表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/64

第29話 契約書を破るヴィッキー

 お父様の言葉に、ボナデア伯母様は呆れた表情を見せた。初めて聞く過去の出来事に、私は驚いたが、お父様に注意を促した。




「そのような過去の話を持ち出して恥ずかしくないのですか? ボナデア伯母様に謝罪してください」




「エレガントローズ学院に通っているからって、私に偉そうに説教をするな! ソフィはまだ学生であり、大人の会話に口を挟むべきではない。法律の条文まで持ち出して、すっかり頭でっかちで傲慢な娘になったわけか。娘は黙って父親の言うとおりにすべきなんだ」




「そうだぞ。エレガントローズ学院なんかに通って、ビニ公爵夫人に可愛がられているからって、偉そうにするな。だいたい、育ててもらった恩も忘れて、母上に金を請求するなんて卑しい。レディとして恥ずべき行動だと思わないのか? ココのように、女性は可愛らしく従順で甘え上手が一番なのだ!」




 お兄様が私を責めると同時に、ボナデア伯母様がすかさずお兄様に話しかけた。




「スカイラー。ここにいらっしゃるのはメドフォード王国の国王陛下と王妃殿下、それに王太子殿下と第2王子殿下です。まずは王族の方々にご挨拶するのが礼儀でしょう? 両親に似て残念な子に育ったこと」




「これがシップトン王国のラバジェ伯爵家の長男なのですか? なんて教養のない。女性は可愛らしくて従順で甘え上手が良いですって? 華遊館で働く女性達が好きなようですね? 全く嘆かわしい。頻繁に通っているのかもしれませんわね」




 カサンドラ王妃殿下が不快そうに顔をしかめ、ミラ王女殿下は冷淡な嫌悪の視線をお兄様に向けた。




「信じられない。酷い偏見だわ。同じ空気も吸いたくないくらいですわ。お父様、ジップトン王国の者達は皆このような考え方なのかしら? しかもソフィお姉様より、あちらの女性の方を褒めるなんて視力が悪いのでしょうか?」




 華遊館は露出度の高いドレスを着た女性たちがいる、お酒を楽しんだり会話を楽しむ場所だ。お兄様がそんな場所に通っているとは意外だった。




「まさか、私は行ってないです! 酒の塔なんて見たことはないし、泡と踊りの祭りも知らないです」




 


「思いっきり通っているじゃないか! 私も大臣達に誘われて一度行ったことがあるが、とても退屈な場所だった。あの浮ついた雰囲気、酒池肉林の宴、そして女性たちのうわべだけのほめ言葉...。あのような場所には何の価値も感じられない」




 カーマイン王太子殿下は嫌悪感をにじませた。




「兄上のおっしゃる通りですね。私も一度、騎士達と行ったことがあります。尊敬や愛想笑い、お世辞の言葉が飛び交っても、それは本物ではないですからね。人々は自分たちを酔わせ、現実から逃れるためにあのような場所に行く。しかし、真の成長や価値観の向上は、見いだせないのです」




 ライオネル殿下が華遊館を分析しだすと、お兄様は驚きの声を上げた。




「へ? 成長や価値観の向上を見いだす? あそこは息抜きに行くところですよ。誰もそんな哲学的なことなんて考えて通っていません。ただ、可愛い子がいるから、逢いに行くだけです!」




 とても爽やかな笑顔で持論を展開したけれど、自らの愚かさを露呈してしまっているとなぜ気がつかないの?




 これが、私のお兄様なんて、とても恥ずかしい。




「お兄様。あなたとも縁を切りたいので、ここにお父様達と一緒にサインをご記入ください。こちらのA側の部分にお父様達の名前を。Bには私の名前を署名します」





 家族間の絆を断つ契約書




当事者(以下、「契約者」と称する)




A側:




B側:




背景




かつて、A側とB側は家族として、共に歩んできたが、今後の道を別々に歩む決断を下す時が来た。




この契約書は、A側とB側の縁を切り、二度とかかわらないことを確認し、その条件を明示するものである。




契約条件




A側は、本契約書に調印した時点から、B側との一切の接触を避け、直接または間接的なコミュニケーションを行わないことを約束する。




本契約の条件に違反する場合、A側は法的な制裁を受け、100年間の牢獄刑に服することとする。




契約の証明




この契約書は、星々の証拠として、A側とB側の絆が終わりを告げるものとなり、永遠の別れを象徴する。




署名と証印




A側:       日付:




B側:       日付:







「こんなくだらない書類など作って! だから、女の子には学問は不要なのですわ。こんなものこうしてやるわ!」




 お母様はサロンのテーブルに置いた書類をビリビリと破いてしまった。





 どうしたら良いの?


 せっかく作成した正式な法律の効力が及ぶ文書なのに・・・・・・




 その瞬間、ライオネル殿下が指で破れた紙に軽く触れた。すると、破れた紙が瞬時に再生され、破れた部分が元通りに修復された。紙に書かれた文字もそのままだった。




「ライオネル殿下は魔法が使えるのですか?」




 メドフォード国はその昔、魔法王国だったと聞いたことがある。今では廃れてしまっているけれど、王族だけは使えるのかしら?




「これは錬金術師ニッキーが発明した魔道具です。ペイパーリバイバーリングと呼ばれ、私が指にはめているこの指輪がそれです。指輪をした手で破れた紙に触れるだけで、リング内部に内蔵された魔法が作動し、破れた紙を修復する仕組みです」




 指輪の表面には細かい紋様や彫刻が施され、中心部には小さな宝石が嵌められていた。今度はお兄様が破こうとしたけれど、それは破けなかった。




「ペイパーリバイバリングーには特別な魔法のインクが内蔵されており、修復された紙には鮮やかな色彩と耐久性が付加される。だから、その紙はもう二度と破くことも燃やすこともできない。さぁ、おとなしくサインをしたまえ」




 ライオネル殿下は厳しい顔つきでお父様、お母様、お兄様にサインを強く要求したのだった。





୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧




※華遊館:キャバクラやクラブのような場所。




※酒の塔:シャンパンタワー。




※泡と踊りの祭り: 華遊館内で、泡立つシャンパンと美しい舞踏が楽しまれる祭り。

数多くの小説の中から拙作をお読みいただきありがとうございます。


※誤字報告をいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] きちんと条文の接触やコミュニケーションを定義しておかないと主人公側がうっかり接触して懲役百年なんていちゃもんつけられかねないような。怖くありません?
[気になる点] 内容的に100年の刑罰は重いかも…… というのもこれ、相手にざまぁ前提だから 今は気にならないかもですけど 客観的に見ると 主人公サイドもこの約束を破ってしまいかねないリスクがあるの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ