表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

早くおうちに帰りたい

拝啓 お父様、お母様


お元気でしょうか。凹むこともあるけれど、美智香は元気です。

上京して数年ばかり経ち、一人暮らしにも慣れた今、某大学病院で中堅看護師として日々懸命に働いております。

今日も定時ぎりぎりの緊急入院とオペ出しでしっかり残業してきました。そもそもの通常業務自体が定時の時点で終わらないんだから、まあ残業は確定してたよねなんて無粋なツッコミはおやめください。

閑話休題。真面目にお仕事をこなして、後輩看護師の相談にも乗りました。そうだよね、辛いよね、辞めたくなるよね、わかるよ。なんてめちゃめちゃ共感してきた次第です。

ちらりと窓から見える家路はすっかり真っ暗です。なんなら時計の短針が真上向いてるくらいです。

こんなに一生懸命働いてるんだからボーナス弾んでくれたり特別手当出してくれてもいいんじゃないの?とは思います。とはいえこれは誰だって思うことですよね。よくあることです。

時々そちらが恋しくなることもありますが、真面目に(そりゃあちょっとは不真面目なこともあるけれど、それなりに真面目に)美智香は頑張っています。

それでは、体調には気をつけて、病院にお世話になることのないようお過ごしくださいね。


敬具



今までの人生でこんな丁寧な手紙を書いたことがあるだろうか。否、ない。正直ない。こんなかしこまった人生歩んでいないし、親とはせいぜい電話やメッセージでのやりとりくらいなものだ。

現実逃避が頭の中を駆け巡るが、それに対するツッコミを入れてくれるひとは誰一人としていない現実。つらい。辛口な先輩のツッコミがいっそ恋しい。正直勤務が被ったら辛いと思う日もあるけど今だけは恋しい。先輩にこんな思いを抱くなんて思わなかった。もしかしてこれが恋か、んなわけあるかい。脳内の美智香がノリツッコミをするのを薄く笑う。

他にやるべきことはたくさんあるだろう。それくらいわかっている。けれど、それでもほんの少しの現実逃避くらい許してほしいと美智香は思う。


「こんなこと、ある?」


眼下に広がる豊かな自然を前に、ポツリとこぼれ落ちた呟きを拾うモノはいない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ