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第51話 毅然とした態度のソフィ

「ビレル侯爵閣下の視力はいくつですか? とても目が良いのですね? なぜ、私のフェンシング用剣が、鋭利なものに変わっていたとわかるのですか? 観客席からは遠すぎて、剣刃の部分は確認できないはずですわ。ビレル侯爵閣下は千里眼の持ち主なのですか?」




 私は庇ってくださろうとしたライオネル殿下にお礼を申し上げてから、背筋を伸ばし真っ直ぐにビレル侯爵の目を見つめた。




「マリエッタ嬢の腕から血が流れているのが見えました。競技用フェンシングの剣は安全面を考えているため、あそこまでの傷になることは考えられないです。エレガントローズ学院に入学したての頃、ソフィ嬢はマリエッタ嬢から言いがかりをつけられたそうではありませんか? お二人のあいだでは、今でも確執があるのでしょう?」




「ばかばかしい。ソフィ様と私は大親友ですわ」




「マリエッタ様のおっしゃる通りです。確執ですって? 入学当初のことなどなんとも思っておりません」




「綺麗ごとは結構ですよ。女同士に友情なんてあり得ない。一度仲がこじれたら、なかなか修復することは難しいでしょう。なにしろ、女性というのはなんでも張り合いたがりますからなぁ。とにかく、ソフィ様はマリエッタ嬢に怪我を負わせた、このことが重要なのです。無実が証明できなければ、公平な裁判を受けるべきです」




 どうあっても、ビレル侯爵は私を犯罪者にしたいようだ。




「わかりました。どうぞ、裁判でもなんでもかけたら良いでしょう。地下牢でも拘禁所でも、喜んで入りますわ。ですが、ビレル侯爵閣下も疑わしき犯人のお一人ですので、地下牢に入るべきですわね」




 私は毅然としてビレル侯爵にそう言った。ビレル侯爵の席からはマリエッタ様の怪我の状態や、フェンシング用剣の刃の鋭さを見極めるのは絶対に不可能だった。それにもかかわらず、ビレル侯爵は剣がすり替えられたと断定した。そして、その際にあまりにも滑らかに口を動かすビレル侯爵を見て、まるで脚本を暗唱する役者のようだと思った。


 


「どういう意味でしょうかな?」




 ギロリと睨まれたが、私はここでひるむつもりはない。ボナデアお母様には、どんなときも自信を持って毅然とした態度でいなさい、と教えられている。貴族社会において、己に降りかかる難題を巧みにかわすことのできない者は、他の貴族たちからさげすまれ、侮られることにもなる、と。




「ビレル侯爵閣下の愛娘フローラ様は、とても可愛らしい方ですわね? そう言えば、フローラ様はライオネル殿下の婚約者になる可能性があったと聞いたことがあります。私がこの国に来なければ、きっとそうなっていたかもしれませんね?」




 暗に、ビレル侯爵がこの事件を仕組んだ犯人であることを指摘した。私が失脚して得をするのは誰なのか、それを考えればおのずと犯人は突き止められる。




 ビレル侯爵は途端に青ざめ、手をブルブルと震わせた。わかりやすい反応に呆れてしまう。大事な友人が怪我をした今回の事件は、ニッキーのお陰で治癒できたれど、私にとっては絶対に許せないことだった。同時に、ライオネル殿下の横に立つということは、純真で善良なだけの女性でいてはいけない、ということを実感したのよ。




 だから、私は舞台女優の如く演技をするわ。




「このフェンシング用剣は、いつも私の部屋に保管してありました。ところで、私の部屋に大きな鏡がかかっていますが、あれはニッキーが作成した『過去を映し出す鏡』なのですよ。ふふっ、残念でしたね?」




 私は艶やかに微笑んでみせた。それは大嘘で、私の特別室にある大鏡はごく普通のものだった。フェンシング用剣が入れ替えられる場面など記録されているわけがない。




 けれど、それを信じたビレル侯爵は、私の部屋に急いで駆けつけ、大きな鏡を床に叩きつけて割ってしまった。私は、今回だけは自分の部屋の鍵をかけ忘れて良かった、と思ったのだった。ビレル侯爵は自白したようなものだ。




 ビレル侯爵が私の部屋の場所を把握していたこと、そしてその大鏡を直ちに見つけて割ってしまったことは、以前に私の部屋に侵入し、部屋の様子を熟知していたからに他ならない。


 


 けれど、ビレル侯爵本人がエレガントローズ学院に忍び込むとも思えないので、彼の息のかかった者がこの学園に潜り混んでいることも考えられたのだった。






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※拘禁所:現代日本でいう留置所のこと。

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― 新着の感想 ―
[一言] ビレル侯爵の名前の由来、某宇宙世紀の将軍かと思ってしまうガ◯ダムオタク。
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