第10話 特別な庭
色んなところが眩しくて直視できないおねいさんが、許可をくれました。偉いおねいさん。ここの持ち主なのか、管理している妖精とかだよね。
「許可してくださり、ありがとうございます」
まずはお礼を言っておこう。
「女王陛下、そんなっ。この者にそのように容易く許可をお与えになるなど——」
青いやつが言う。
そして、女王陛下だったー。すごい! 妖精の女王陛下、結構気軽に現れてくれるんだね。
ぼくは荒らしたりはしていませんよ。ちょっと見学させてもらっていました。
「何者なのか、こんな妖精か魔族か判別つかない者のために女王陛下が直々お見えになられずとも我々で対処いたします」
白いやつの発言に対して、女王陛下は
「黙りなさい、発言を許可していない。それにこの子はれっきとした妖精。ここに入るにも本来許可は必要ない。この結界を通れるものは、初めから許されていた証。入れた事実が、すでに許可されたと同義」
「しかし、あの黒い魔力は魔族の証。魔族以外に黒い魔力を持つものなどおりません」
「確かに混じっているようだ。だが、この程度この子にとってはどうということはない。多少混じったところで、妖精であることに変わりない」
ぼくを見てにっこり微笑む妖精の女王陛下。
頭を下げたつもりでふよんとした動きをする。丸い光で頭下げてるのかわかりづらいけど、そこは仕方ない。
偉い人とのルールはわきまえていますよ。許可されるまでは発言控えて、じっとしときますね。
勉強していてよかった、貴族ルール。ありがとう家庭教師の先生! ちゃんと役立っています。
「さて、そなた面白い混じり方をしておるな。その元々の魔力覚えがある。名はなんと?」
「はい、アルフと申します」
「アルフ、噂は耳にしておる。人族の名も持っておるな」
だ、誰からどんな噂話を聞いているのですか? 気になる。でも聞けないね。人族だったこともご存知とは驚きで、つい質問で返してしまった。
「なぜ人族の名のことをご存知で?」
「聞き返すな。質問されたことにのみ答えろ。早く人族の名を名乗れ」
青さんまた勝手に口出すー。
「はい、ラレス辺境伯家四男、アルフレードという名でした」
名を名乗る。人族だった時の名前だからね。過去形にしてみた。
今は妖精のアルフ。もちろん、両親や兄たちとは、今も家族だと思っている。ただ、今居るここは妖精の森だし、妖精の一員でもあるからね。
「あのラレス家か……」
……ん? どのラレス家か知らないけれど、ぼくがいた国には一つしかない。他の国や種族の中にラレス家がないならそれで合っている。知ってるのかなぼくの家。初代の話は六百年近くも前だけれど。
他には、魔人と混じったことについて何があったのかと聞かれたので、あの時の出来事を説明した。やっぱりあの時の魔人、吸収して混じっちゃったのかなぁ。
でも、心配しなくてもいいよ、ぼくの本質は変わってない。魔人と混じったことでちょっと魔力が変質したぐらいだと教えてもらった。一瞬心配になったけれど害はないってはっきりした。ならいっかーと思う。
一番偉い女王陛下に妖精だよって認めてもらえたから、ひと安心です。
これで隣の三妖精も納得してくれたかなと顔をチラ見したら、全然納得してない。ムギーって歯を食いしばり、しかめっ面である。
なぜだ。
もう何をどうしても嫌なものは嫌ってタイプなのかな。見た目が嫌だとか、生理的に受け付けないとか。まぁ、ぼくぼんやりとした光なんですけどね。
「して、アルフ。この庭には何用で参ったのか」
「はい、とても美しい庭が見えましたので散策しておりました。決して庭を荒らしたり、珍しい花や薬草を取ろうなどとはしておりません。ただ知らない植物がたくさんありましたので興味深く拝見しておりました」
「そなたに悪意ないことはわかっておる。ここの結界は悪意持つものを弾くように作られているからな」
ぼくを見つめて笑顔のままゆっくりうなずく女王陛下。続けて
「それで、非常に珍しい花を持っているというそなたですら知らぬ植物があるか。聞きおよんでおる。そなたが持つ珍しい花、私にも見せてはもらえぬか」
「それは妖精の燈火のことでしょうか。ならばここに」
ぼくは収納からスッと取り出し、女王陛下に差し出す。
「どうぞ、こちらでございます」
「ほぉ、これが妖精の燈火」
瓶を手に取り間近でご覧になる女王陛下。
その美しさと貴重さを語っていたよ。採取に失敗し黒くなったのは見たことあったんだって。それからこんな儚くも、豊富な魔力を持つ花だったとは思ってなかったそうだ。
「よくぞ採取した! その発想と実現できる能力。魔法の扱いにおいても、進化前の妖精としては稀有な才能である。恵まれた血筋にもよるところがあるのだろう。だが、それを自分のものとし使いこなすのはその者の能力の高さがなければ存分には発揮できまい」
「いいえ、そんな。たまたま運良く見つけることができただけでございます。それに採取はこの子、ピスタが教えてくれたからです。ピスタのおかげで運良く摘み取れただけです」
「謙遜せずともよい。そのピスタのことを含めて、事実を述べたまでのこと。記録にある限り、そなた以外に採取できたのは一人のみ。私ですら、こうして手に取るのは初めてというもの。どれだけ凄いことをしたのかを知ることも必要。そなたの能力がどれほどのものかも理解できよう」
へー掲示板にはなかったけど、一人採取できた人いたんだね!
ぼくは、女王陛下の顔が見れなくってうつむく。自分の顔が熱くなっていく感覚があった。光の塊だけどね。嬉しいさと少の恥ずかしさが同時にやってくる。
褒められたからってわけじゃないが、そんなにすごい花で、気に入ってくれたならと
「これは、女王陛下へ献上いたします。受け取っていただければありがたく存じます」
「これをくれるというのか? そなたが苦労して得た希少なるものを——」
「まだいくつか採取したものがありますので」
「なんと、まだ他にもあると!」
「はい、一輪だけ咲いていたのではなく群生していたのです」
ならば、ありがたく受け取りましょうと、その礼として望みを一つ叶えてくれるって言うから
「もし可能でしたら、ぼくが進化するためにはどうしたらいいのか? その助言をいただけないでしょうか?」
というお願いをした。
ほら、妖精の燈火を手にしても何も起きなかったし。このままじゃ何をしたら進化できるのかわからないから、女王陛下なら何か知ってるかと思ってさ。
「承知した。そなたを進化させましょう」
「えっ? 進化させてくれるの?」
驚き過ぎてタメ口になっちゃった!
次の言葉が出てこない。失礼をお詫びしたり、進化……うん、進化させてもらえることはとても嬉しい。でも、展開が早すぎて混乱中!
そして進化へと状況は進んでいっちゃう。
「それだけのことを成し遂げたのだ。条件は満たしておる。進化のきっかけを与えるのみで、無理に進化させるわけでもない。ならば、何も問題はあるまい」
と言い、ぼくはその早すぎる決断と行動力に追いつかない。
女王陛下が両手を空に向かって広げる。
ぶわっと風が巻き上がる。
周りの木々が揺れ、葉が舞い上がる。
ぼくの上に草花を巻き込んだ光が集まる。
ゆっくりと降りてきた光はぼくを包む。
それは、温かく優しい、穏やかな光だ。
ほっと安心するような。
その光が消えた後、自分がどうなったのかを確認してみた。前にリデスが作ってくれた葉っぱ鏡でね。
進化した僕は、人型の妖精になれたようだ。その姿はこの森に来る前と同じで、大きさも五歳児サイズ。(羽つき)
妖精にしては大きい。だが、人族の女性と同じくらいの女王陛下ほどではない。
でも隣りにいる青と白と緑の妖精たちよりはあきらかにでかい。かれらは人族の手に乗るような小さい妖精って大きさだからね。
すごいぃぃ! 女王陛下って、魔法もすごいぃ!
「ありがとうございます! こんな、こんなに簡単に進化させてもらえるなんて。感謝の気持ちでいっぱいです」
「これしき、そなたからもらった妖精の燈火に比べれば容易いもの。これでもまだまだ、私が受けたものの礼には足らぬ」
「いえ、進化のきっかけだけでも教えてもらえれば十分だと思っていたのに……まさかこの場で、全部すっ飛ばして進化させてくださるなんて」
女王陛下、やりすぎー。でもありがたい。
「うむ、やはりそうであったか」
ぽそりと何か呟いた女王陛下。
「あの、女王陛下。どうかされましたか?」
「いや、その姿、私の知っている麗しい妖精の生き写しのようだと」
「そうなのですか? それは僕の先祖の伴侶になったと言われている妖精様のことでしょうか?」
「えぇ、私が敬愛し、最も憧れた妖精であった」
目を細め、どこか遠くを見るような眼差し。とても懐かしそうな、そんな表情で穏やかに微笑んでいた。
進化できた驚きと、嬉しさで、僕は忘れていた。
この庭で最初に再会した三妖精たちのことを。隣で膝をつき跪いて、しかめっ面のまま僕と女王陛下とのやり取りをずっと聞いていた彼らのことを。
進化までさせてもらった僕に、鋭く、射殺すような視線を向けている三妖精の存在を——。
====================
アルフ進化記念!
「アルフ進化できたね!」「人の姿になれてよかったね!」「光の塊卒業!」
そんなふうに思っていただけたら、評価★やブックマークをいただけると嬉しいです!




