新たなターゲット
「いやーホント十兵衛殿が気の良い男で良かったでごさるよ!ま、もう一杯!」
「まぁまぁしゃーない!誰にでも間違いは有るて!気にすんなって」
取り敢えずカッパを会社に持って帰っていつもの居酒屋で接待している。博士的にはとにかく話が聞きたくて仕方が無いらしい。そして十兵衛という名のカッパも割と話の分かるヤツだった。と言うか店のオヤジも最初から顔色一つ変えずにいつも通りに寡黙なキャラを貫いている。
「オヤジ普通さ、緑色のカッパがのれんをくぐって来たら驚かない?」
寡黙なオヤジはチラッとコッチを見て目を細める。
「あんたアレかい?肌の色で人を差別するタイプかい?」
オヤジの予想外の答えにしどろもどろになる。
「え!いや、そうじゃなくて、完全なモノノケだよ?妖怪だよ?普通警戒しない?」
「其方の十兵衛さんは店に入る時に「ごめんなすって」と挨拶をしながら敷居を踏まずに入って来られた。礼儀、礼節を知る相手に警戒を持ってもてなすなんてのは論外だよ、俺のメシを美味い美味いと食べてくれる人は皆んな大事なお客さんだよ。もとより俺は色盲だ、緑だ白だと色で人を見ちゃいねぇよ」
いつも寡黙なオヤジが珍しく饒舌だった。
「オヤッさん、あんた良い人だ(グスッ)俺もこの身なりだからさ、昔は色々苦労したんだよ」
カッパが泣き出した。そしてこの日は朝日が出るまで飲み明かした。
———昼過ぎ———
ガタンゴトン ガタンゴトン…
「あ〜飲みすぎた、み、水…」
昨日と言うか数時間前だが、あの後そのまま3人で会社に泊まった。そして酒を飲んだ後の寝起きの俺はカッパよりも水を欲している。
「何やアレしきの酒でアンナはだらしないの〜」
「十兵衛殿、それで?」
「あぁ悪い、んで、いざ関ヶ原を挟んでの睨み合い、両者一歩も譲らず…なんてのは大見栄もいい所、実際のところ」
多分関ヶ原の合戦の裏話的な事で2人…1人と1匹?は盛り上がっていたが、何と無く聞いているウチに俺も話にハマり込んでしまっていた。十兵衛の話方は日本の伝統芸能【講談】に似た話し方で、抑揚、スピードなどトークスキルは驚く程高かった。
「いや〜上手いもんだな、それでメシが食えるんじゃ無いかってくらいに」
「そうや、実際これで食うてたで。まぁこんなもんは長い事カッパやってたら見に着く嗜みみたいなもんや」
カッパを長い事すると話芸が見に着くシステムはよくわからないけど小器用なカッパなのは間違いない。
「あ、それとアンナ氏、十兵衛殿にウチの会社の顧問になってもらったので」
「え!? お前何を勝手に」
「イタタタ…あー太腿痛いわぁ〜」チラッ
このカッパめ…まぁ話を聞いてたら色んな知識とか妖怪の生態とかに詳しそうだし
「チッ! わかった…『おう!宜しくな!』
俺が言い終わる前に十兵衛が被せて言うもんだから博士が爆笑していた。
「てか良いのか?お前の同族を殺る事になるけど」
「同族ちゃうわ、まぁ流石にカッパ殺るのは勘弁して欲しい所やけどな」
十兵衛曰く妖怪は同族では無いらしい。【妖怪】と言うジャンルで勝手に括っているのは人間で本人達の同族は玄武の系譜のカッパのみとの事。『何でもかんでも勝手に基準を作る、お前ら人間はそー言う所有るから気を付けろよ』と怒られた。てかカッパって四神玄武の系譜なんだ。何故か急にこのカッパが神聖なモノに見えるから不思議だ。そして玄武とかホントにいるんだ。
この後仕事のミーティングで十兵衛にアレコレ教えてるんだが恐ろしい程飲み込みが速い。多分200年程前に突然意識が無くなったらしいが、既に現代に馴染んでいる。マウス操作だけどもうパソコンまで使ってるし。後、裸だと具合が悪いので作務衣を着てもらっている。
「よっしゃ大体わかった。せやけど鞍馬天狗や酒呑童子を探すのはやめとけ、もちろん土蜘蛛もや」
十兵衛の話を聞く限り伝説に名を残す妖怪達は確かにヤバかった、流石と言う他ない。
「それもええけど、ワイの住んどるあの池におる気持ち悪いの何とかしてくれや」
「気持ち悪いの?」
「せや、この前船ごと上から降って来たタコみたいなヤツや、話が通じんけったいなヤツらや」
この前船ごと上から降って来た?何だそれ?
「アンナ氏、これはどえらい事ですぞ?ハッキングした政府の資料に宇宙人を示唆する画像と報告書が有ったのを拙者も見ましたがよく有る都市伝説と思って重要視しなかったのですが」
「もしかしてマジの宇宙人かもって事?」
その後十兵衛の話をまとめるとこうだ
①タコに酷似した外見で人と同じくらいの大きさ
②頭はタコで身体はイカの様に長く二本足
③タコの頭から生えた触手が左右に3:3で6本
④池の魚を食べる肉食、十兵衛も襲われかけた
⑤ 滑らかな金属や機械が沢山
⑥陸に上がる時は機械に乗らないとダメっぽい
池の魚を食べ尽くす勢いらしく、食料を求めて陸に上がっているらしい。その際に半日くらい水際で何やらごちゃごちゃ準備しないと行動出来ないらしく、その時なら勝てそうとの事。
「アンナ氏、これは絶対行くべきかと」
「だよな、水中ならいざ知らず陸なら勝機が見えるもんな」
「よっしゃ、ほなビーストバスターズ出動や!」
いやあの…俺が社長なんですけど?