最悪のお隣さん
沖縄出張を終え再び平和な日々に戻るかと思ったが……
週末の昼前。ゆったりとした時間が流れている。
「ああそこにいたのか」
まるで虫を見るような蔑んだ目で。
「いますよ。今日は週末で一緒にいられるんだから」
裏の爺さんのところに二人でお邪魔している。
どうもこの爺さんは俺を誤解してるんだよな。
引っ越し早々に関係が悪化。でも爺さんがなぜ俺を邪険に扱うのか理解できない。
今だって迷惑だと言わんばかり。おふざけのつもり?
だとしたらただの迷惑爺でしかない。
タバコ。タバコっと。どこにも灰皿がない。
せっかく遊びに来たのに用意しとけよな。
「あの灰皿はどこでしょうか? 」
俺はヘビースモーカーってほどではないが空気が悪くなったら落ち着く為に一本。
「おい家で吸うんじゃない! 」
うわ…… 余計に空気が悪くなってしまった。
タバコはこう言うリスクがあるから気をつけないといけないんだよな。
「家では吸わないんですか? 」
「ああそうだ。家が汚れるだろうが! 」
まるで睨んでるような険しい表情を見せる。
自分だって吸うのにどっちなんだろう? 訳が分からない。
これはそろそろ退散した方がいいかな。
「おっと忘れるところだった。お隣に挨拶に行きたがってたろ?
昨日新しい人が入居した。どうだい行って見たら? 」
何だ覚えててくれたんだ。何だかんだ言って俺を気にかけてくれている。
でも実際は少し違う。ただ俺は引っ越しの挨拶がしたいだけ。
その上新入りが来たのならこちらに出向くのが礼儀だろう。
あんたみたいな爺さんがその礼儀と作法を解くんじゃないのか?
「そうですね。行って見ます」
お爺さんからの情報を得て彼女とお隣に伺う。
俺の家から見て右隣に引っ越して来た。
表札には左横田となっている。
お爺さんの話では女性だとか。一人暮しではなく家族がいるそう。
チャイムを鳴らす。
お隣はどんな人かな。女性だと言っていたが素敵な女性だといいな。
でももしそうなると彼女が嫉妬するかもしれない。考え過ぎだなきっと。
どうであれ期待が膨らむ。
だがこれ以上嬉しそうにすれば本当に彼女が嫉妬するから気をつけなくては。
可愛いものだと甘く考えれば取り返しのつかない事態に。亀裂が出来る。
事実最近の彼女は機嫌が良くない。放っておかれるのが我慢出来ないのだろうが。
「はいどちら様ですか」
お隣さんが姿を見せる。
「お隣の者…… 」
どこかで見たことのある女性。しかもごく最近だ。
嫌な記憶が蘇る。
嘘だろ? 彼女はあの時の迷惑女。
沖縄出張で散々な目に遭ったばかり。
「あんたストーカー? 何で私の家を知ってるのよ? 」
俺を疑ってるようだがそれは大きな間違い。
家を知ってるとかでなくただのお隣さん。
これから長く付き合っていかなければならない大事な大事なお隣さん。
ほぼ新婚の俺たちにとって立ちはだかる壁。
隣人トラブル発生か?
「ストーカーではない。それよりもあの時の俺は悪くない。
そっちが勝手に誤解したり勘違いしたりしただけだろうが。
本当に失礼だなあんたは」
つい心で止めようとしていたのになぜか音として出て行ってしまう。
本気じゃない。悪口を言うつもりなどなかった。
ただ仲良くしたかっただけなのに。
「いいから帰って! 二度と私の前に姿を見せないで! 」
別に俺は好意を持ってない。ましてやストーカーでもない。
ただのお隣さん。だからこの女が嫌がっても毎日のように姿を見せることに。
それがストーカーに見えたとしても真実は違う。
このままではいつご近所トラブルに発展するか分からない。
やはり放置は出来ない。
「無茶を言うなよ。俺だって会いたくない」
「いいから分かったわね? 」
それは無理な注文。俺はお隣なんだぜ。
俺だってあんたの顔なんか見たくない。ついでに上司の顔だって。
でもあんたも上司も毎日顔をあわせなければならない厄介な存在。
辛いこの俺の立場も少しは分かってくれよな。
「ちょっと…… 」
「分かったわね? ふん! 」
決して取り合わず一方的。
別に引っ越しの品を本気で求めていたのではない。
ただ出来れば少しでも仲良くなっておきたかった。
だが訪問したにも関わらず門前払いを喰らう。
悪化しただけ。ああどうしよう?
もう一度何とか。今のうちに良好な関係を築かなければ彼女にも害が及ぶ。
まったく何て女だ。
続く




