第二次パニック
【パンドラオープンから数日経過】
『臨時ニュースです。パンドラパニック以降、世界情勢は益々混乱の一途を辿っています。また謎の生命体による被害が各地で続出、政府はアメリカに救援要請を打診、しかしアメリカは緊急時を覗いて軍の派遣はしないとの意向です』
「物騒な世の中になったなぁ〜、て言うかじゃあアメリカの言う緊急時はいつなんだよって話だよ」
一仕事を終えた後ここで晩酌して帰るのがこの男の日課だ。テレビに向かって文句を言うのも日課。ここは高架下のシャッター倉庫を改良した場末の居酒屋。見た目はボロいが味はかなり良い。
「なんかさ、政治家って本当に仕事してんのって思うよね。俺らばっかしんどい思いしてさ、いいよなアイツらは」
こんな感じで一通り世の中を批判をした後家路につく。自転車のチェーンは少し伸びていてそろそろ油を差してくれと悲鳴をあげている。
彼の住む【睦荘】は隣人のクシャミすら聞こえる人と人との距離が近いフレンドリーなアパートだった。風呂とトイレは共同、4畳一間の畳部屋は帰って来る度に自信が落伍者だと理解させてくれる。
「アンナ氏!これ見ろコレ!」
突然ノックも無しに部屋に上がってきたのは隣の部屋の住人 【土田正道】通称(博士)29歳 学生時代たまたま同じ大学でその頃からこのアパートに住んでいる古参。そしてアンナは俺の名前だが勿論男だ。
コレには訳があって、勝手に自分語りを始めるが俺が母親のお腹に居る時は二卵性の双子だったが生まれる時は俺1人だった。双子にはたまに有る事らしいがどうやら俺が喰ってしまったらしい。それが正しい表現なのはわからないが姉か妹は俺に同化吸収されてしまい胃だけが残ったらしい。今も俺の胃とほぼ同化する形で共生状態にある。
女の子を熱望していた母親は失望に明け暮れ、何とか産まれてしまった男の子の俺を愛そうと【杏奈】と言う名前を付けたがダメだった。テンプレの様な母親の虐待→不倫→離婚からの父親は心労で早死にした。そこから親戚をたらい回しで何とか生きてきて現在に至る。今もしがないバイト生活だが幸せだ。世界は混乱しモンスターやらなんやらでカオスになっているけど正直ほくそ笑んでしまう。何故なら平等に地獄だから。
「ノックも無しで。もし俺がシコってたら…」
「いいから!ヤバすぎですぞ!」
【緊急速報】
『…から先程確認。ロシアと見られる軍勢が進軍し稚内、網走、釧路などを侵略、一部住民は避難が間に合わず多数が犠牲になった模様で、また数多くの人質も確認されています』
「・・・マジか」
「ウクライナとの戦争中にまさかこっちを攻めて来るとはね、でも問題はそこじゃ無いんだよ」
こんな大問題を前にしてソコが問題じゃ無いと博士は言った。
「冷戦時代の対ソ連を想定した北地防衛は時代と共に南西シフトしたのは有名だが」
「いや、そうなの?初耳だけど」
博士の悪いクセだ。皆んな博士ほど勉強出来ないしそんな知識量も無いのにお構い無しにぶっ込んで来る。
「それでも日本の防衛力を掻い潜り、ましてや上陸を許してしまうなど言語道断、あり得ない。スパイか未知のテクノロジー以外考えられない」
「じゃあその両方じゃ無いの?」
それを聞いて博士が黙り込んでしまった。しばらくすると
「ふむ、両方同時の考えに至らなかったのは確かに拙者の思慮が浅かった。アンナ氏は極稀に鋭いな」
【緊急速報】
『続報です。ロシアと見られる軍勢に北海道の一部を占領。同時刻沖縄全土と熊本県の一部を中国と見られる軍勢に占領されました。アメリカの駐屯基地からの応答は無く恐らく抵抗前に制圧された物と思われます。第二次世界大戦意向事実上の開戦となりアメリカとの連携を強め今後の対応に当たる模様です』
「おいおいおい…マジで始まってんじゃん」
パンドラパニックで人智を超えた事態が起こったかと思えば想定されていたまさかが今起こった。
「パンドラパニックに乗じた侵攻作戦とは恐れ入りますね、パニック&平和ボケしてたとはいえアメリカ駐屯基地すら抑えるのは些か疑問ですがね」
確かに。いくら日本人が平和ボケしててもあちらさんはバリバリの現役ヤンキーだ。絶対にドンパチするはずだし、そうなるとすぐニュースになる筈だ。
「確認してみましょう」
そう言って博士は自分の部屋に戻って行ったので俺も後に続く。今度は俺がノックせず博士の部屋に入るが相変わらず…凄い部屋だ。ほんとに何処で寝るの?ってくらい機械で埋め尽くされている。以前余りの電気代の高さにマリファナか何かを育ててるんじゃ無いかと警察が家宅捜査にきた程だ。
博士は徐にパソコンを操作して何処かの防犯カメラをハッキングしていた。え?いやちょっと…
「これが制圧される5分前の駐屯基地内ですね、やっぱり様子が変ですね」
「ちょちょちょっ!博士待てって!それはさすがにヤバいだろ!アメリカとの国際問題になるだろ!」
「もうその段階は制圧、侵略された時点でとうに超えています。これはアメリカでは無く中国に対してのハッキングです、しかも攻めてきたのはアチラですので正当防衛ですね」
なんか無茶苦茶理論だけどまぁわからなくも無い。そして防犯カメラの画像に映る兵士達はまるで魂が抜けた様にボーッと宙を見ている、それは中国軍に突入されている時も同じだった。
「何ですかこれは?中国軍がガスマスクをしてると言う事は細菌兵器?麻薬?」
と、そこで突然画面が途切れてしまった。どうやらシャットアウトされたらしい。
この日、ただでさえ狭い日本はさらに狭くなってしまった。
ちょっと風呂敷広げすぎたか…