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左横田さん

左横田さんは親子二人暮らし。

先月引っ越して来たばかりだそう。

娘に比べればまだ常識的に見える落ち着いた感じの上品なご婦人。

どうやら世代によって警察への印象が違うのだろう。

娘は攻撃的で母は協力的。


「ごめんなさいねお巡りさん。それでどのようなご用件でしょうか? 」

物分かりのいいご年配のお母様が話に加わる。

それを険しい表情で見守る娘。

「ちなみに娘さんはご結婚は? 」

差し出がましいように感じるだろうがこれも捜査の一環。

調べようと思えば簡単に調べられるが直接聞くことに意味がある。

「いえまだなんですよ。ちょっといろいろありまして」

明らかに表情が曇る。まずいことを聞いてしまったか?

暗く沈むお母様の姿をこれ以上は見たくない。

それに娘にこれ以上睨まれたくない。


「一応形式的に聞いたまでです。お気になさらずに。

それでお隣の女性を見かけたことはありますか? 」

「ああそれだったら毎日のように。今朝だって挨拶しましたよ」

「いえそちらではなく反対の方です」

明らかに違う人物だ。それは彼女のことではない。

「はあ? お巡りさんは私どもをからかってるのですか? 」

真剣にそう問われるとそうだと言いたくなるから不思議。

「もちろんそのようなことはありません。なぜそうお感じに? 」

おかしなことを言っただろうか?

右隣ではなく左隣ですよ左横田さん。 

「ほほほ…… おかしいですよ。ねえ」

娘に同意を求める。娘もうんうんと大きく頷く。

出来るなら今すぐにでもおかしな点を言ってもらいたいのだが。

しかし二人とも頷くばかりで答えようとはしない。


「お隣の女性が失踪したんです。今懸命に捜査に当たってるのですが…… 」

まだ非公式で正式な失踪事件としての捜査は後。本腰を入れることはないだろう。

それは私がいくら上に訴えかけたところで相手にされない。

もちろん一失踪者にそこまでするのはおかしく感情的になってるのは自覚してる。

しかし男の気持ちを考えるとどうしても放ってはおけない。

彼とは年も近く力になってあげたいと強く思う。

この謎多き失踪事件を私の手でなるべく早く解決するんだ。

たとえ彼が何らかの形で事件に関わっていたとしても。


「それは本当ですか? 」

再び娘が突っかかる。

「本当も何も失踪届も出されてるんですから。疑いようのない事実です」

なぜそこまで疑う? お隣の女性が失踪したからってここまで疑えるものなのか?

どうも態度が引っかかる。どうも信用できない。

「お疲れになってるんですよきっと。それとも何かあるのかしら? 」

まともなはずのお母様まで態度を急変させる。

「お巡りさんはおそらく失踪事件をでっち上げて点数稼ぎをするつもりなのよ」

親子で疑い始める。何かおかしなことを言っただろうか?

二人は交通違反のように無理矢理作り上げたと主張する。

だがあれだって普段は見逃してるところを厳しく取り締まってるだけ。

初めからルールを守って運転してる者まで対象になる訳ではない。

きちんとルールさえ守ってれば仮にある一定の期間だとしても問題ないだろう?

それに我々とは無関係な交通課。一緒にされても困る。


「我々警察は信頼第一です。何かお疑いのようでしたらぜひお聞かせ願います。

私の言動があなた方の不審を招いたならそれは大きな誤解と言うもの」

もうこれ以上含みをもって焦らされて堪るか。

私は男の訴えを元に捜査に当たってるだけ。なぜそれを理解してくれないのか? 

連日の不祥事によって警察への風当たりは強いものになっている。

でもそれはあくまで個人であって警察組織ではない。

仮にあってもやはり我々とは関わりがない。

「分かりました。そこまで言うのでしたらお巡りさんも来てください」

二人と外へ。


どう言うことだ?

お爺さんの家を訪問した時からあった違和感。

左横田さんの隣はそれは確かに存在する。

だがそれは右隣だ。左隣には家などない。

男もいなければ彼女だっていないはず。

家がなければ住みようもないし失踪しようもない。

男は一体何を考えてこんなことを?

謎の失踪事件はもはや意味不明。


                 続く

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