全員集合
いつもの銭湯で常連の前田さんと新外国人のブブンカの遭遇。
新外国人は当たり外れがあるからな。
まずは環境に慣れてもらい家族と連絡を取り合って孤独にさせない。
いきなり大舞台に立たせずに文化に触れ教育から始めさせるのが成功の秘訣。
ブブンカ。片言の日本語で積極的に話かけるフレンドリーなハーフ。
彼も最近この近くに引っ越して来たばかりの新参者。
俺も同じような立場だから仲良くできたらいいなと思う。
彼女にも紹介してやればブブンカの明るさで笑顔を取り戻すかもしれない。
前田さんは俺の近所。その前田さんの近所だとすれば俺の隣人にもなる。
今後長く付き合うことになるのかな。
「ちなみにどこに引っ越して来たんですか? 」
「おう興味津々だな。俺の向いの隣」
興味津々と言うのもあるがこれ以上余計なのが増えないで欲しいとの想いもある。
待てよ? 向いの隣と言うことは俺の横。
そうかあそこに引っ越して来たのか。
まったく前田さんも冗談がきついよ。
俺の隣だってのにまたふざけて難しくする。
俺をからかってるつもりか?
「あの…… 」
「ああ…… 家内と二人で行ったよ。娘を誘ったんだがな。
忙しいってよ。普通断るか? あのちゃんのライブ」
家族の愚痴を言い始めた。
これはまたしても長話の予感。
「あの…… 」
「そんな顔するなよ。次の機会にはお前も連れて行ってやるからよ。
同志として語り合おうじゃないか! ははは…… 」
男は何を勘違いしたのか俺をアイドル好き扱いする。
あのは口癖みたいなもの。すぐには直せない。
だからと言ってあのちゃんのファンのはずがないだろ。
「それでブブンカは家族と? 」
これ以上あのちゃんの話をされては敵わない。
別にあのちゃんが悪いんじゃない。
恐らく可愛いであろう女の子は大好きだ。でも彼女がいる。
それにもうネタも尽きた。こっちの話だけど限界。
ボクはもう無理。
「それが少し変なんだ。親子や兄弟でなく仲間で住んでるらしいんだ。
しかも五人も六人も。いや、もっとかな。節約はいいがこれって良いのかね? 」
別に誰と住もうと何人であろうと大家さんが納得すればそれでいい。
要するにあの爺さんに話を通せばいいはず。
この辺りの土地を所有する大地主のはず。
俺にはしがない老人の年金暮らしと嘆いていたがそれは同情を誘う為のお芝居。
まだどちらが正しいかははっきりしないが。
恐らくあの爺さんたっぷりと金をため込んでるのだろう。
ブブンカの件について前田さんは神経質になり過ぎだ。
近所迷惑にさえならなければそれでいい。
俺たちを巻き込んでの大トラブルだけは勘弁。
「皆さん多少日本語は通じるんですか? 」
これはすごく大事なこと。
我が部署でも適当にボディーランゲージを交えて話をしている。
果たして通じているかは怪しいが。
難しいのになると外国語が飛ぶようになる。
「オーイエス」
「いや…… ブブンカ以外はちょっと…… 彼だって片言だし。
たぶんブブンカが一番マシ。ただ会話してないだけで話してみればもしかしたら」
希望的観測を述べる男。
それは甘いと言うものだ。
こうしてようやくお隣さんが揃った。
後ろ隣のお爺さん。
俺をここに誘った恩人。
安さに目がくらんだのもある。
面倒見は良い方だが最近は俺の扱いが雑になってきてる。
まあ爺さんだから仕方ないか。
続いては右隣の左横田さん。
二人暮らしだそうだが家族を見かけることはない。
そもそも俺も新居に寄りついて無い訳で。誰がどうしたかは分からない。
彼女はその手の話をしてくれない。
左横田さんはどう言う訳か俺を毛嫌いしてる。
ストーカー扱い。
今度見かけたら警察を呼ぶそうだ。
やはり出会いが最悪だったのが尾を引いてる。
それから真向いの前田さん。
ほとんど家では見かけることなく近所の銭湯で一緒になることが圧倒的。
娘と奥さんの三人暮らし。
そう言えば奥さんも娘もまだ見てないな。娘はあのおっさんに似てるのかな。
まあ来月には風呂も使えるようになるだろうから嫌でも顔を合わせることになる。
それにしても前田さんのあのちゃん好きはどうにかならないか?
いくら熱狂的ファンでも俺を巻き込むなよな。迷惑なんですけど。
情報屋としては重宝してるが。
最後はブブンカ。
陽気な外国人。
ちょっと距離感が狂ってるがフレンドリーなのは好感が持てる。
前田さんもお気に入り。
その前田さんも気にしてるブブンカと同居する怪しい大量の住人。
まあ日本の感覚とは必ずしも合わないもの。
爺さんが良いと言うなら気にすることないさ。
こうして新しい月を迎える。
ついに恐れていた最悪の事態が訪れることに。
続く




