なんとかなりました!
「ぜぇ……っ! ぜぇ……!? なんじゃ……!? 一体何が起こったのじゃ!?」
「ゲホッ! ゲェホ……ッ! よ、ヨルゲンもスプリングの兵共もまだ生きているではないか……!? ミセリアの奴……しくじりおったか!?」
閃光の後。
ぶつかり合う幸福と不幸の力。
そしてそこに介入したユレルミの持つ循環の力。
三つの神の力の激突は辺り一帯に鮮烈な突風を巻き起こし、消えた。
「ん……!? ウィンターの兵士共が起き上がってくるぞ!? ええい、どうしたのじゃハッピー!? 倒れておる場合ではない、早く福の神の力で奴らをなんとかせい!」
「どこにおるミセリア!? 儂らの恨みはこの程度ではないはずじゃ! 今一度疫病神の力で、奴らを不幸のどん底に……!」
「無駄だ。ヨルゲン王にボルゲン王……貴方たちが頼みにする神の力は消えた」
「な……!? お前は、エステル!? し、しかもすっぽんぽんではないか!?」
「か、神の力が消えたとはどういうことじゃ!? それでは、儂らの復讐はどうなる!?」
お互いすっぽんぽんのまま、ユレルミと私は抱き合いながら空から降りていく。
驚くヨルゲン王とボルゲン王のすぐ傍では、ハッピー様とミセリアが気を失って倒れていた。
「エステルさんの言葉通りです。ハッピー様の福の神としての力も、ミセリアさんの疫病神の力も……どちらも僕の貧乏神の力で没収しました。これでもう、どの国が幸せになることも、不幸になることもありません」
「な……なな、なななな!? な、何を言っておるのだこの貧乏神は……!? ハッピーの……福の神の力が、消えたじゃと……? 儂を幸せにしてくれる、福の神様の力が……!?」
「ば、馬鹿な……!? そんなことをすれば、国力で劣るウィンターは絶対にスプリングに勝てんではないか……!? 恵まれた者共を、儂らと同じ不幸に引きずり込む計画が……!」
「僕はずっと思ってました。ハッピー様の力も、ミセリアさんの力も……形は違っても誰かの役に立ってるんだって。だからその力のせいで二人がどれだけ苦しんでいても……二人が力を必要とするみんな声に応えようとしてる間は、力を消したりしないって。だけど――」
そこまで言って、私を抱きしめるユレルミの手に力が入る。
かつてのユレルミなら、きっと涙を流しながら必死に思いを訴えたことだろう。
だが、今のユレルミの目に涙はない。
あるのはただ決意だけ。
まるでユレルミ自身が循環の神そのものとなったかのような、強い決意の光だけがあった。
「だけど……貴方たちはそんな二人の思いを最悪の形で裏切りましたっ! それだけじゃなく、沢山の兵隊さんも、スプリングやウィンターに住んでいるなんの関係もない皆さんまで巻き込んで……っ! だから、貴方たちが好き勝手に利用する幸福も不幸も……どちらも没収ですっ!」
「ぐ、ぐぐぐ……! おのれぇええ……貧乏神……! ゆ、許さん……許さんぞ……! よくも、ゆ、ゆる……さ……ん……アバッ……!?」
「あ、あがが……! わ、儂の幸せ……儂の……福の神様が消えた……? 貧乏神ごときに、消されたじゃと……? 嘘じゃ……そんな、そんなことが……アバッ……!」
二人の王はそれでもまだユレルミに向かって何かを言おうとしていたが……そこまでだった。
二人はまるで魂が抜けたかのように口から白い煙を吐くと、スプリングのヨルゲン王はふさふさだった髪が全部抜けてつるつるとなり、バッタリと倒れる。
そしてウィンターのボルゲン王も、がっしりと鍛えられていた肉体がしわしわとしなびて、やはりこちらもバッタリと倒れてしまった。
「な!? だ、大丈夫かヨルゲン王にボルゲン王!? 私はまだ何もしていないのだが!?」
「お二人とも、福の神の力と疫病神の力のぶつかり合いを間近で受けていましたから……他の兵隊の皆さんもそれで倒れていたので、とっくに限界だったんだと思います」
「そ、そうか……なら死んだわけではないのだな。それならば良かった! さすがに死なれたら色々と後味が悪いからな!」
戦場のど真ん中に降り立った私達は、ポックリ昇天してしまったかに見えたヨルゲン王に駆け寄る。
念のため脈を測ったりしてみたが、たしかに命に別状は無さそうだった。そして――。
「ユレルミ様、エステル……。これで、全て終わったのですね……」
「またユレルミに助けられちゃったな……。牢屋に入れられてる福の神を見たら、なんか俺を見てるみたいで、カッとなっちゃって……」
「姫様!? ミセリアも気がついたのだな!?」
「二人とも、ご無事で良かったですっ。さっきはすみませんでした。何も言わずに横から飛び込んじゃって……」
すっぽんぽんのままヨルゲン王の容態を確認する私達の前に、弱々しい足取りながら、しっかりと自分の力で立ち上がったハッピー様とミセリアが現れる。
すでにハッピー様を捕らえていた牢獄は激突の余波で破壊され、ハッピー様も自由の身になれたようだ。
そして、そうして現れた二人から感じる強大な力……それは私の魔力完全遮断とぶつかり、すっぽんぽんの私の肌にピリピリとした感覚を伝えた。それはつまり――。
「私達の力……〝消さなかった〟のですね」
「はい。王様にはああ言いましたけど……ハッピー様の福の神も、ミセリアさんの疫病神も、どちらも没収してません。僕が没収したのは、ぶつかり合って世界中に溢れたお二人の力だけです」
「でも、どうして消さなかったんだ? 正直……ずっと幸せに暮らしてるんだろうって信じてた福の神のこいつでも〝あんな目〟に遭ってるのを見て、もう俺の力ごとユレルミに消されても仕方ないかって、あの時は思ってたのに……」
「ふっふっふ……! 私は最初から分かっていたぞっ! 最初からユレルミに二人の力を消すつもりなどないとな! なんといっても妻だからっ! 妻だからッッ!」
そう。
ユレルミは二人の力を消してなどいなかった。
だって今のユレルミは、もう知っているのだから。
「福の神の力も、疫病神の力も……そして僕の貧乏神も。この力を必要としている人は、やっぱりどこかにいるんです。僕はそれを、大好きなエステルさんに教えて貰いましたから……っ!」
ユレルミはそう言って、もうこれ以上ないほど密着している私の身をさらに抱き寄せてくれた。
今まで何度も見たユレルミの大きくて丸い瞳。
その目にはもう涙はなくて……とても優しくて力強い、満面の笑みだけが浮かんでいた――。




