おかしな彼女
彼女の元へ。
「おいまだ片付いてないじゃないか! この惨状は? 段ボール箱も開けてない。
狭いんだから早くしてくれよな! 」
つい偉そうに言ってしまう。
引っ越す前までの彼女ならふざけないでと文句を言っただろう。
でもここに越してきてからは変わった。大人しくなってしまった。
やはり同棲を意識して変わったのか?
結婚を前にマリッジブルーにでも?
俺たちはまだ結婚はしてない。でも来月にでも籍を入れようと思う。
そうしないと新婚作戦に参加出来ないからだ。
もちろんそんな不純な動機で彼女を急かす気もないがこれも話し合いの結果。
今更なかったことにも出来ない。
ただ両親への挨拶がまだ出来てない。
両親への挨拶は緊張するし彼女の家は複雑で問題あり。
彼女の父は世界的に有名な会社の社長さん。俺なんか相手にさえされないだろう。
ただその社長さんもどうも育ての親だとかで血がつながってる訳ではないらしい。
もちろん親子関係は良好だと彼女は言うが……
それよりも彼女の変化だ。まるで人が違ったようで見ていられない。
心配だ。心配だ。
結婚して人が変わると言う話も聞くがここまで違うと別人のように感じる。
まさか俺いつの間にか違う人と同居してた? まさか有り得ない。
結婚や同居でここまで変わるならコウノトリが運んで来たらもっと大変なことに。
ただ俺はその手の話題に疎く触れてこなかった。そこがコンプレックスでもある。
今日も無口な彼女。
どこか具合が悪いのだろうか?
ふふふ……
気遣うように笑顔を見せる彼女。
「大人しくして。見てやるから」
言い方がきつかったのだろうか気分を害したようだ。
ここ最近はいつもこうだ。
俺が買って来たドリンクは飲まないし飯を喰ってるところも見ない。
一緒に喰おうともしない。俺が帰ってから食べるんだろうけど。やはりおかしい。
もう少し人間的な感情を取り戻して欲しい。これでは血の気の通わない人形だ。
「大好きだよ」
ふいに言われると照れる。いくらほぼ新婚さんでも不意打ちでは言葉もない。
「そうだ。爺さん家にお隣さんが挨拶に来てたよ。もしかして留守の間に来た?」
首を振る。
やっぱりか。まったく何を考えてるんだろう?
俺たちを無視しやがって。迷惑な親父だと思っていたけど礼儀がなってない。
これではいつの日か確執が生まれかねない。
「あのおっさんは良いとして奥さんと娘さんが挨拶ぐらい? 」
だがやはり首を振る。
くそ! なぜそこまで俺を相手にしない? 非常識なんだから。
はっきり言えば紹介者でも直接関わりがある訳でもないのに爺さんばかり。
そっちがその気ならこっちだって。
ははは…… 気にし過ぎだ。明日にでも挨拶が来るのかもしれない。
その時は遅いと罵ってやろう。
結局翌日も挨拶に来ることはなかった。
挨拶しない主義なら俺も納得できるけど爺さんに持ってきたからな。
ふう暑いな。今日は全国で夏日だそうで長袖をめくるが効果は薄い。
久しぶりに二人で買い物に来ている。
明日から三日間出張で沖縄に行く。
南国気分で休暇を満喫するならどれだけいいか。
ビジネスだから嬉しさも半減。
その際離島を船で巡るのだが俺は自慢じゃないが大の船嫌い。
一番には船酔いが酷いこと。
いくら酔い止めを飲んでも効かない。たぶん体が受け付けないのだろう。
そうすると必ずと言うか絶対ばら撒いてしまう。
大海原にばら撒くのはワイルドだろうが環境には良くない。
その姿を上司にでも見られたら最悪。笑いものにされてしまう。
この話が出た時はどう断わるか考えていたのだが誰も代わってはくれなかった。
皆忙しいのだ。呑気にバカンスはしてられないと上司のお守を任されてしまった。
その上司が本当に曲者で命令はすれど決して動こうとしない。
わざとだろうがこちらとしては自分のことで手一杯なのに……
おっと愚痴になってしまった。
今日は出張の為にグッズを大量に買う予定。
まず浮き輪でしょう。
これは何よりも大切な者もの。
それから予備の海パンと日焼け止め。
沖縄の海は侮れない。
恐らく曇りだろうが念のため。
梅雨前線が近づいていて間もなく梅雨に入るそうだ。
それと共に雨が気になる。
まだ台風の情報は出てないがいつ台風になるか分からない。
雨具も買い足しておくとしよう。
それから非常食も用意。
離島なのである程度自分たちで用意する。
これくらいでいいだろう。
急いで遅い昼を済ませて彼女の買い物に付き合う。
続く