4.影
偉人になりたい。
何だって構わない。
運動でも、創作でも、勉学でも、思想でも、何でも。
天才だって欲しい物があるように、凡庸はこれ以上のない才を望む。
嫉妬をするな、自分と比べろ__昨日の自分より明日一歩でも成長してれば良い__何たる素晴らしい虚構事だろうか。
神だって嫉妬心で過ちを犯したのだ。
人間に出来ず神に出来ることはあっても、神に出来ず人間に出来る事は無い。
それで己を憐れむ必要はない。そんな思考を持ったのは、我々が一歩進んだからである。
昼の太陽の下を歩き、少し歩けば、その背後には影が出来る。もう一歩進めば、そこにはまた影が作られる。
始まりの地点は、嫉妬でも劣等でも怨嗟でもなく、好意と希望と期待と、他の何にも変えられない夢だった筈。
たまたま今は、それが陰になっているだけだ。振り返れば必ず見える。
先の道には何が見えるだろう。
もしかしたら、次の一歩を踏み出す前に雨が降ってしまうかもしれない。
ずぶ濡れになり、耐えられなくなり、その場に縮こまってしまうかもしれない。
あなたはどこから歩いてきたのだろう。
きっとあなたの家からだ。
「いってきます」と言ったなら、目的を果たして「ただいま」と帰らなければならない。
無言でも、帰らなければならない。
風邪を引いて、嫌になって、寝転がり、もう歩けなくなる前に。熱さに堪え、倒れてしまう前に。
一歩だけ。一歩だけ踏み出せば、踏み出せれば、今のあなたは陰になる。
それを繰り返して、いずれ家に帰る。
それに高笑いをする日が来ても、昔のあなたが確かに光だった事を忘れてはいけない。
私も今は光の身なのだ。