始まりの異臭騒動
内見中。
家はいい。まだ即決は出来ないものの彼女に相談次第決めようと思う。
だからそれ以外の情報を出来るだけ集めておきたい。
「あの…… お隣さんは? 」
最近はご近所トラブルも。警戒するぐらいがちょうどいい。
癖のある人や自分勝手な人に怖い方等挙げればキリがない。
出来たらまともな人であって欲しい。
ご近所トラブルが事件に発展したり毎日嫌な思いするようになっては最悪だ。
だから今のうちのその芽を摘んでおきたい。少なくても覚悟はしておきたい。
もちろんそうなったら別の場所を探すべきだが。
「実は…… 」
「まさか危ない人が? 」
「それはこちらの方からは何とも言えません。
ただ両隣も真向いもまだ入居されていません。ですからまだ何とも」
どうやらこの辺り一帯を会社が管理してるらしい。
このブロックで俺たちが恐らく第一号だろうと。
それならどうしようもないか。後は良い隣人を引き当てるしかない。
コーポレーションAなど聞いたこともないが一応は上場企業らしい。
プライムではなく前の基準で言うところの二部上場らしい。
パンフレットにもきちんとコメ粒ほどの小さい文字で書いてある。
これならどうにか信用できるか。
うわ! 何だ? 何だ?
「あの済みません…… この強烈な臭いは? 」
嗅いだことのない悪臭がする。息が苦しくなる感覚。
鼻を押さえるが時すでに遅し。
危うく逆流するところだった。
訪問時には気づかなかったが急に臭ってくる。これは嫌がらせ?
「申し訳ありません。実は…… 一ブロック先、三軒隣の方が問題ありでして。
ブラックリストにも載るような方なんです。ははは…… 」
とんでもないところを紹介するな。笑いごとじゃないんですけど……
「あの…… もうこれぐらいで」
「ああ、ご心配なさらずに。今月中の立ち退きが決まりましたのでご安心を」
そう俺たちが入居する頃にはきれいさっぱり。これなら問題ない。
不利なことも隠さずに伝えてもらったのでそこだけは評価出来る。
「それで本当に賃貸でいいんでしょうか? 」
これだけが気がかり。
土地は建物に比べれば大したことはない。
建物が賃貸ならどうにかなるはずだ。
「はいそのように承っております」
「それからペットは? 」
俺はどっちでもいいが動物好きな彼女がワンちゃんを飼いたいと言っていた。
しかも部屋飼いだから一応は貸主に許可がいる。
ペット禁止ではないので念のための確認。
「ははは…… ご自由にどうぞ。オーナー様から許可は得ております」
貸主と一度も顔を合わせることなく業者と契約を交わすだけでいいから楽だ。
オーナーって誰だろう? 名前のみなので…… 一度は挨拶に伺うか。
「お気に召したようでしたらいつでも。今でもよろしいですよ」
賃貸契約を迫る男。
「ありがとうございます。もう少し考えてみます」
やはり彼女の意見も。さすがに俺一人では決められない。
いくら賃貸とは言え長く住むのだから慎重にもなる。
夜。
「いいんじゃない。悪いところは特にないみたいだし」
彼女も気に入ってくれたようだ。
「本当か? だったらすぐに連絡しよう」
翌日に賃貸借契約締結。
こうして彼女との新生活を開始する。
駅から徒歩十分と少し遠いが近くに大きな公園もあるので環境は良さそうだ。
ただこの辺りはお店が建てられないので買い物は駅前まで行く必要が。
コンビニも薬局もスーパーも駅前に集中。
不便を感じなくもない。
彼女は静かでいいと言ってくれた。
俺が住んでいた隣の市なので引っ越しも楽。
職場からも若干近くなったのはプラス。
さあ改めて新生活のスタートだ。
では手始めにお引越しの挨拶と行きましょうか。
両隣も向かいも生憎誰もいない。それもそうか。まだ決まってないと言ってたな。
順次埋まっていくらしいが大丈夫かな?
ガヤガヤするのは好まないがさすがに寂し過ぎては張り合いがない。
出来るなら近所付き合いなどしたくない。それが本音。
でも引っ越したばかりで心が躍ってる今ならうるさくない限り歓迎だ。
「引っ越しの挨拶に参りました」
後ろ隣には人がいるようなので確認の意味を込めて。
続く