撃ったの?
鬱蒼とした竹林は日が登っているにも関わらず不気味に暗く、夕方程の明るさしか無い。とは言え文明の利器【暗視ゴーグル】&【サーモグラフィー】の前には暗闇からの奇襲を得意とする妖怪のアドバンテージをアッサリ潰してしまう。俺たちからすれば狩放題だ。そして案の定この嵐山周辺には相当数の妖怪が潜んでいた。
エアーも残弾数もかなり消耗したので一旦拠点へと帰還、昼飯の準備に入る。
「アンナ氏アンナ氏!刮目せよ!」 ジャララ
マグカップ一杯は有りそうな量の魔石にニチャる俺達。キャンプ用の携帯バーナーで湯を沸かしカップラーメンをすする。その後デッカいベーコンを焼いてサバイバルナイフで切ってそのままサバイバルナイフで食べると言う例のアレをする。誰も見てないので成り切って楽しむ。
午後からは車で場所を移動して林道を更に奥に入り廃道の様な道をなき道をひたすら進む。するとどんよりとした雰囲気の池に辿り着いた。池と言うには大きく、湖と言うには小さい半端な池だった。迷彩柄の車は木のそばに停めるだけで遠目には見えなくなるので少し離れた所に隠す。
妖怪やモンスターも生物として食事、睡眠、水分補給は必須と判明しているのでこの池の周辺で張り込む事にした。
地面に穴を掘り小さめのタープを張って落ち葉を散らせて完成、快適な拠点の出来上がりだ。後は獲物が来るのを待つだけ。
「しかしこの辺りは確かに妖怪の数が多いけど、政府が狙ってる大物ってなんだろう?」
「この辺りの伝承に残る大物妖怪と言えば鞍馬天狗、酒呑童子、土蜘蛛、鵺ですかね」
「聞いた事があるヤツばっかじゃん!もしかしてそいつらってボスレベルじゃ無い?」
「だから政府も狙うので有りますよアンナ氏」
当たりどころが良ければ熊をも倒せそうなエアライフルとは言え、先に述べたそいつらが熊より弱いって事は絶対に無いと思うのだが…ま、その時は車でサッサと逃げよう。
〜アレから数時間、全く獲物が来ないまま夕方になり見事に読みが外れてしまった。
「いや〜やってしまいましたなw」
「な、まさかの大ハズレw」
「ま、夜行性かもしれませんしもう少し粘りますか」
博士の提案に乗りもう少し張り込む事にした。別にこの時間は嫌いじゃ無い。何もしてないけどしっかり仕事をしてる事になるこの時間。何もしてなくても誰にも怒られないこの時間。遠隔操作で車からドローンを飛ばして辺りを索敵したり望遠で遠くを見たり。大自然の中に溶け込みながら近代兵器を使う感じが結構気に入っている。
「アンナ氏! 妖怪発見!前方10時方向!」
博士の報告に従い確認、いつの間にか池の辺にソイツはいた。人型でしゃがんで何かをしているが山姥…では無さそうだ。
「クソ背中向けか。博士、俺が隠密行動で近寄るから合図で足止めよろしく、近接で仕留めてくる」
「了解」
ライフルを置いてハンドガンタイプとナイフをもって匍匐前進で進む。ハンドガンタイプだと威力はかなり落ちてしまうがネズミなら即死、人くらいの大きさ相手なら牽制くらいは出来るしもし目に当たれば失明は免れない。
進捗に近づき約10メートル手前で静かに起き上がりナイフを抜いてクラウチングスタートの姿勢をとる。博士の射線上に入らない様気を付けながら右手をそーっと上げて振り下ろすと同時にダッシュ!
走り出すと同時に後ろで バシュ!と音がする。
「痛っ!! いったぁ! 何や何や!?」
「え!? え!?」
やってしまった。 暗いし遠目でナイトビジョンとサーモグラフィーでしか確認してなかったけど妖怪だと思い込んでいたのは人だったようだ。太腿を押さえて倒れ込んでいた。
俺は急いで博士に向かって手を振り中止の合図を送り怪我人の元へ走り寄る。
「す、すみません!大丈夫ですか!?」
「痛っっ!お前かい!何やねん急に!」
「本当にすみません!すぐ病院に…え?」
「何や病院て!ごめんで済んだら奉行所は要らんねん!」
近寄って分かったが妖怪だと思ってたのは人だった様で、近寄って話しかけたらやっぱり妖怪でな。それはそれは見事なカッパだった。
「何ぼーっと見とるねん!はよ助けんかいワレ!」
物凄く口の悪いカッパだった。いやまぁ、確かに俺達が悪いんだが…
ようやく博士も到着すると、流石の博士も驚愕していた。池の辺りで2人でカッパを見下ろしていた。
「何やねんお前ら!何とかせぇや!!イタタタ…」
まぁ、敵意もなさそうだし言葉が通じるし、何か悪いなぁって気になったから車まで運んで応急処置を施した。
まだ痛そうだけど出血は止まったので勇気を出して話しかける事にした。あ、ちなみに血は赤色だった。
「え、あの…カッパ?だよね?」
「見たら分かるやろ、カッパ以外の何に見えるねん」
妖怪とは言えちゃんとした会話が出来てしまう分山姥より殺りづらいし、正直俺にはもう撃てない気がする。後は博士に任せようと思う。
「博士、どうする?」
すると博士はニチャアと邪悪な笑みを浮かべながら答えた。
「デュフフ…そんなの決まってるじゃ無いですか」