一話
夕暮れ時の学校の屋上。それはもう告白の定番場所と言っても過言ではない。
俺はそのセオリー通りに告白をしようとしている。
「あ、あのさ」
だめだ、緊張のあまり徹夜で覚えたセリフが出てこない。相手の表情も見れない。
しかし、向こうも緊張しているのは鈍感な俺でも分かる。それもそうだろう
こんなベタな場所に呼び出しているんだ。よほどのバカでない限り状況は分かるだろう。
そんな事もあって言葉が出ない。きっかけは授業で聞いた教師の一言
「人間はやって後悔すよりも、やらなくて後悔するほうが後悔が深い」
と言う言葉だった。
その言葉を聞いて俺は決心した。長年の幼馴染という関係に終止符をうつ。
その為に、彼女を呼び出しこうしているのだが・・・
言葉が出ない。今更になって後悔している。忘れていたわけではないが気づかない振りをしていた重大なこと。
断られる
ということだ。そうなれば今までのような関係ではいられない。
さすがの俺でも今までのように話しかけたりは出来なくなる。彼女もそうだろう。
やきもきしている関係ではあったが、あれを失うにはリスクがでかすぎる。
その恐ろしさと緊張が相成って言葉が出ないのだ。
下を向き、口をパクパクしている俺に彼女は
「大丈夫?」
と優しい声をかけてくれる。
チクショウ、俺のばかばか。ここは気合だ根性だ。
ここまできて後には引けない。言うぞ、言うぞ。昨日徹夜で考えた俺の告白を
「ずっと好きでした。付き合って下さい」
あれ? 昨日考えた言葉とは違う言葉が口から勝手でた。
昨日考えた俺の壮大な告白。今までの関係を一歩進めるために考えた言葉。
親友と必死になって考え、恥ずかしいのを堪えてネットに書き込み皆に見てもらって修正に修正を重ねた言葉。
しかし、実際に出た言葉は至ってシンプル。しかしここでふと考える。
単純だっていいじゃないか。これこそが俺が思っている本心だ。それを俺は言えた。
俺サイコー。きっと俺は今一番輝いているぞ。
「ふーん。そういうことなんだ。」
響いたか。響いているんだな俺の心の叫びが。と喜びに口を緩め顔を上げた俺に向かって彼女は
「ぷっ、あっははは」
え?何で笑っていらっしゃるの?
状況が掴めなく、目をパチクリしている俺に向かって
「やっぱ勘違いしてたかー。私もちょっとまずいとは思ってたんだよねー」
えっ?何か想定とは・・
「ぶっちゃけさー私もやりすぎかな?とは思っていたんだよね。昔から一緒にいるからって朝起こしに行ったり、お弁当作ったりてさー。
でもおば様に頼まれていたことだし・・それに私も将来はデザイナーの仕事をしたいのよ。だからおばさまと仲良くしておけば・・てね」
俺のお袋は有名なファッションデザイナーだ。その道に疎い俺でも有名だと言うことは分かる。その証拠にほとん
ど家にはおらず全国、時には海外も飛び回っている忙しさだ。予断だが俺には父親はいない。いつ離婚したのか、
そもそも結婚していたのかさえ知らない。
その様な理由もあって、俺はよく彼女の家に預けられた。彼女の家はアットホームな感じで、本当の息子のよう
に接してくれた。ぐれたりしないでこれたのも彼女とその家族のおかげだろう。だから彼女がそんな打算で俺と接
していたなんて考えたくもなかった。
「でね・・・・・」
その後も彼女が何かを言っていたが、俺の耳には入らなかった。ただ最後に
「これに懲りたら、こんな事はもう止めてよね」と寂しそうに言ったのだけは耳に入った。
最悪だ。最悪なケースを何通りも想定したがそれを足してもおつりがくるくらいの最悪な結果だった。
初めての投稿です。暖かい目で見ていただければ幸いです。