ずっと一緒です!
「うむ……! 今日の準備はこれくらいでいいだろう!」
燦々と照りつける真夏の太陽の下。
私は目の前の地面に巨大な木の杭を射し込むと、日差しから身を守る大きな帽子を被り直して辺りを見回した。
どこまでも広がる一面の青。
それは雲一つない青空と、遙か彼方まで続く青い海だ。
「わーいわーい! ママー! もうすぐドラゴンさんが来るよー!」
「ママー! パパがママのこと探してたー!」
「そうかそうか! 教えてくれてありがとう。二人とも良い子だな!」
「えへへ!」
そしてそんな私の周りをぐるぐると駆け回る二人の元気な子供。
二人は私とユレルミの間に生まれた双子で、男の子の方がアレクシ。女の子の方がアイカだ。そして――。
「オギャー! ママー! 俺様もユレルミたんと一緒に寝たいバブー!」
「吹っ飛ばされたいのかジロー!? 私は一度たりとも貴様のママになった覚えはない! そしてユレルミや私達とも毎日一緒に寝ているだろう!?」
「チッ! 引っかからなかったか……! ちげえんだよ! 俺が言ってるのはもっとこう……ユレルミたんとの濃厚でデンジャラスなランデブーでハネムーン……!」
「却下だッッ! ほれほれ、もうすぐ客人達がくる! お前もキリキリ準備を手伝え!」
「わーったよ!」
「あはは! ジロー、またママに怒られてるー!」
「可哀想だから、アイカがよしよししてあげるねー!」
愛する二人の子供と、もはや数年来の付き合いとなった変態のジローを引き連れ、私は島の奥へと向かった。
スプリングとウィンターが連合国になってから数年。
二年前までは私達家族もハッピー様やミセリアの元で働いていたのだが、今ではその必要もないので、当初の予定通り暖かな南の島に家族で移り住んでいた。
なぜ私達がハッピー様の傍にいる必要がなくなったかというと……。
「あ、エステルー! お待たせー! お客さん沢山連れてきたよー!」
「わーい! ママー! 今日もお客さんいっぱいだよー!」
「ママー! ただいまー!」
「おお! バラエーナ! イータとイライアもお帰りだな! 今日のお客さんは何人くらいだ?」
「えーっとねー? たしか七十人くらいだったと思うよ! みんな〝シーズン連合国〟から来た人達で、すっぽんぽん島ですっぽんぽんになりたいって人ばっかり!」
「そうかそうか! ならばいつも通り東の館に通してくれ! そこに人数分の葉っぱを用意してある!」
「はーい! じゃあまた後でねー!」
砂浜を歩く私達の頭上を、巨大な白いドラゴン……バラエーナの影が横切る。
バラエーナはその手に大きな家のような箱を持っており、そこについた小窓からは沢山の人々が青い海と空の美しさに目を輝かせていた。
さらにバラエーナの背には二人の子供……二人も私とユレルミの子供なのだが、可愛らしく手を振るイータとイライアの姿もあった。
実はあれから暫くしてハッピー様とミセリアはめでたく結婚した。
なんか一緒に過ごしてみたらもの凄く気が合ったらしく、二人がラブラブになるまで半年もかからなかった。
そして二人の結婚を機に、それまでスプリングとウィンターだけだった連合国にオータムとサマーも参加。
新たに〝シーズン連合国〟となって、かつてとは比べものにならないほど強固な体制が構築されたのだ。
今やハッピー様もミセリアも、どちらも命を狙われることもない。
国内に残っていた反体制派も全員私がボコボコにしたし、オータムものんびりした日和見男のオヴァンが王様になったので、他の三国への発達した技術の輸出で大もうけしている。
結果として、大陸中がかつてないほどの平和と豊かさを享受できるようになったのだ。
「あ! エステルさん! こっちです!」
「あー! やっとママが来たー!」
「アイカー! アレクシー! ママも早く来てー!」
「とっても太い木の根っこが抜けないのー!」
「はっはっは! 待たせたなユレルミ! ユーニとユメリア、ユリエスもパパをお手伝いして偉いぞ!」
「わーい! ママだい好きー!」
そうして歩いて行くと、そこには島に生い茂る森の端で、巨大な根っこを抜こうと奮闘するすっぽんぽんの旦那様……私の愛する大好きで最高なユレルミと、三人の我が子の姿が見えてきた。
もちろん、この三人も私達夫婦の間に生まれた子供達だ。
他にも、私達の小屋にはこの前生まれたばかりの赤ちゃんが二人いるし、その二人の赤ん坊の面倒を見てくれているのは、大きくなった一番最初の姉弟達だ。
ちなみに、現時点で私達夫婦は十三人家族。
昨日も夜が明けるまでいっっっっぱいユレルミとチュッチュチュッチュしたから、きっとまたすぐに家族が増えることだろう!
「助かりましたエステルさんっ。僕の力だけじゃ、どうしてもこれだけはどかせなくて……って、んむっ――――!?」
「むっちゅ――――! ん、んん――――っ! ぷはぁ! ふふ……このくらいお安いご用だ! ユレルミからは、いつでもこうして働いた分の愛情を貰っているしな!」
「えへへ……。僕も、エステルさんからいっぱい貰ってますっ!」
「あー! ママとパパまたチュッチュしてるー!」
「本当に仲良しだねー!」
「キエエエエエエエエ!? お、俺もユレルミたんとチュッチュしたあああああい! パパー! バブー! ボクにもチュッチュしてえええええ!」
「あ……そういえば、ジローさんのためにココナッツジュースを用意してたんです! どうぞ!」
「んまぁあああああい! ユレルミたんのお手製ココナッツジュースうまああい!」
木の根を軽々と片手で引っこ抜くと、私はそのまますぐ隣にいたユレルミの唇にむっちゅうううううっと吸い付いた。
朝から〝三十分も〟離ればなれになっていたので、丁度ユレルミ成分が切れかけていたところだったのだ!
「じゃあ、ここの作業はこれくらいにしてバラエーナさんのところにいきましょうか! 皆さんの分の葉っぱはあるんでしたっけ?」
「それならば大丈夫だ! 昨日のうちに私と子供達で用意しておいた! 最近はこの〝すっぽんぽん島〟で私達とすっぽんぽん生活をしたいという者も増えたからな。大忙しだ!」
「本当に賑やかになりましたよね……。この前ミセリアさんに聞いたんですけど、スプリングやオータムでは、人気の観光スポットにこのすっぽんぽん島が選ばれたりしてるらしいですよっ!」
「俺はユレルミたんやチビ共さえいりゃあそれでいいんだけどな……。全く調子がいいぜ。国が豊かになったら、逆にすっぽんぽんなのが新鮮だって大人気になっちまうなんてよぅ!」
「はっはっは! いいじゃないかジロー。それに貴様は、私がすっぽんぽんになる前から半裸の変態だったのだ。すっぽんぽんの先輩として、これからもよろしく頼むぞ!」
「ですね! ジローさん、いつも助けてくれてありがとうございますっ!」
「ま、まぁな! すっぽんぽんのことならこの俺様に任せとけってんだッ!」
そう。
実は今の私達はこの南の島で暮らしながら、観光案内の仕事をしているのだ。
国が豊かで平和なればなるほど、社会ではまた別の悩みや気苦労が増えていく。
前にやってきた観光客の話では、ストレスで心を痛める者もいるんだという。
そしてそんな人々にとって、この島でのすっぽんぽん生活は社会と切り離された、癒やしの時間なのだという。
最近ではそのままこの近くの島に住み着く者もいるが、私達はハッピー様やミセリアと定期的に連絡を取り合って、うまくこの地域の治安や管理に努めたりもしている。
はっきり言って、この島に家族でやってきたときにはこんなにも忙しい日々になるとは思ってもみなかったが……今ではユレルミも子供達も、ジローもバラエーナもとても楽しく日々を送っている。
そして、もちろん私も。
「エステルさん……これからもずっと一緒にいましょうねっ」
「ああ! これからも、私とユレルミはずっと一緒だっ!」
出会ったときよりも逞しく、力強くなったユレルミの手が、彼の微笑みと共に私に向かって差し伸べられる。
かつては服やパンツが脱げてしまうことを気にして握れなかったその手を、今の私はなんの迷いもなく握り返すことが出来る。
だって、もうそれで失うような物を私は身につけていないから。
とりあえず葉っぱが外れてしまわないようにすればそれでいい。
その葉っぱだって、ユレルミと二人っきりなら必要ないのだ。
私達は笑みを浮かべて肩を寄せ合い、それぞれ反対側の手には小さな我が子の手を引いて歩いて行く。
この島ではみんなすっぽんぽん。
丸出しのお尻をぷりんと揺らし、大事な場所は葉っぱで隠して、何を恥じることもなくこの大地で生きていく。
貧乏神も、福の神も疫病神も。
貧しくても豊かでも、幸福でも不幸でも。
たとえすっぽんぽんだとしても……私達は幸せになるために歩いて行ける。
そしてそれこそが、私とユレルミが辿り着いた幸せの形なのだから――。
異世界貧乏神 完




