街と同胞
どうやら、この体の全速力は人が歩くより遅いらしい。
持ち上げられて、ロープで縛られて大男の腰にぶら下げられた。
漁港にある網に入ったボールの気分だ。
「コイツ滅茶苦茶遅かったな。街の外周を走り回ってるアレとは大違いだ。」
街の外周を走り回ってるアレ?何か変な奴がいるもんだな。と思っていたら若い男も気になったらしい。
「クリスさん、街の周りを走り回ってるアレってなんですか?」
俺を捕まえたゴリラはクリスって言うのか。覚えたぞクソゴリラ。
「ん?そういえばマーカス、お前が街に来たのって1ヶ月位前だったな。お前が来る少し前までな、街の外をグルグルと走り回ってるスライムが居たんだよ。コイツと同じ種類のな。多分そろそろどっかから戻って来ると思うぞ。何故か冬に何処かへ行って、春頃に帰ってくるんだ。」
同胞だったか。そして若い男はマーカスって言うのか。
「へぇ~、そいつも特殊個体なんですか?」
「あぁ、そいつも名持ちだぞ。まぁ、名前って言って良いのかわからんがな。」
「なんて名前なんですか?」
「恐るべし。」
「えっ?」
「名前だよ、恐るべしって名前なんだ」
「恐るべし…。」
スライム、恐るべし…。
暫くの間2人は何も喋らずにただ歩き続けた。
逃げられないし、今のうちに鑑定レベルを上げておこうか。弱点とか分かるかもしれないし。とりあえず、無差別に鑑定し続けよう。
陽も傾いてきた頃には鑑定レベルが80になった。
その時、ゴリラが喋った。
「このままだと街の門が閉まるギリギリだな、少し急ごうぜ。」
「そうですね、急ぎましょう。」
これから俺は売られるんだ。その前に、鑑定レベル上がったし、俺を捕まえたこいつらの事を鑑定してみよう。
鑑定
種族:人間族
名前:マーカス 苗字無し
年齢:16
性別:男
レベル:22
体力:120
魔力:90
物理攻撃:100
物理耐性:80
魔法攻撃:0
魔法耐性:0
速度:80
スキル 剣術25 体術:40
称号:無し
あだ名:農民小僧
コイツ農民の冒険者かよ。ゴリラは?似たようなもんだろ。
鑑定
種族:人間族
名前:クリス 苗字無し
年齢:26
性別:男
レベル:201
体力:6800
魔力:2200
物理攻撃:9700
物理耐性:8200
魔法攻撃:1500
魔法耐性:6000
速度:3000
スキル 鑑定100 大剣術:100 剣術:100 体術:100 火魔法:75 回復魔法:50
称号:守護者 豪傑 限界突破者
あだ名:大剣ゴリラ
すっごい化物だった。 こいつのデコピンで俺は死ぬんじゃないか?
「ん?またコイツ、俺たちを鑑定したぞ。しかも鑑定レベルがかなり上がってるな。」
「こいつは鑑定しかしないスライムなんでしょうか?」
「わからん、コイツらの特殊個体は繰り返す行動がたまに変わるんだ。あの走る奴も最初は1時間おきに近くの水に浸かるってのを繰り返してたからな。」
「詳しいんですね。その変なスライムの事をずっと見てたんですか?」
「んな訳あるか、街に特殊個体のスライムの研究をしてるエルフの女が居てな、そいつがたまにギルドの掲示板に情報を貼りに来るんだよ。」
女エルフが居るのか、リアル女エルフ…どんな奴だろうか。
しばらくすると、でかい城壁みたいなのが見えてきた。
城壁の堀の周りに線のようなものがある。
何の線だろうと思っていたらゴリラが農民小僧を止めた。
「おっ、ちょっと待て。向こうから例のスライムが来るぞ。あの線に近づくなよ。」
「当たったら怪我したりするんですか?」
まぁ、猛スピードで走る?スライムなんだし、当たれば骨折位はするだろう。
「いや、こっちにダメージは無いんだが、別の問題がある。当たったらあのスライムが死ぬ。」
「えっ?」
速く動けるのに?なんで?と思っていると、あの線に沿って同胞が土煙を上げながら異常な速度で進んでいた。あの線は同胞が走った跡だったのか。
「やっぱ帰ってきてたか。久しぶりの光景だな。春が来たって気分になるぜ。」
とりあえず、あの同胞を鑑定してみよう。
鑑定
種族:スライム(特殊個体)
名前:恐るべし
年齢:12
レベル:2
性別:無し
体力:25
魔力:20
物理攻撃:10
物理耐性:15
魔法攻撃:15
魔法耐性:15
速度:4200
スキル 無し
称号 疾風
あだ名:暴走スライム
速度だけゴリラより上なのに他は俺とほぼ同じかよ。ゴリラも鑑定をしたみたいだ。
「おっ、前より速くなってんぞ。もう俺じゃ追い付けねぇな。」
どうやら前は、ゴリラより遅かったらしい。
「クリス〜!早く来い!門を閉じるぞ〜!」
門番がそう叫ぶと、俺をぶら下げたゴリラと農民小僧は急いで街に入った。