可はいらないんじゃないかな。
「あれは本か何かで読んだか、誰かから聞いたか、それをリデスに話しただけだよ。僕が許可なんてする立場にないよ?」
「それでもだ。じいさんはちゃんと筋を通したいんだと。オレもそう思う」
「ならいいよっておじいさんに伝えて」
「あぁ。でだな、お前がよければじいさんが一度会いたいって。礼も直接会ってしたいって。美味い菓子も食えるぞ」
「お礼なんていらないけど、美味しいお菓子はすーっごく食べたい。あとおじいさんにも会ってみたい」
「よし! じゃぁアルフ、特にすることないなら早速行くぞ」
「あ、待って、待ってー」
気の早すぎるリデスに少し待ってもらう。本題の説明がまだだった。女王陛下からの頼まれごとについて話す。妖精が消えちゃう問題だ。
リデスも他の妖精から噂話の真偽を聞かれたことがあったそう。
問題になっている森の北東部へ行けば「簡単に進化できるらしいが本当なのか? と。その情報を集めて行こうとしている妖精に何度か出くわし聞かれたそうだ。
進化したい気持ちはわかる。でも簡単に進化できるなんて話、聞いたこともない。
妖精によって進化条件やそれまでの期間がバラバラなのはみんな知っている。それでも噂が立ち、本気にしている妖精がいる。
進化を経験している妖精からすればありえない話で、嘘だとわかる。当然そんなんで進化できないと忠告したそう。
だけれど、本当に進化したという妖精がいるという。その妖精の条件が整いたまたま進化した、そんなのが噂になり広まったのだろうと思っていたリデス。
「妖精が消えてるって話が本当なら何か起こってそうだ、気になるからオレも一緒に行くぞ。ついでにじいさんとこの近くだしな」
「ありがとう。助かる。おじいさんのところも一緒に行けちゃうのならいいね!」
「オレの助けは必要なさそうだがな。何かの役には立つだろ」
リデスも一緒に調べてくれることになった。おじいさんがいる人族の街は問題が起きている森の北東部を抜けたその先にあるそうだ。同じ方角。
嬉しいことはもう一つ。リデスと一緒なので、妖精の通り道を使って目的地、森の北東部付近まで行くことになった。
初めて使う「妖精の通り道」。どんなふうになるんだろう。楽しみ!




