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幸せでいいんです!


「えっと……どうかな? 似合ってるか?」


「はい! とっても良く似合ってますよ、ミセリアさん!」


「ユレルミの言う通りだ! かつてのようなグルグル巻きの服などよりも、今の方がずっと立派だぞ。おめでとうミセリア!」


「そ、そうか!? ありがとうな、ユレルミ! みんな!」


 大層立派な服に身を包んだミセリアを前に、私達は笑みを浮かべて喝采を送った。

 部屋の窓からは、暖かな日の光が射し込むウィンターの険しい山脈が見えている。


 ウィンターとスプリングの激突から二ヶ月が経った。


 戦争を主導した二人の王が倒れた両国はあの場で即座に停戦。

 お互いの民を巻き込んだ全面戦争は避けられた。


 そして、その後どうなったかというと――。


「クスっ……本当に良くお似合いですよ。その様子ですと、ミセリア様もご準備はお済みになられたようですね」


「あ、ハッピー! お前ももう終わったのか? 服とか色々貸してくれてありがとな!」


「しかしよぉ、まさかウィンターとスプリングが連合国になるとはな……。オータムもサマーもよく認めたもんだぜ」


「本当に凄いよね! それもこれも、ハッピーとミセリアがすぐに仲良しになったからこそだと思うの!」


「オータムはウィンターとの勝ち目のない侵略戦争を無条件で回避できるし、サマーは元より国家間の争いに興味などないからな。野心に燃える王二人も〝退位〟したわけだし、むしろ願ったり叶ったりだろう!」


「ハッピー様もミセリアさんも、どちらもとても素敵な方ですから。きっと良い王様と女王様になると思いますっ!」


 そう。

 結局ヨルゲン王とボルゲン王が玉座に座り続けることはなかった。

 

 溢れ出した福の神と疫病神の力に当てられた二人は一気に老け込み、今では隠居して大人しくしている。


 ハッピー様の話ではヨルゲン王もすっかりやる気をなくし、年相応のおじいちゃんになってしまったそうだが……皮肉にも力と野望を失ったヨルゲン王は、少しずつではあるがハッピー様のことを福の神ではなく、かつてのように〝一人の愛娘〟として接するようになっているらしい。


 元よりヨルゲン王にはハッピー様しか世継ぎがおらず、ウィンターのボルゲン王にも子はいなかった。


 両国の国民も、国がハッピー様とミセリアの力で支えられていたことは重々承知していたので、二人が両国の次の王位に就くことにも反対意見は起きなかった。


 まあ、あったとしても福の神や疫病神に正面切って戦いを挑んで勝てるとは思えないが……こういった小さな理由とは別に、もっと大きな理由があるのだ。


「私の力とミセリア様の力……私達が共に力を合わせれば、きっと今までよりも多くの皆様の暮らしを豊かにできると思うのです」


「オレの力をハッピーが抑えて、オレの力でハッピーの力を抑える。それでもしオレたちが離ればなれになれば、すぐに力のバランスが崩れて酷い事になる……これなら、ハッピーの力を自分のためだけに使おうって奴もそうそう手出しできないだろ」


「しかもハッピー様がミセリアと一緒にウィンターにも来てくれるようになるから、ウィンターも今までよりきっといい場所になるよね! いいことしかないじゃん!」


「ケッ! そんなすぐに何もかも上手くいくかよ! たしかに今までのヤベェ王の時よりはマシになるかもしれねぇが、あの王の傍で甘い汁を吸ってた奴らにとっちゃ大迷惑だ。むしろ、大変なのはこれからだろうぜ」


「ハーーーッハッハッハ! そのためにこそ私達がいるのだ! 二人を傷つけようとする愚か者には、このスプリング・ウィンター連合国の筆頭騎士、エステル・バレットストームが鉄槌を下してくれる!」


「僕も協力しますっ。僕の力はお二人のように色々なことはできないけど……それでも、僕に出来ることがあればなんでもやりますっ!」


「ああ! オレもハッピーを絶対に守るよ! 疫病神だとか福の神だとか……オレたちの幸せを決めるのはそういうのじゃないって、ユレルミとハッピーに教えて貰ったからさ!」


「はい、私もそう思います。そして、ありがとうございますミセリア様。皆様……!」


 そう言って、私達は新しい二人の統治者を前に勢いよく声を上げた。


 福の神と疫病神。幸福の神と不幸の神が一緒にいる。

 それはつまり、バラエーナのご両親から聞いた遙か昔の時代に戻ったと言うことなのだろう。


 あの話では、幸福の神と不幸の神は、自分たちだけでは上手くいかないと悟り、自分たちの行き過ぎた力を消し去る貧乏神……循環の神を生み出したという。


 しかし時既に遅く、神々は力尽きて倒れてしまった。

 必死に生み出した人々が、自らの力で立派に生きる世界を見ることはなかった。


 だけどどうだろう?


 今この場には、大昔に倒れたという神の力を持つ三人が揃っている。

 それも、共に手を取り合って……力を合わせて。


 そしてその暖かで力強い光景を見て、私はふと思う。


 神々はきっと、〝間に合っていた〟のだろうと。

 決して手遅れなどではなかったのだろうと。


 立派に自らの欠点を見つめ、生み出した命の行く末を思い。

 私達が生きていける世界を残してくれていた。


 だからこそ、私達は今こうして手を繋ぎ、笑い合っていられるのだと――。

 

「ですがその前に……国民の皆様への挨拶が終わったら、すぐにユレルミ様とエステルの結婚式をしないといけませんね。スプリングとウィンターのことで、ずっと延びてしまっていたのでしょう?」


「ああああああ!? た、たしかにすっかり忘れていましたっ! 最愛のユレルミとの結婚式を忘れるなど、このエステル一生の不覚ッ!」


「いいなそれ! やろうやろう! ハッピーがいればユレルミだってすっぽんぽんじゃないわけだし、今のうちにやったほうが良いって!」


「結婚式っ! 私ずっと見てみたかったの! ハッピー様もこう言ってるし、二人とも絶対やらないとダメだよっ!」


「キエエエエエエ!? み、認めねぇ……! 認めねぇぞ俺は……! かくなる上は、結婚式の途中でユレルミたんを略奪するしかねぇ……ッッ!」


「僕とエステルさんの、結婚式……? それも、皆さんと一緒になんて……。僕、こんなに幸せでいいんでしょうか……っ?」


 ハッピー様の提案を聞いたユレルミは、思わず瞳を潤ませて驚いた表情を見せる。

 私はそんなユレルミに笑みを向けると、そのままありったけの愛を込めて優しく抱きしめた。


「もちろんだ。この世に幸せになってはいけない者などいない……。私もユレルミも……誰だって幸せになって良いのだっ!」


「……はいっ!」

 

 仲間達に見守られながら、私達はしっかりと互いの体を抱きしめ合う。


 今はハッピー様の力で服を着ているユレルミも、暫くすればまたすっぽんぽんになるだろう。


 大事なところに葉っぱだけをつけて。

 その葉っぱだって、すぐにどこかに飛んでいってしまう。


 だけど……そんな暮らしも幸せだ。


 なぜなら……そんなユレルミの隣には、同じくすっぽんぽんの私もずっと一緒にいるのだから――。



 ――――――

 ――――

 ――

 


 そして、それから数年後――――。



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