第11話 種族の純血
「いやいやいや。いくら女王陛下がなさったとはいえ、そんな進化ありえねぇだろ」
「そもそも無断でここへ侵入したことをお忘れですか」
「そんな簡単に進化させてしまうなんて」
青・白・緑が納得していない様子で、色々言ってくる。しかも言い方、素が出ちゃってるよ。
「俺たちは何よりも純粋で高潔でなければならない! 俺は、お前がどれほど能力が高いとしても、混じり物など存在自体許さない。許されるはずがないんだよ!」
「何より、私たちと同じ純粋な妖精とは誰も認めていませんよ」
「害はないと言われても、魔族を吸収してる妖精とか怖すぎるよ」
女王陛下の登場とその後の僕の進化まで、驚きっぱなしの展開ですっかり忘れてた。そして女王陛下が言うからには納得するしかないと思っていた僕とはかけ離れてた三妖精。
誰が許さないというのか。女王陛下より偉い妖精がいるのかな。
まったく、まーったく納得していなかった。むしろ進化までさせてもらったから、僕に対する感情がさらに悪化している。
「はぁー。種族純血主義に毒され過ぎておる」
深い溜息をはく女王陛下。種族純血主義?
「お前たち、いい加減に――」
女王陛下の言葉をさえぎって、白と緑、青の三妖精は続ける。
「女王陛下、私たちは妖精のためになると心から思っております」
「このことだけはどうかお聞き届けください。こうすることが最良の結果をもたらすと信じております」
「そうだ。お前覚えてるか? 俺に二度と姿を見せるなと言っただろ。その意味がわかるか。わからないなら教えてやる。特に純粋じゃないお前にはな! その身をもってわからせないとな。こういうことだよ!!」
青が前に突き出したその手からいくつもの攻撃魔法が飛んでくる。
とっさに張った結界に当たり、魔法が跳ね返る。
反射した魔法が三妖精たちに向かい、彼らに直撃する。
「「「うぁぁぁぁ」」」
大きな悲鳴を上げる。
青は天を仰ぎ、目を見開く。
白は顔を手で覆いうずくまる。
緑は目をぎゅっとつぶり、うめき声を出しながら苦しんでいる。
なんの魔法だろ。目の前で苦しんでいる。体がビクビクっと痙攣し変な動きをしている。
怖い。麻痺? 毒? 何の魔法かまったく見当もつかない。こんな怖い魔法放ったの? 僕に? 死んじゃうじゃん。
本気、本気でそのつもりだったのか。そんなにダメなの、この黒いキラキラって。
危なかった。あんなの直撃したら大変だよ。今度は本当に終わるやつ。
さすがに、もう一度妖精から何かに種族変更して生き延びられる可能性は低いと思う。何の魔法かわからなかったけど、跳ね返せる結界をとっさに張れた。間に合ってよかった。
妖精たちが縮んでいる。みるみる小さくなっていく。
あの魔法、魔力とか生命力的なもの吸い取るの? このままどんどん吸い取られたら消えちゃう? 流石にそれは可哀想と思うけど、自分たちで放った魔法だし。
どうしよう、考えても何もできない。
ぐるぐる考えているうちに、さらに小さくなっていく。ぜんぜん止まらない。
そのうち人型でもなくなって、羽も消えて進化前の光の塊になった。
その光すら消えちゃうって思ったその時、やっとその魔法の効果が消えた。三つの光はそれ以上小さくならなかった。
ちっちゃい、めっちゃくちゃ小さくなった。あの魔法が僕に直撃していたら確実に消えてたよね。あっぶな。とっさに反応できた僕、よくやった!
「自分で放った魔法が招いた結果。受け入れなさい」
今までの声とは違う、やや低い硬質な声色の女王陛下。
これ以上小さくなったり、今すぐには消えたりしないそうだ。妖精としての力もほとんどなく、いつ消えてもおかしくないほど弱く小さい存在になった。
そして、再び進化する可能性はほとんどないという。
よくいる光の塊の妖精が持つ力を取り戻すだけでも、考えられないほどの時間と労力が必要だ。進化できるとしても、どれだけの時間を必要とするか女王陛下にも見当つかないと。
自業自得だと話す女王陛下の表情は少し寂しそうだ。
彼らの主張は、この森に魔族が現れるようになってから増えてきた考えだそうだ。他の種族、特に魔族に対し侵略を許してはならない、妖精の力を高め強くあろうと。
そのためには純粋な妖精の力が重要である。
そんな考えからすると、まぁ僕は嫌われるよね。終わったからもういいか。
僕に攻撃してきた三妖精をどうするか聞かれたけれど、僕はこれ以上の罰を彼らに与える必要はないと伝えた。
勝手な思い込みのようなもので攻撃されたけれど、何もできなくなったんならもういいや。これで関わりなくなればそれでいい。
「この不始末すべて私の至らなさによるもの。一歩間違えばアルフ、そなたが危うく消えてしまうところであった。本当に申し訳なく思う」
「このとおり、僕はケガも何もしませんでしたし。どうかあまりお気になさらず」
「せめてもの詫びの品、これを受け取ってほしい」
「これは?」
茶色い木の実を渡された。どんぐりより大きく、栗より少し小さな木の実。つやつやしていて美味しそうである。
「これはノチラの実という。別名を知恵の実と呼ばれておる」
「んー?」
首をかしげながら『知恵の実』って、実在したんだね? おとぎ話の中だけだと思っていた。
その実を食べたら、この世のすべての知識を得られるとか。得た知識で英雄になれたとか、そんな話じゃなかったっけ? ジェンマに読んでもらった絵本にあったよ。
「そういうものではない。妖精にとってはそれに匹敵するやもしれぬが。実際にはこれを食べた妖精が進化できるというもの」
進化した妖精が食べれば、新たな能力が得られるという効果もあるそうだ。
「一年に九つ、別々の九本のハシバミの木から熟したものが一つ落ちる。その落ちる先に朝露が溜まっていることが必要。そこに落ち、朝露を十分に含んだものがこのノチラの実となる」
その木はあちこちに生えている。前の年に実を落とした木でも次の年に実がなるとは限らない。実の落ちた先に朝露が溜まっているかもわからない。
ただのハシバミの実ではダメで、朝露をまといその魔力を内包したノチラの実じゃないと進化も、特別な能力も得られることはない。
そんな木の実だから見つけるのがとても難しい特別な木の実。
妖精の一部や人族は、ハシバミの実を知恵の実だと言っている事があるが、それはノチラの実とは別物。
女王陛下の予想では僕が食べれば、時間に干渉できるようになるか、空間に干渉できるようになるか、そんな魔法や能力が発現するのではないかという。
僕はそういう魔法、まだ収納魔法しか使えないからできるようになったら嬉しい。
「貴重なものでは」
「遠慮せずともよい。セバスティアン」
「はっ、ここに」
うわぁ、黒服の妖精が女王陛下の後ろにすっと立ってる。美形の執事さん。
「この庭にある薬草、草花、果実などから詫びとしてふさわしい物を見繕いアルフに」
「承知いたしました」
「ノチラの実だけでもじゅうぶん過ぎるのに、ここの貴重な植物たちまでは、過分です」
「そんなことはない。これくらいは当然。それでも足りぬのではと思っている。それだけのことしてしまったと」
確かに攻撃は受けたけれど、僕には被害なし。結界で弾いて終わりだった。進化も女王陛下がしてくれたから必要ないし。
そんな貴重なもの、他の進化を望んでいる妖精にあげたほうが役立つのではないのかな。
新しい魔法には興味あるけれど。
女王陛下でも、たくさん持っているわけではないという。その一つを僕にくれるという。実がなくても女王陛下は魔法で進化させられるが、それでも特別な木の実には変わりはない。他にも効果があるしね。
それから、僕の採取をよく手伝ったということで、ピスタにも褒美をくださった。ピスタと同じピスタチオグリーンの綺麗な魔石が付いた首輪だ!
この首輪を付けていれば「一目で従魔だと認識されるであろう」と言われた。
魔石を留める台座には綺麗なリボンが付いていて、ピスタの首にかけると自動的に縮んでぴったりサイズになったすごいヤツ。
素敵な首輪をもらったピスタの反応がいまいちなのは、凄すぎて驚いているのかな? とてもよく似合っているし、ピスタの可愛さ倍増だよ!!
さすがに、もらいすぎだと思う。眉と目尻を下げ困った顔になりながら、正直な気持ちを伝えた。
そんな困らせるつもりはないのだが、と女王陛下。「ならば」と
「困りごとを一つ頼まれてはくれぬか? 謝罪とその頼み事の礼としてならどうか」
「それならば、まぁ。はい、ありがたく頂戴いたします。僕にどれほどの事ができるのかわかりませんが、できることならばお力になりたいと思います」
もし、僕には手に負えないものなら、状況を確認してくるだけでもいいという。それならできそうだし、もらいすぎで困ることもなくなると話を聞くことにした。
場所は妖精の森の北東、人族の地域に接するあたりだ。
そこで妖精が消えているという。
妖精が消えることは自然にあることだ。力が弱くなって自然消滅したり、魔物や人に襲われたり、様々な理由でその生を終える。
ただ少し他の地域より少し多いのだ。あきらかに何かあるという程ではないのだけれど。
気になることの一つは、そんなことが起きている場所へ向かおうとしている妖精も若干だが増えている。
もともと人族の地域と接している所で、妖精の森の端に当たる場所だからそれほど多くの妖精がいたわけでもない。
特に今回消えたと、数多く報告されているのは進化前の小さな妖精たち。そんな妖精たちはほとんどいない場所だ。
森の中心部のほうが魔素が豊富だし危険は少ない。危険がまったくないわけではないけれど、あえて冒す理由もないはずなのに。
どうしても、気になるのだという女王陛下。
たまたま色々重なって消えていく妖精が多くなっただけなのか、何かが起きているのか、確認してきて欲しいということだ。
もし誰かが故意に何かしているなら、これ以上悪化する前に早めに対処するに越したことはない。
そういうことならと引き受けることにした。僕も話を聞いて気になるし。
それに、僕がやるべきことがもう一つある。僕が家族から離れて妖精になった原因、意地悪なルクレーティアのことだ。彼女についても調べられるかもしれないからね。




